肥満や慢性疾患のリスク要因として、見過ごされがちな「飲み物」に注目が集まっています。
18年間にわたる国際的な大規模研究によると、子供や青少年の砂糖入り飲料(SSB)の消費量が23%増加しており、肥満の増加と「同時に」進行していることが明らかになりました。世界中で肥満に関連する医療費は、2060年までに18兆ドルに達すると予測されており、甘い飲み物と健康リスクの関連性がますます強調されています。研究者たちは、砂糖入り飲料の消費を減らすための対策を強化する必要性を訴えています。
砂糖入り飲料の消費増加の傾向
この研究は2023年8月にBMJ誌に発表され、118か国で行われた450件の食事調査データを分析しました。調査対象は世界中の約290万人の3~19歳までの子供や青少年で、1990~2018年にかけて砂糖入り飲料の摂取状況を調査しました。調査データはリスクや疾患傾向が似ている7つの地域に分類されています。
砂糖入り飲料は「加糖され、1回の摂取で237グラムあたり50キロカロリー以上のエネルギーを含む飲み物」と定義され、ソフトドリンク、エナジードリンク、フルーツドリンク、自家製の甘い飲み物などが該当します。1回の摂取量は約248グラム(1カップ)と統一されました。
1990~2018年にかけて、185か国において子供や青少年の砂糖入り飲料の摂取量は全体で23%増加しており、世界全体で若者の10.4%が1週間に7回以上、砂糖入り飲料を飲んでいることが分かりました。地域ごとの違いも大きく、最も多く消費されているのはラテンアメリカとカリブ海地域で、週平均9.1回、最も少ないのは南アジアで週平均1.3回でした。
子供や青少年の人口が多い25か国のうち、最も砂糖入り飲料が消費されているのはメキシコで、次いでウガンダ、パキスタン、南アフリカ、アメリカが続いています。
アメリカの砂糖入り飲料の消費傾向
アメリカでは、2005年以降、若者の砂糖入り飲料の消費は減少傾向にあるものの、依然として高い水準を維持しています。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、60%以上の若者が毎日1回以上砂糖入り飲料を飲んでいると報告しています。また、2015~16年の調査では、アメリカの若者の摂取カロリーの約14%が加糖によるもので、その最大の要因が砂糖入り飲料であることが分かっています。
砂糖入り飲料がもたらす本当の代償
炭酸飲料やその他の甘い飲み物が長年にわたり高い人気を維持している理由は、その甘い味だけでなく、手頃な価格にもあります。例えば、355mlのソフトドリンク1缶の平均価格は、2018年5月時点では0.33ドルでしたが、2023年8月には0.58ドルにまで上昇しました。それでも、糖分が少ない飲み物と比べると依然として安価です。たとえば、プレバイオティクスソーダ「Poppi」は1缶あたり約2.50ドル、一般的なミネラルウォーターでも1本2.18ドルほどです。
しかし、砂糖入り飲料が健康や医療費に与える影響は、価格以上に大きな代償をもたらします。
肥満は多くの要因が絡む複雑な問題ですが、砂糖入り飲料の過剰摂取が肥満のリスクを高めることは広く知られています。米国疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、2017~2020年の間に、アメリカの成人の約42%が肥満という結果が出ています。この割合は1960年代初頭と比べて3倍以上に増加しています。
さらに、子供や若者の肥満率も急速に上昇しており、現在では2~19歳までの若者の約20%が肥満とされています。1980年にはこの割合がわずか5.5%であったことを考えると、その増加は深刻です。子供の頃に肥満である場合、そのまま成人しても肥満が続くことが多く、将来的な健康リスクも高まります。
肥満の増加は、経済的にも大きな負担を強いています。研究によると、砂糖入り飲料の消費増加と肥満率の上昇には密接な関連があり、「どの時期においても、子供や若者の砂糖入り飲料の摂取量と肥満率の間に明確な正の相関が見られる」と報告しています。さらに、肥満に関連する医療費は今後急増する見込みであり、2020年時点で約2兆ドルだった肥満関連の医療費が、2060年には18兆ドルに達すると予測しています。これは、世界経済全体の3%以上に相当する規模です。
砂糖入り飲料と肥満、慢性疾患の関係
