【企業の働き方改革に関する実態調査】
・子どもを産み育てたいと思える理想的な労働時間は1日「5時間以上~7時間未満」
・「管理職になりたいと思えるようになるために必要と考えるもの」について、30代以下の女性における1位は「労働時間が1日6時間程度」
・離職率が低下した企業が実践していた取り組みで最も多かったのは「各部署で今後の働き方に関する議論の時間の設定」(43.6%)
・採用がスムーズになった企業が実践していた取り組みで、最多は「勤務間インターバル制度の導入」と「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」(それぞれ38.1%)
・2023年度内に取り組んだ働き方改革の内容で、昨年度から最も増加した取り組みは「勤務間インターバル制度の導入」(24.5%、昨年比+7.2%)
調査サマリーは弊社HPをご確認ください。
https://work-life-b.co.jp/20240322_27971.html
2006年創業以来、これまでに働き方改革コンサルティングを3,000社以上に提供してきた株式会社ワーク・ライフバランスは、2024年1月に「第5回働き方改革に関するアンケート」を実施し、このほど調査結果をまとめました。
本調査は、2019年度より継続しており、働き方改革をより推進していくことを目的に、働き方改革に効果的な施策や課題、新たな環境変化への対応方法といった知恵を探るべく、全国の20代以上のビジネスパーソンを対象に働き方改革の実態について調査したものです。
<調査結果 詳細>
1. 「子どもを産み育てたい(「子どもがすでにいたとしてもさらに持ちたい」を含む)」と思える理想的な労働時間は1日「5時間以上~7時間未満」だった。現行の労働基準法第32条および第40条では、法定労働時間が1週間に40時間以内・1日に8時間以内と定められているが、少子化対策を考えると基準となる法定労働時間のさらなる短縮や時間外労働に対する割増賃金率の増加が求められることが推測される。
「子どもを産み育てたい(子どもがすでにいたとしてもさらに持ちたい、を含む)」と思える理想的な労働時間は1日「5時間以上~7時間未満」という結果となりました。
労働時間を短くすればするほどよい、というわけではなく、理想の労働時間が「5時間未満」であった場合、追加で欲しい子どもの数は比較的少なく、子どもをさらに欲しいと思えるためには、適度な労働時間(により必要な収入を自力で得られる自信を持てること)が求められていることが推測できます。
「7~8時間未満」や「8時間以上」の労働時間においては、子どもを追加で持ちたいと考える人の数は少なくなっています。
現行の労働基準法第32条および第40条では、法定労働時間が1週間に40時間以内、1日に8時間以内と定められていますが、少子化対策を考えると基準となる法定労働時間のさらなる短縮が求められることが推測されます。フランスでは2000年にオブリー法2により、週35時間労働制に移行し、出生率が大幅に伸びています。
法定労働時間の短縮のためには、時間外労働に対する割増賃金率を現行の1.25倍から、他の先進国と同程度の1.5倍に変更するなどして、労働時間の抑制をすることが対処法として考えられます。また、そうした政策により現在、長時間働かざるを得ない人の仕事が、5時間に満たない労働時間で働いている非正規の労働者に移ることで、子育てができるだけの収入を得ることが出来ることも考えられます。
2. 「管理職になりたいと思えるようになるために必要と考えるもの」の30代以下の女性における1位は「労働時間が1日6時間程度」だった。すべての性別・年代でみると1位は「適切な評価がある」(女性:53.6%、男性:57.4%)だった。昨今注目される女性活躍推進では、適切な評価があることに加え、適切な労働時間で働くことが昇進意欲に関係することが示唆された。
管理職になりたいと思えるようになるために必要と考えるものの1位は、すべての性別・年代を総合してみると「適切な評価がある」(女性:53.6%、男性:57.4%)でしたが、年代別にみると30代以下の女性においては、「労働時間が1日6時間程度」が1位になっています。
これより、幼児の子育て期を過ごす30代以下で、特に家事育児時間の多い傾向がある女性においては、長時間労働が管理職になる大きなハードルであることが考えられます。昨今注目される女性活躍推進には、適切な評価があることに加え、適切な労働時間が影響を持つ可能性が高いことがわかりました。
