最近の研究によると、塩は心臓病や脳卒中のリスクを高めると言われています。しかし実際には、人間は塩分なしでは生きていけません。では、どのような塩が体に良いのでしょうか。専門家が推奨する健康的な塩は「未精製の天然塩」です。
2023年3月31日に医学雑誌『ヨーロピアンハートジャーナル』に掲載された新しい論文は、スウェーデンの研究者によるもので、過剰な塩分摂取は、高血圧を招くだけでなく、動脈の詰まりにも関連しており、こうした動脈詰まりが心臓発作や脳卒中のリスクを増加させるとしています。
高血圧でなくても「過剰な塩分は控えましょう」
これは、塩分の過剰摂取と、心臓や脳への血流を遮断するプラークの蓄積による動脈の狭窄である「アテローム性動脈硬化症」との関連性を調査した最初の研究です。同論文の著者であるウプサラ大学臨床研究センターのジョナス・ウーピオ氏は「塩分摂取量が増加すれば、アテローム性動脈硬化のリスクも増加する」と述べています。
この研究には、50~64歳のスウェーデン人が1万人以上参加しています。研究者は、尿検査と心臓動脈の3D画像を用いて、塩分摂取量の増加とアテローム性動脈硬化との関連性を分析しました。
それによると、ナトリウム排泄量が千ミリグラム増加するごとに、動脈内のプラークの量が 3~4%増加することを発見しました。
この研究では、ナトリウム排泄量と動脈内プラーク量の関連性は正常な血圧レベルであっても存在します。つまり、高血圧を発症する前であっても、塩分が身体にダメージを与えている可能性があるのです。
同論文の著者であるウーピオ氏は、次のように述べています。
「興味深いことに、正常な血圧(140/90 mmHg未満)の人で心臓疾患の既往症のない参加者に限定した分析からも、この結果は一致しました。つまり、塩分摂取量をコントロールする必要があるのは高血圧や心臓病患者だけではないことを意味しています。またこれは、塩分摂取量を1日あたり小さじ1杯(約5g)までにするという世界保健機関(WHO)の提言を裏付けるものです」
WHOは、塩分摂取量を減らすことが、各国における健康増進において最も費用対効果が高い方法だとしています。これにより、WHO加盟国は2025年までに国民の塩分摂取量を30%削減することに同意しています。
「減塩」という教条主義 本当に正しいか?
しかし、薬学博士で心臓血管を専門とするジェームス・ディニコラントニオ氏を含め、その他の専門家のなかには「減塩せよ」の教条主義に対して反対を唱え、塩の悪いイメージを打破しようとしています。
ディニコラントニオ氏は、塩分制限は有害である可能性がある「塩が少なすぎれば、それだけ砂糖を欲しがるようになる。そのため、かえって体重増加や2型糖尿病になる可能性が増す」といいます。
実際のところ、ディニコラントニオ氏は「減塩食が、米国における高血圧患者増加の一因になっている」ということを、その著書『The Salt Fix(塩の定説)』のなかで述べています。同書の副題は「なぜ専門家は間違っていたのかーーもっと食べることで命を救う方法(Why the Experts Got It All Wrong–and How Eating More Might Save Your Life)」です。
また同氏は、人が通常1食あたり4グラム以上の塩分を摂取する韓国やその他の地域では、心臓病や高血圧の発症率が、かえって低いことも発見しています。
ディニコラントニオ氏は「多くの人は、必要な塩を摂ることによってエネルギー、睡眠、健康、さらには生殖能力や性機能までも改善する」と言います。
その上で、同氏は「教条的な減塩の定説がある限り、私たちの体は塩分不足になります。そうなると、砂糖を欲しがるようになり、最終的には多くの重要な栄養素が欠乏するという負のサイクルに陥ってしまうのです」と問題点を指摘します。
ディニコラントニオ氏は、特定の疾病がある人を除いて、たとえ塩分摂取がやや多目だったとしても体が処理してくれるため心配する必要はないと述べています。
同氏は、いわゆる減塩食は体とって危険なだけであり、健康への最適な処方ではない「自分の体を守るために、喉が渇いたら水を飲むのと同じように、必要な塩分を補給してほしい」といいます。
米国民の塩分摂取量を減らすため、米国食品医薬品局(FDA)は最近、日常の食品に「塩の代替品」を使用することを認める規定を提案しました。
2023年3月24日、FDAはチーズや冷凍エンドウ豆、さらには小麦粉からツナ缶に至るまで、20以上の日常食品について、摂取内容の変更を提案しています。
FDAの食品安全部門の主任、スーザン・メイン氏は「ほとんどの米国人は、ナトリウムを過剰に摂取しています。そのナトリウムの多くは、家庭での料理や食事の時に加えられたのではなく、加工食品や調理済み食品のなかに含まれているのです」と述べています。
ナトリウムはエネルギーの運び役
お薦めは「天然の海塩」
鍼灸師であり医学博士でもあるマーク・サーカス氏は、「岩塩と海塩は、体に異なる効果をもたらす可能性があるため、食用には区別して使うことが重要です」と語ります。
資源としての岩塩をもたない日本では、かつて瀬戸内地方の塩田で天日干しの塩作りが盛んに行われていました。しかし現在は、海水を原料とはするものの、イオン交換膜法によって工業的につくられる精製食塩がほとんどです。
いっぽう欧州や北米では、岩塩を原料とする食塩が主流です。そうした国では、採掘した岩塩を砕いて細かい結晶に加工します。こうした岩塩に対して、天日干しなどで作られる「未精製の海塩」には、マグネシウム、カルシウム、カリウムなど天然のミネラルがより多く含まれています。
サーカス氏は「こうした成分を含む未精製の天然塩は、体液量や血圧の調整に不可欠であるだけでなく、筋肉や神経のスムーズな働きを保つためにも必要です」と言います。
その上で同氏は、塩の重要性について、次のように語ります。
「ナトリウム(Na)は、エネルギーの伝達物質です。またナトリウムは神経系を介して大脳から筋肉へメッセージを送り、筋肉はその指示に従って動きます。腕を動かしたり、体のどこかの筋肉を縮めたい時、脳はナトリウム分子にメッセージを送ります。ナトリウム分子はそれをカリウム分子に渡し、またカリウム分子からナトリウム分子へメッセージを返すということを繰り返すことで、最終目的である筋肉の収縮をします。これをナトリウム・カリウムイオン交換といいます」
マーク・サーカス氏は、そうした点から「ナトリウムがなければ、体のどの部分も動かすことができない」必要量の塩分は必ず摂るべきであり、その際は特に「未精製の海塩」を薦めています。
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