2020年12月 米カリフォルニア州(Photo by PATRICK T. FALLON/AFP via Getty Images)

<オピニオン>沈黙を守るアメリカ人と「良きドイツ人」

2021年2月8日に掲載した記事を再掲載 

私は人間性や人間の行動について長く探究してきたが、2020年ほど深く学んだ年はなかった。私をずっと悩ませていた疑問に対して、予想外の答えを見つけたからだ。それは「良きドイツ人」についての考察である。

ヒトラー政権のもと、ユダヤ人の迫害に参加しなかった大勢のドイツ人がいた。彼らは平均的な良きドイツ人だったが、ナチスに反対せず、ユダヤ人を助けることもなかった。レーニンやスターリン時代のロシアも同様である。大多数のロシア人は独裁政権によって迫害されている同胞を助けなかった。

ここ数年、私はアメリカでの出来事を観察し、沈黙を守ったドイツ人やロシア人に対して簡単に判断するべきではないという考えに至った。もちろん、ユダヤ人を迫害したドイツ人については厳しい評価を下す。しかし、何もせずに沈黙していたドイツ人を、どう評価したらいいのだろうか。

昨年アメリカで非理性的な自由の制限が始まった。一部の市民は政治的な意見を述べた後に解雇され、生計を立てる自由を奪われた。ソーシャル・メディアによる検閲が横行し、彼らの意にそぐわない投稿は削除された。これは憲法違反の暴挙だが、大勢のアメリカ人は、それを容易に受け入れた。

左翼ではないアメリカ人は、自分の意見を公に述べることを躊躇するようになった。ほぼ全ての大学、映画スタジオ、大企業などの職場で本音を語ることはできない。左翼を怒らせれば終身雇用の大学教授は孤立させられ、そうでない教授は解雇される。一方、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の抗議者がレストランで食事中の人々に近づき、拳を突き上げてBLMへの支持を示すよう要求すると、ほぼすべての人がそれに応じる。そうしなければ、公に恥をかかされるからだ。この異常な事態に対して、ほとんどのアメリカ人は声を上げない。

それでは、ゲシュタポに直面してもヒトラーに敬礼しなかったドイツ人や、NKVD (KGBの前身にあたる秘密警察)に直面してもスターリンに忠誠を示さなかったロシア人を、誰が批判できるだろうか?アメリカ人は左翼の「キャンセル文化」に直面しているが、秘密警察による尋問もなければ、再教育収容所に送られる心配もない。この収容所については、「今のところまだない」と言っておく。もし可能であれば、左翼は率直に意見を述べる保守派を再教育収容所へ送り込むだろう。

私は学生の頃、コロンビア大学のロシア国際問題研究所で全体主義を研究した。今までずっと、私は独裁国家のもとでのみ社会は洗脳されると信じていた。しかし、これは誤りだった。集団的な洗脳は名目上自由な社会でも起こり得ると今は理解している。

大多数の主流メディアやハリウッド映画、そして幼稚園から大学院までの教育機関が、少なくとも半分のアメリカ人を洗脳することに成功した。ニューヨーク・タイムズ紙の「1619プロジェクト」という嘘が全国の学校で教えられているが、これはほんの一例に過ぎない。

ロックダウンの前、私は仕事で全国を飛び回っていた。時々、私に声をかける人がいたが、彼らは必ず周りを見回して、「私もトランプ支持者です」「私も保守派です」と小声で話してくれた。周りを警戒しながら会話する光景を見たのは、旧ソ連へ旅行した時以来である。

一部の州と都市は、ロックダウンのルール違反者を通報するよう呼びかけている。例えば、ロサンゼルス市のエリック・ガーセッティー市長は、「通報すれば報酬がある」と発表し、密告を奨励した。これが、ゲシュタポも、KGBも、再教育収容所も存在しないアメリカで起きているのだ。

だからこそ、私は以前ほど簡単に平均的な「良きドイツ人」に判断を下さなくなった。抑圧的な政権のもとで無関心でいられるのは、ドイツ人やロシア人の気質とは関係ない。私はそれを2020年に身を持って理解したのである。

(文・Dennis Prager/翻訳編集・郭丹丹)

執筆者:デニス・プラガー(Dennis Prager)

ラジオ・トークショー司会者でコラムニスト。

※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。

 

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