一方、30代以下の男性においては、「労働時間が1日6時間程度」よりも「適切な評価がある」の割合が大きく、管理職になるための労働時間に対しての課題感は女性に比べて小さいことがわかります。その背景には、女性へ家事・育児の負担がのしかかっていることが考えられ、性別役割分担意識の解消のための行動、例えば男性育休取得促進などが望まれます。
また、「適切な評価」については、それを伝えるための面談における上司のコミュニケーションスキルが重要です。評価そのものは適切に行っているにもかかわらず、多様な背景を持つ部下に正しく伝えスキルがないために、部下のモチベーションの低下や意欲の減少を引き起こすことを防ぐために、上司側のコミュニケーションスキル研修の機会を設定するなどの取組みが求められます。特に女性活躍推進においては、本人の抱える私生活の事情を共有できているケースが少ないことが考えられるため、ダイアログ(少人数でしっかりと議論する場)などを設定し、コミュニケーションの量・質を担保することが肝要です。
3. 離職率が低下した企業が実践していた取り組みで最も多かったのは「各部署で今後の働き方に関する議論の時間の設定」(43.6%)だった。「情報共有の仕組みづくり」(40.0%)が次点となっており、働き方改革の議論が職場で行われていることや属人化の防止が離職につながることが示唆された。
離職率が低下した企業が実践していた取り組みで最も多かったのは「各部署で今後の働き方に関する議論の時間の設定」(43.6%)でした。今後の働き方に関して、主に働き方の課題の解消のための議論をしているものと考えられます。離職につながるような「働きづらさ」は個人だけで解決できる原因であることは少なく、職場の合意を得て仕事の進め方を改善できることで解決することが考えられます。従来から続いてきた慣習による仕事の進め方を見直す議論を進めている企業ほど職場が改善できている、あるいは将来的に改善の見通しがたっており希望が持てるため、離職が低下するものと考えられます。
「情報共有の仕組みづくり」(40.0%)が次点となっており、職場内での議論の時間を持ち、各自の属人化している仕事が共有されることが離職率の低下につながることも示唆されます。
働き方に関する議論の時間を具体的に機能させるには、2週間に一度、30分以上を確保し、部署・チームメンバーで「どのような働き方を実現したいか・ありたい姿はどのようなものか」を議論することが推奨されます。自分たちだけで議論すると視野が狭くなることも多くあるため、適切なタイミングで外部の専門家の知見を導入することも効果的です。
人手不足への対応として、「採用応募人数の増加」「生産性向上による余剰時間の創出」「離職率の低下」が考えられますが、「離職率の低下」は着目されにくい傾向があります。離職率を低くするために、働き方に関する議論をおこなうことで、仕事も家庭も両立して満足して働ける可能性が高くなり「採用応募人数が増加」し、働き方改革による「生産性向上による余剰時間の創出」にもつながります。まずは企業人材が入るバケツの中の離職という穴を可能な限り小さくし、人材という水で満たせるようにすることから初めるのがポイントです。
4. 2023年度内に取り組んだ働き方改革の内容の中で、昨年度から最も増加した取り組みは「勤務間インターバル制度の導入」(24.5%、昨年比+7.2%)、最も減少した取り組みは「時間単位有給など有給取得の取得強化」(19.0%、昨年比-6.1%)であり、最も多い取り組みは、「社員のスキルアップ等を目的とした研修の充実」(33.5%、昨年比+0.9%)だった。
2023年度内に取り組んだ働き方改革の内容の中で、最も多い取り組みは「社員のスキルアップ等を目的とした研修の充実」(33.5%、昨年比+0.9%)でした。次いで「管理職のマネジメントスキル向上を目的とした研修の充実」(28.6%、昨年比+4.0%)が多く、昨年と同様に社員のスキルアップに取り組んだ企業が多い結果であり、特に管理職のスキルに課題意識を持つ企業が多くなっていることがうかがえます。
