在米の彫刻家・陳維明氏が製作した「鉄の鎖の女性」の彫像。首に鎖が巻かれ、光を失った目で悲しそうに立つ女性の像の背後には、それを押しつぶすように巨大な「中国」の文字がある。(同氏のツイッターより)

「母の日」に思い出す、鎖の女性の涙 世界はあなたを見捨てない!

日本では、法的に定められた国民の祝日ではないが、毎年5月の第2日曜日は「母の日」として定着している。中国も同じく、この日を「母の日(母亲节)」としている。

中国では昨年2月、首に鉄の鎖が巻かれ、自由を奪われ続けた「鎖の女性」が発見された。以来、この女性は「中国の女性の苦難」を象徴するシンボルとなった。

毎年「母の日」に思い出す、虐待された女性

この「鉄の鎖の女性」事件とは、中国江蘇省の農村で昨年2月、少女の頃に拉致され人身売買されてきたと見られる中年女性が発見された事件である。

ボランティアの人権団体に発見された当時、女性は首に鎖が巻かれた状態で、氷点下に冷え込んだ、離れの小屋に監禁されていた。

女性は、8人(またはそれ以上)の子供を「生まされた」だけでなく、夫の了解または黙認のうえで、地元政府の複数の役人に凌辱されたと見られている。

当時は「一人っ子政策」のもと、名目上は産児数が制限されていた。多産を役所に見逃してもらうためには高額の賄賂が不可欠であるが、そのような金をもつはずもない夫は、代価として自分の妻を役人へ「貸した」可能性が濃厚だからである。

そうした想像を絶する虐待のなかで、この女性は、精神に異常をきたしてしまった。

昨年5月の「母の日」に、華人圏では「鎖の女性」に対する「祝福(日本語のお祝いではなく、幸福になるよう祈ること)」に加えて、当局の不作為を糾弾する声が洪水のごとく寄せられた。

今年も「母の日(5月14日)」を迎えるにあたり、ネット上には昨年同様に「鉄の鎖の女性」の顔が至る所に見られた。

在米の華人彫刻家による、渾身の作品

今年、在米彫刻家の陳維明氏は、この「鉄の鎖の女性」の彫像を製作した。首に鎖が巻かれ、光を失った目で悲しそうに立つ女性の像の背後には、それを押しつぶすように巨大な「中国」の文字がある。

今年の「母の日」を前にして、陳氏は「あなた(鎖の女性)のことを忘れたら、私たちの心が痛む」とツイートしている。陳氏は先月も、彫像がまもなく完成するとして「中国人女性の苦難を象徴するこの像を、社会に捧げる」と投稿している。

 

 

「この世界は私を捨てた」

昨年2月、ボランティア団体によって「鎖の女性」が発見されたとき、撮られた動画のなかで女性は「这个世界不要俺了」と訴えていた。邦訳すると「この世界は私を捨てた」となる。

あまりにもひどい虐待のなかで、ついに精神を病んでしまった彼女の口から出たこの言葉に、多くの人は衝撃を受け、助けてあげられなかったことに心を痛めた。

当時、ネット上では「世界はあなたを捨てていない」と書かれたカードを写真に撮り、SNSなどに投稿することがブームにもなった。

しかし、こうした人々の声援は、おそらく今も彼女には届いていない。

今年4月、江蘇省徐州市中級人民法院(地裁)は「鎖の女性」を不当に拘束し虐待した夫に懲役9年の刑、女性の誘拐に関わった5人にもそれぞれ懲役8年~13年の刑を言い渡した。そうすることで「この事件は、正式にピリオドが打たれた」とされた。

しかし、女性の本当の身元については未だに論争が続いており、当局が主張する女性の身元を疑問視する声が民間では根強い。

助けてあげられなくて「ごめんね、李瑩」

救出された女性は、事件が明るみに出た後も、当局によって精神病院に軟禁されたと見られている。「順調に回復している」という趣旨の発表はあったが、当局が本人に真実を語らせることはしていない。彼女は今も、外界と隔絶されたままなのだ。

今年の「母の日」に伴う「鎖の女性」関連の投稿には、次のようなものがあった。

「結論がないからこそ、彼女は、この時代における最も重い結論になった」

「14億人の叫びがあっても、彼女に巻きついた鎖を解けなかった」

「家に連れて帰れなくて、ごめんね李瑩(対不起、李瑩)」

「李瑩」は、鎖の女性の本名と見られている。李瑩さんが四川省で行方不明になったときは13歳。英語が好きな、元気な中学生だった。

「ごめんね!李瑩(対不起、李瑩)」と書かれた画像。(中国のSNSより)

 

(天津美術学院の学生が「自由」の字などを使って製作した「鎖の女性」の壁画。この壁画は、まもなく当局によって消され、製作に関わった学生も警察に拘束されたとされている)

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