精神障害の統計に、前例のない危険な変化

デジタルネイティブを中心に蔓延する「心の不調」が米国人の心を静かに蝕む(下)

4種の主な精神障害

ノッティンガム・トレント大学の教授である心理学者のダリア・クス氏とマーク・グリフィス氏は、問題のあるインターネット・ゲーム等の使用の影響を研究する第一線の研究者だ。

クスとグリフィスの両氏は、インターネット依存症の患者を治療している26人の心理療法士を対象に調査した結果、彼らの患者のメンタルヘルス上の問題は、間違いなくネットやゲームが原因であると答えた。

ある心理療法士は、「彼らはネットやゲームを使い始める前までは、社交不安障害や全般性不安障害ではなかった」と報告している。

サスマン博士によれば、依存症を併発している場合、依存症に対処する前にメンタルヘルスの問題を治療するのは不可能であることが多いという。

うつ病

長時間にわたりテレビ、ゲーム、ネットなどを見ていると、ドーパミンが長期的に放出され続けるため、画面を見るのを止めるとドーパミンレベルの急降下が起きる。ドーパミンレベルの低下は、イライラして怒りやすい気分やうつ状態と関係している。

絶え間なく刺激を受けることで、身体はやがて快楽の感受に関わる脳の神経回路の感度を低くして、自らを安定させようとする。そうなると、その状態で同程度の快楽を得るためには、より刺激的なコンテンツを見るか、より多く見る必要がある。より刺激的な内容とは、より生々しく、激しく、暴力的なものである。そして画面から離れると、以前にも増して他のことに無関心で、気分が悪くなる。

当然ながら、人が本来感じていた対人的な楽しみのような、刺激の少ない活動にはあまり興味を示さなくなる。

テレビ、ゲーム、ネットなどの使用は、メラトニン分泌の低下とも関連しており、睡眠を妨げ、うつ病を含むさまざまな気分障害にもつながる可能性がある。

不安と過敏

画面を見ていると、常に注意が散漫になる。

ソーシャルメディアやインターネットの際限ない閲覧は、注意を次から次へとそらすため、注意の持続時間を短く小間切れにしてしまう。心理学の博士号を持つグロリア・マーク研究員は、心理学を扱うポッドキャスト番組『Speaking of Psychology』のインタビューで、「私たちの研究では、注意の切り替え頻度とストレスの間に相関関係があることがわかりました」と語った。

彼女が言うには、注意の切り替えが早ければ早いほど、心拍モニターや自己申告によって測定されるストレスは高くなる。

画面からの刺激もまた、「闘争・逃走反応」を活性化させ、アドレナリンを放出させる。アドレナリンがどっと流れてくると、不安感や強い興奮状態を引き起こす。発達期作業療法士で、テクノロジーが人間の発達、行動、生産性に与える影響を批判するクリス・ローワン女史によれば、この不安あるいは興奮状態が続くと、人はアドレナリン枯渇状態に陥る可能性があると言う。

アドレナリンが枯渇すると、代わりにコルチゾールが分泌されるが、コルチゾールは、不安や大うつ病性障害と関連するストレスホルモンである。

ADHD

画面の乱用と関連する主な障害にADHDがある。

公衆衛生、問題のあるゲーム使用、パーソナルテクノロジーの過剰使用を専門とする眼科医のアンドリュー・ドアン博士によれば、脳は鍛えることのできる筋肉のようなものだという。

画面上の娯楽は非常に気が散りやすいため、画面に向かっているときは、集中力を鍛える時間を犠牲にしている。時間のかかる宿題を終わらせる、精神的に負荷のかかる課題をこなすなどのためには集中力が必要だ。

長時間の画面使用は、衝動制御や論理的思考に重要な前頭前皮質の薄化とも関連している。ADHDの人が興味のない仕事をやり遂げるのが難しくなるのもこのためだ。

自閉症

画面を見ている時、人は孤立状態にある。

人がゲームやソーシャルメディア、インターネットに夢中になっている間に問題となるのは、「何ができていないか」だとカースティング氏は言う。

親であれば、子育てや子供とのつながりを築くことができていないかもしれない。子供であれば、遊びや社交の機会を得られていないかもしれない。子供がそうした機会を失えば、社会性の発達が阻害され、自閉症の症状に似た引きこもり、反社会的な行動、不安な状態をもたらしうる。

ダンクリー博士とサスマン博士は、問題のあるゲームやインターネットなどの使用とメンタルヘルス上の問題の形成との関係は、双方向的な可能性があると論じている。つまり、自閉症や自閉症に似た症状のある人は、社会のなかで不安な状況を避けるために画面に依存することがあるが、社会性を身につける訓練が少なくなるほど、さらに社会から遠ざかり、引きこもりがちになるというのだ。

画面を避けるのは「バーで水を飲む」ようなもの

問題となっているスマホやゲームなどの使用は子供に限ったことではない。生産性、依存症、テクノロジーの使い過ぎ、メディア・リテラシー・プログラム、学校環境デザインなどをテーマに400以上のワークショップを開催してきたローワンさんによれば、親が子共を画面に向かわせることもあるという。

「スマホやゲームの使用を適切に管理している人は手を挙げてください」と、彼女はあるワークショップで大人たちに問いかけた。参加者約500人のうち、手を挙げたのは10人に満たなかった。

臨床心理学者であり教育者でもあるキャサリン・シュタイナー・アデア女史の研究でも、子供たちが画面と競って、親の注意を奪い合うという状況が増えていることが示されている。親が常に携帯電話をチェックしているため、無視されていると感じている子供もいると報告されている。

親自身がスマホ等の使用に無意識だったり、コントロールできていなかったりする場合、子供にデジタル機器の使用制限を設けるのが難しいこともある。

スマホやゲーム、テレビをベビーシッター代わりにする親もいる。そのため、子供は家族よりもそれらの画面を優先し、親を後回しにすることがある、とローゼンフェルド博士は言う。

この現象はアルファ世代に反映されている。この世代の子供たちに共通する問題は、しつけがなっていないことである。親はそのことにストレスを感じるが、子供がかんしゃくを起こしても画面を見せることでしか落ち着かせられない。

学校や職場のデジタル化も、スマホなどの機器の使用を促進している。

娯楽がクリックひとつで手に入ることが多いので、サスマン博士は現在の環境においてデジタル機器使用を減らす難しさを「バーで水を飲むようなもの」と語った。

ローゼンフェルド博士は、このような依存症から回復できるかという質問に対して、最も重要な要素は、その人を気遣い、回復のためにあらゆることを喜んでしてくれる愛情深い家族がいることだと答えた。

しかし、親も依存症になっていて、それゆえ子供の依存をさほど問題視しないという新しい世代の家族はどうなるだろうか?

ローゼンフェルド博士は、「精神分析医が助けられるような状況ではありません」と沈痛な面持ちで表現した。

ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。主に新型コロナウイルス感染症や医療・健康に関する記事を担当している。メルボルン大学で生物医学の学士号を取得。