次に増減率に着目すると、2022年度と比較して増えた「2023年度の特徴的な取組み」が分かります。最も増加率が高いのは「勤務間インターバル制度の導入」(24.5%、昨年比+7.2%)でした。2019年4月の労働基準法改正により、勤務終了から次の勤務開始まで一定の休息時間を設ける、勤務間インターバル制度の導入が企業の「努力義務」になりました。この法律には「5年後見直し」の規定があることから、5年後である2024年が勤務間インターバル制度についてさらに検討が進むことが考えられ、各企業がそれを先取りして導入に動いていることが分かります。
次いで増加率が高かったのは「社員同士のコミュニケーションの場づくり」(23.8%、昨年比+6.5%)であり、コロナ禍に進んだテレワークを維持しながらも、業務が円滑に進むスタイルを模索していることがうかがえます。また、各企業で進んでいる勤務間インターバル制度を運用しようとすると、一人が深夜まで資料を作りそのまま朝プレゼンするというような属人的な仕事のしかたは不可能になるため、スムーズな情報共有ができる、心理的安全性の高い場づくりを推進している可能性が考えられます。
反対に、最も減少幅が大きかった取り組みは「時間単位有給など有給取得の取得強化」(19.0%、昨年比-6.1%)や「在宅勤務など勤務場所の柔軟性」(21.8%、昨年比-5.4%)でした(「わからない/特にない」を除く)。「有給取得促進」については、既にこれまでも多くの企業で進められており、取得率が高まってきている可能性があります。「勤務場所の柔軟性」については、アフターコロナとなりオフィス出社への回帰の動きも珍しくないことが要因として考えられますが、依然として取り組む企業は多いことがわかります。
予期せぬ疫災・災害に対して、引き続き在宅勤務が機能する体制が不可欠であることから、対面・オンラインともに、日ごろからスムーズに仕事を受け渡せるための議論をチームで行うなど引き続き変化に対応できる準備を日頃から重ねておくことが重要だと考えられます。
増加率1位であった勤務間インターバル制度導入にあたっても、全員が一律の時間で勤務するという前提が通用しなくなるため、前日翌日の出退勤時間を管理するだけでなく、一週間・一か月単位で働き方を計画して職場全体で共有し、上司・同僚・後輩などチームで連携することが求められるでしょう。
5. 採用がスムーズになった企業が実践していた取り組みを集計したところ、最も多かった取り組みは「勤務間インターバル制度の導入」と「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」(それぞれ同じく38.1%)だった。
採用がスムーズになった企業が実践していた取り組みを集計したところ、最も多かった取り組みは「勤務間インターバル制度の導入」と「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」(それぞれ同じく38.1%)でした。
「勤務間インターバル制度の導入」に関しては、過度な残業がなく休息を確保できる企業であることを入社の前に確認できることが、応募者にとっては重要な要素になっていることが考えられます。長時間労働に陥りやすい業界や、深夜の業務がある業界ほど採用が難しい中で、その業界を目指す人材にとって11時間の休息を保証し、7時間睡眠のとれる生活を目指している企業姿勢を見せることが、同じ業界の中での大きな差別化になっていることが考えられます。
「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」が出来ている企業ほど、有休を取得したり、男性が育児休業を取得することが可能になるため、全社的な働きやすさを実現し、採用時にPRできていることが考えられます。1案件を1人で担当するのではなく複数で担当する体制づくりや、問い合わせ窓口を個人からチーム・部署に変更するなどの取組みが効果的でしょう。
採用において効果が高いと考えられる「基本給、賞与アップ」(17.6%)はワースト2位であり、トップの「勤務間インターバル制度の導入」と「情報共有の仕組みづくり」に対して2倍以上の差が開いていることが意外な結果でもありました。採用応募時には、給与面よりもサステナブルに健康に働き続けられる環境を重視した傾向があることが示唆されます。
6. 業績が向上した企業で実践していた取り組みで最も多かったのは「部門間連携を強化する取り組み」(45.1%)だった。反対に「残業削減に向けた数値目標の設置」(26.6%)や「不要な業務の削除」(24.5%)、「ノー残業デーや定時退社の促進」(24.0%)といった残業「時間」を短期的に減らそうとする取組は、業績向上に結びつかないことが示唆された。
