3月8日、上海市で行われたデジタル人民元の試行試験の様子。(Photo by STR/AFP via Getty Images)

どこで何に使ったか一目瞭然…中国の地方政府、5月から「デジタル人民元」導入

中国の一部地方政府で5月から職員給与支払いに、中国人民銀行が数年前より進めてきたデジタル法定通貨「デジタル人民元(e-CNY、数字人民币)」が使用される。これにより個人の監視はますます進むと専門家らは警鐘を鳴らす。

江蘇省常熟市政府は今月20日来月からの公務員や国営企業職員への給与を全額「デジタル人民元」で支払うと公表。地方政府としての使用は初めてとなる。

忍び寄る脅威 

デジタル人民元は通貨としての価値は従来の人民元と変わらず、消費者にとっては他のモバイル決済やクレジットカードを使用するのと同様の手順となる。デジタルウォレット同士で送金可能だ。

利点は主に加盟店側にある。「アリペイ」や「WeChat Pay」といったキャッシュレス決済のように手数料が発生しないほか、ブルートゥースのように近接通信(NFC)技術を通じてオフラインの環境でも使えるといった強みがある。

いっぽう、「よりお得でより便利」なデジタル人民元を推進する中国当局の狙いは、個人情報の追跡や監視を強化することだと、複数の専門家やシンクタンクが指摘している。

「政府が望まない言動をすれば、貯金を差し押さえることができるかもしれない。これでは一種の政治弾圧もしくは経済的な略奪になる」と時事評論家の唐浩氏はその危うさを自身の動画番組「世界的十字路口」で解説した。

米シンクタンク・新アメリカ安全保障センター(CNAS)も1月に発表したデジタル人民元に関する報告書のなかで、デジタル人民元が「権威主義国家の新たな統治ツールになる」と警鐘を鳴らしている。

ファンド運営会社ヘイマン・キャピタル・マネジメントの創業者カイル・バス氏は、エポックタイムズのインタビュー番組「米国思想リーダー」に出演した際に「これは単なるデジタル決済アプリではない。所在地や名前、社会保障番号など、すべての個人情報を追跡するアプリだ」と取り上げていた。

唐浩氏も同様にこの問題を捉えている。デジタル人民元は中国共産党の中央銀行が発行しているため、すべてのユーザーの個人情報やデータは中央銀行に集まる。

「いつも監視カメラを持ち歩いているかのようなもの。中国共産党は私たちの生活習慣や居場所、訪れた場所、朝食に何を食べたのか、仕事終わりにどの交通手段で帰るのか、休日にどこで食事や休暇を過ごすのか、すべて把握できるようになる」と指摘した。

前出のバス氏はまた、デジタル人民元を世界に広めるのには、米ドル依存度を下げて米ドル基軸体制を覆す狙いがあるという。

「中国政府には信用がないので、人民元が米ドルに置き換わる日はまだ遠い」と唐浩氏は述べる。世界の中央銀行の外貨準備の約60%が米ドルで、人民元はわずか2.7%だ。

そのいっぽうで、中国共産党は国際決済システム「SWIFT」を通さない、一帯一路参加国圏による国際決済システムの構築を目指している。これを発展させれば、デジタル人民元を通じてイランや北朝鮮、キューバなど独裁政権への送金にも利便性が高まると分析した。

デジタル人民元の流通は、単に中国人が監視・弾圧されるだけでなく、中国共産党が世界に向けて行う「デジタル浸透」、「デジタル覇権」といった国際的な安全保障の問題にも関わってくるため、世界は警戒感を高めるべきだと唐浩氏は提言した。

関連記事
このほど、雲南省の街中で、交通警察が走る車を止めるために、「当り屋まがい」なことをしたことがわかった。
元第8空軍司令官のE・G・バック・シューラー氏は、「Defense post」に掲載された最近の記事で、米国の自動車メーカーにガソリン車の販売を中止させ、電気自動車(EV)への切り替えを強制することを目的としたEPAの新しい排ガス規制は、米国を中国の言いなりにするだろう」と警告した。
2024年5月1日~3日、中国湖北省随州市の数千人の住民は政府による「葬儀改革政策」の廃止を求めて街に出た。
2024年5月8日夕方、中国河南省信陽市で小学生41人が学校で夕食を摂った後に嘔吐と下痢などの食中毒を疑う症状が現れたことがわかった。
2024年5月9日、「小学校2年の息子が学校の昼休み時間に異常な死に方を遂げた、学校に説明を求めるも現地公安によって殴打された」と訴える母親の動画や画像が中国のネット上で検閲に遭っている。(母親が発信した動画より)