アングル:ハリウッドのスト、売り出し中の若手俳優らの芽摘む
[ロサンゼルス 29日 ロイター] – セリーナ・カシミールさん(20)は俳優としてのキャリアについて、常に「スピリチュアルで、愛情と喜びに溢れる仕事」と捉えてきた。だが7月、ハリウッドで俳優らによるストが始まって以来、演技からすっかり遠ざかってしまっている。
ハリウッドでは、63年ぶりに脚本家、俳優の両組合による同時ストが進行中だ。全米で大半の映画製作が中断を余儀なくされ、海外でも一部に影響が出ている。仕事が失われたことで、映画産業に依存する人々には深刻な経済的ダメージが及んでいる。
カシミールさんは「ロサンゼルスにいると、本当に気が滅入ってくる」と話す。コロラドに移り、仕事ではなく趣味として演技を続けようと決めた。
「コロラドに引っ越すのはとても大きな決断だった。ある意味、諦めるということのように思えるから」とカシミールさんは続ける。
カシミールさんは今後も俳優としてのオーディションを受ける予定で、必要であればロサンゼルスには行くつもりだが、役者として経済的な安定性を得られるようになるとはあまり期待していない。
演技を始めたのはティーンエージャーの頃だ。レッスンを受け、ようやくテレビや映画、舞台の仕事をもらえるようになり、舞台芸術の分野で学士号を取得した。
演じることは今でも好きだが、今は家賃や光熱費を払い、借金を背負わないでいられるという「心の平安」の方が優先だ。
カシミールさんに演技を指導したことのあるジェシカ・ペインさんは、進行中の同時ストによって教え子や売り出し中の俳優が夢を阻まれるという、似たような話をたくさん見聞きしている。
「ストによって、ハリウッドは全てが完全に停止してしまった」とペインさんは言う。
生徒の中にも、せっかく大きな役をつかんだのにストのせいで製作が延期になってしまった例があると語る。
「生徒らのキャリアはようやく軌道に乗ったところなのに、完全にストップしてしまった」
<キャリア中断で意気消沈>
演技指導者のナタリア・カステラノスさんは、スト開始後の異変にすぐに気づいた。
「レッスンも途絶えたし、教室に来る生徒も大幅に減った。積極的にオーディションを受けたり、ギャラを稼いだりすることができなくなれば、レッスン料を払うのは無理だ」
俳優という職業はこれまでも、飛び込むのが難しい世界だったが、まだ無名の俳優らにとって、ストが新たな障害を生み出してしまった。
カステラノスさんがロサンゼルスに来たのは約15年前。CMやナレーション、テレビドラマや映画での経験を活かして演技の個人レッスンの指導者となり、俳優の卵たちの指導に当たってきた。
ストリーミング配信による人気ミステリードラマ「ボッシュ」にレギュラー出演していたこともあるカステラノスさん。生徒数が減り、後払いの月謝からの収入も減りつつある中で、減収分を補うために新たな仕事を探している。
カステラノスさんは全米映画俳優組合の交渉委員会に参加し、全米映画テレビ制作者協会との合意に向けて取り組んでいる。新たな仕事を探すとしても、この委員会での活動と両立可能であることが必須条件だ。
生徒だったクリスタル・アルバレスさん(32)も、始まったばかりの自分のキャリアに対するストの影響を実感している。
モデルから俳優に転身したアルバレスさんは、たくさんの仲間が、チャンスが失われたことに意気消沈していくのを目にしてきた。「『どうしたらいいのか分からない』とひどく落ち込んでいる友人もいる」と言う。
だが、アルバレスさん自身の演技に対する意欲は衰えていない。
「私の目標は常に、俳優になることだった。これからもずっとそれは変わらない」
(Danielle Broadway記者 翻訳:エァクレーレン)