健康やウェルネスに精通している企業「NAO」の健康アドバイザーであるクバニチ・タキルバシェフ医師は、次のように述べています。
「私が診察する患者の多くは、炭酸飲料や甘いエナジードリンクなどの砂糖入り飲料(SSB)の摂取が原因で、肥満に悩んでいるケースが目立ちます」
砂糖入り飲料はカロリーが非常に高い一方で、栄養価がほとんどなく、運動不足と組み合わさることで体重増加を引き起こしやすくなります。「また、これらの飲料に含まれる大量の糖分がインスリン感受性を低下させ、脂肪の蓄積を促進し、肥満を引き起こしやすくする」とクバニチ医師は指摘しています。
2022年1月号の『Nature Reviews Endocrinology』に掲載したレビューでは、砂糖入り飲料と肥満、慢性疾患との関係について多くのデータを分析しています。著者たちは、砂糖入り飲料による過剰なカロリー摂取が体重増加に繋がることを示しており、固形食品と飲み物を比較した際に、砂糖入り飲料では満腹感が得られにくく、急激な糖の吸収がインスリンの過剰分泌を引き起こすと指摘しています。また、脳の報酬系を刺激する可能性についても触れています。
著者たちは次のように述べています。「砂糖入り飲料を習慣的に摂取することで、体重増加だけでなく、2型糖尿病や心血管疾患、さらに一部のがんのリスクも高まることを、多くの研究で確認しています」
クバニチ医師もまた、「砂糖入り飲料の過剰摂取は、慢性疾患の発症と密接に関連していると考えています。大量の糖分がインスリン抵抗性を引き起こし、2型糖尿病のリスクを高める可能性があり、また、長期的な摂取は肝臓に負担をかけ、非アルコール性脂肪肝などの疾患に繋がるリスクもあります」と警鐘を鳴らしています。
砂糖入り飲料の消費を減らすために
アメリカの2020年~25年の食事ガイドラインでは、2歳以上の人に対して、1日に摂取するカロリーのうち加糖によるものを10%未満に抑えることを推奨しています。これは、1日2千キロカロリーの食事を摂る場合、加糖によるカロリーは200キロカロリー未満に抑えるべきということです。
たとえば、355mlのコカ・コーラ1缶に39グラムの砂糖が含まれており140キロカロリーあり、これは1日の推奨量の約70%に相当します。さらに、591mlのコーラには65グラムの砂糖が含まれ240キロカロリーあり、1日の推奨量を大幅に超えています。
砂糖入り飲料が体重増加や健康に及ぼす影響が広く認識されていることから、研究者たちはこれらの飲料の消費を減らすための強力な対策を提唱しています。
例えば、カリフォルニア州オークランドでは2017年7月に「砂糖入り飲料税」が導入され、隣接するリッチモンド市と比べて砂糖入り飲料の購入量が26.8%減少したことが報告されています。この減少は、長期的に医療費を大幅に削減し、健康改善にも寄与する可能性があるとしています。
さらに、2020年にアメリカ心臓協会が発表したミクロシミュレーション研究では、砂糖入り飲料に対する課税が今後10年間で与える可能性のある影響を分析しました。研究によると、この課税により砂糖入り飲料の消費が減少し、心血管疾患や糖尿病の発症を100万人以上防ぐことができ、さらに調整済み生存年(QALY)を244万年延ばし、医療費を500億ドル以上削減できるとしています。
砂糖入り飲料の消費を減らすための対策としては、飲料への課税、子供や若者へのマーケティングの制限、公衆衛生に関する教育の強化が挙げられます。
砂糖入り飲料を控えたい人に向けて、低糖の代替飲料も多く存在します。たとえば、フレーバー付きの炭酸水(ハイビスカスやコンコードグレープ味など)、プレバイオティクスやプロバイオティクスを含む低糖飲料、ステビアで甘味をつけた飲料、そして昆布茶などが良い選択肢です。しかし、最も効果的かつ経済的な水分補給の方法は「純粋な水」であることに変わりありません。
クバニチ医師は「砂糖入り飲料を減らすためには、より健康的な選択肢に置き換えることが鍵です。まずは水をもっと飲むことから始めてください。もし少し風味が欲しい場合は、レモンやベリーなどのフルーツを加えると良いでしょう」とアドバイスしています。
さらに、「無糖のハーブティーや、少量のフルーツジュースを加えた炭酸水も良い代替品になります。また、購入時にラベルを確認して、隠れた砂糖が含まれていないか確認することも大切です」と提案しています。
(翻訳編集 華山律)
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