業績が向上した企業で実践していた取り組みで最も多かったのは「部門間連携を強化する取り組み」(45.1%)でした。職場における課題の中でも根本的な課題は部署外に存在していることが多々あり、部署の枠を超えてその課題解決に取り組むことで、業績に向上つながることが示唆されます。
「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」(42.9%)が2位となっており、属人化の解消のための行動が業績の向上にもつながっている可能性があります。<調査結果 詳細>の5(採用がスムーズになった企業が実践していた取り組み)、3(離職率が低下した企業が実践していた取り組み)と同じくして、業績の向上にもつながる属人化の解消は、働き方改革における万能薬といっても過言ではない結果が導き出されました。
反対にワースト3位までの項目である「残業削減に向けた数値目標の設置」(26.6%)や「不要な業務の削除」(24.5%)、「ノー残業デーや定時退社の促進」(24.0%)といった取り組みは、業績向上には結びついていないという結果になっています。
マサチューセッツ工科大学組織学習センター共同創始者のダニエル・キム氏が提唱している「成功の循環(Theory of Success)」モデル (※2 本文下部に注釈)によれば、短期的な成果獲得を求めて職場に強いプレッシャーを与えると逆に成果が上がらなくなる、というバッドサイクルを生み出すといいます。短期的な成果獲得を求めれば求めるほど成果から遠ざかる結果となっており、それ単体を要求することは働き方改革における毒薬にもなりかねません。具体的な取り組み手法である「部門間連携の強化」「職場ごとの議論の場を作る」などとセットで方針を打ち出していくことがよいと考えられます。
7. 2024年に取り組む予定の施策または取り組みたいと思う施策は、1位が「残業削減」(27.0%、昨年比-2.8%)だった。昨年度からの増加率が大きかったのは「時間単位取得可能な有給制度の導入」(19.4%、昨年比+4.6%)や「インターバル制度の導入」(14.6%、昨年比+3.9%)、「男性の育児休業の取得・促進」(23.4%、昨年比+3.0%)であり、さらに仕事と家庭の両立を図りたいという労働者側の望みがうかがえる結果となった。
2024年に取り組む予定の施策または取り組みたいと思う施策は、1位が「残業削減」(27.0%、昨年比-2.8%)でした。<調査結果 詳細>の4でも指摘した通り、短期的な成果のみを求めることは却って成果を生み出せなくなることにもなりかねないため、より具体的な施策と合わせて推進していくことが望まれます。
昨年度からの増加率が大きかったのは「時間単位取得可能な有給制度の導入」(19.4%、昨年比+4.6%)や「インターバル制度の導入」(14.6%、昨年比+3.9%)、「男性の育児休業の取得・促進」(23.4%、昨年比+3.0%)でした。これらより、さらに仕事と家庭の両立を図りたいという労働者側の望みが伺える結果となりました。
特に、「男性の育児休業の取得・促進」については、国の調査によると23年度の取得率は17.13%で前年比3.16%増と取得する割合が年々高まっており、今後も「従業員が100人超の企業に男性による育児休業取得率の目標値設定と公表を義務付ける」 (※3 本文下部に注釈)といった法改正が検討されるなど、さらに注目されることが予想されます。男性の育児休業取得率を高めるために、企業は「育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施」や「自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供」を行うことが効果的 で、大企業だけでなく中小企業においても、24年度の早い時期から育休取得率・日数の向上に取り組むことが重要です。
【調査概要】
調査名:株式会社ワーク・ライフバランス/第5回働き方改革に関する実態調査(2023年度)
調査対象:インターネットリサーチモニター 年齢:20歳~70歳 性別:男女 居住地:全国
調査期間:2023年1月30日~2024年1月31日
調査方法:インターネット調査
有効回答数:有効回答数:事前調査 6,310件、本調査1,143件
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