どんな時でも子供を騙してはならない。親は、子供の一番身近にいる手本であり、親の一つ一つの言動が子供に大きな影響を与え、子供はそれをまねようとします。だから、親は、子供の前では特に気をつけて行動しなければなりません。

ある日、曽子（孔子の門弟、前505‐前435）の妻が町へ行こうとしたところ、幼い息子が一緒に行きたいと泣き出しました。そこで妻は子供をあやして、「お家で待っててね。帰ったら、豚を殺してご馳走してあげるから」と言って出かけます。

妻が町から帰ると、夫の曽子が本当に豚を殺そうとしていました。妻はあわてて止め、「私は、あの子をあやすために、冗談を言っただけなのよ」と言いました。

すると、曽子は、「子供に冗談など言ってはだめだ。子供は幼いし知識もない。いつも、親の真似をし、親の言うことを聞くものだ。今日お前があの子を騙したとしたら、あの子に人を騙すことを教えたことになる。母親が子供を騙したら、その子は自分の母親を信じられなくなる。これでは決して子供を教え諭すことはできない」と言って、本当にその豚を殺し、息子にご馳走してやったのです。

曽子は、親たるもの、子供をしつけるにあたって、身を持って手本を示すことこそが成功の秘訣であるということがわかっていました。親の中には、子供相手に何も本気で話をする必要などないと考えている人がいますが、そういう人は、子供のしつけというものが分かっておらず、子どもをだめにしてしまうのです。

『蘇氏家語』には、「孔子の家の子は人を罵ることを知らず、曽子の家の子は腹を立てることを知らない。それは、生まれた時から、親に正しく教え諭されたからである」とある。曽子の子供のしつけは理にかなっており、古来より人々に賞賛されました。

（『韓非子・外儲説左上』の故事より）