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五行を味わう一皿

春分のすき焼き薬膳 ― 五行のバランスを整え、肝・脾・肺を調える

人の体にある五臓(肝・心・脾・肺・腎)は、それぞれ五行(木・火・土・金・水)に対応しています。五臓をつなぐ経絡の働きは、五行のエネルギーの流れそのものといえます。五行のバランスが取れていれば病気は起こりにくく、反対にバランスが崩れると、臓器の働きにも不調が出てきます。ですから、五行の調和を保つことは、健康を維持する上でとても大切なのです。

今は春分の時期で、気候が穏やかになり、木の気(=陽気)が徐々に強まっていきます。しかし一方で、寒さと湿気が入り混じり、天候は不安定で変化しやすい時期でもあります。そのため、肝に対応する「木の気」が高まりすぎて、五行のバランスが乱れやすく、肝・脾・肺の三つの臓に不調が現れやすくなります。

今回は、中医学の「陰陽五行」の視点から、春分の時期にぴったりの薬膳すき焼きをご紹介します。この時期の体調を整え、五行のバランスを保つための食養生として、日々の食卓に取り入れてみてください。

春分における肝・脾・肺の不調が引き起こす体の不快感

春分は昼と夜の長さが等しくなり、陰と陽が調和する節目の時期です。この日を境に陽の気が次第に強まり、上昇していきます。人体では、肝(木)の気がこの陽気の影響を受けやすく、それが過剰になると火に変化し、脾(土)は木の気によって抑えられて、水分の運搬や代謝がうまくいかなくなります。その結果、体内に湿気が溜まり、消化力が低下。また、肺(金)は肝火の影響を受けて熱を帯び、機能が低下しやすくなります。このようにして、肝・脾・肺の三者のバランスが崩れ、不調が現れます。

主な症状は次のとおりです:

  • 肝気が過剰に火へと変わる → イライラしやすい、怒りっぽい、不眠、目の乾燥
     
  • 脾の虚弱と湿の停滞 → 消化不良、腹部の張り、軟便
     
  • 肺気の不足 → 免疫力低下、アレルギー反応が出やすい、咳や風邪をひきやすい

食養生の提案:すき焼き薬膳の効能:

  • 肝と脾のバランスをとる(肝の気をのびやかにし、脾を強めて湿を取り除く)
  • 肺の機能を高める(気を補い、陰を養い、肺の乾燥を和らげる)
     

「春分のすき焼き薬膳」―五行に基づいた食材の組み合わせ

◉主な食材(五行の分類と効能):

  • 牛肉(または鶏肉):土(脾・胃)
     胃腸を温めて元気を補い、体力を養います。
     
  • 豆腐:土(脾・胃)
     胃腸の働きを整え、乾燥を防いで体にうるおいを与えます。
     
  • 春菊:木(肝)
     肝の働きを助け、気の巡りを良くし、体をしっとりさせます。
     
  • 大根:金(肺)
     肺をきれいにし、痰を取り除き、消化を助けます。
     
  • れんこん:土/水(脾・腎)
     胃腸を整え、肺をうるおし、熱を冷まします。
     
  • 山芋:土(脾・胃)
     胃腸を元気にし、体にうるおいを与えて元気を補います。
     
  • しいたけ:土/木(脾・肝)
     胃腸と肝の働きを助け、免疫力を高めます。
     
  • クコの実:土/水(脾・腎)
     肝腎を養い、目の疲れや乾燥を防ぎ、肺をうるおします。
     
  • なつめ:土(脾・胃)
     血を養い、気持ちを落ち着かせ、胃腸を整えます。
     
  • しょうが:火(心・脾)
     体を温め、冷えを追い出し、消化を助けます。
     
  • 味噌(醤油の代わり):土(脾・胃)
     胃腸を元気にし、栄養の吸収を助けます。
     
  • 米酢(酒の代わり):木(肝)
     気の巡りを良くし、食欲を促し、肝の緊張を和らげます。
     
すき焼き薬膳で五行のバランスを整えましょう(Shutterstock)

◉作り方:

1. すき焼きの調味だれを作る。

材料:味噌大さじ1、米酢小さじ1、戻したなつめの汁(血を養い、胃腸を整える)適量、しょうが(千切りにしたもの:湿気を取り、体を温める)適量

2. 鍋に少量の油をひき、しょうがを炒めて香りを出す。牛肉(または鶏肉)を加え、半分くらい火が通るまで炒めて一度取り出す。

3. 豆腐、大根、れんこん、山芋、しいたけを鍋に入れ、調味だれと適量の水を加えて、食材がやわらかくなるまで煮る。

4. 牛肉(または鶏肉)を戻し入れ、春菊とクコの実も加えて、さらに1〜2分ほど軽く煮る。春菊は香りと効果を保つため、煮すぎないのがポイント。

5. 最後に味を整えたら完成!雑穀ご飯やオートミールご飯と一緒に食べると、より胃腸にやさしく栄養バランスが整います。
 

◉この料理における五行バランスの考え方

  1. 肝と脾のバランスを調える(木と土の調和)

春菊 + 米酢 + 大根 → 気の巡りを整えて肝をのびやかにし、肝気のうっ滞を防ぎ、脾(土)の働きを妨げないようにする。

山芋 + なつめ + 豆腐 → 脾を健やかにし、土を補うことで肝(木)の過剰な作用に対抗し、肝が脾を抑えつけるのを防ぐ。

味噌(発酵食品) → 脾胃を温めて補い、消化を助け、脾の虚弱と湿気の滞りを防ぐ。

  1. 肺の機能を高める(気を補い、肺を潤す)

大根 + れんこん → 肺を清めて乾燥を防ぎ、春のアレルギーや空咳の軽減に役立つ。

クコの実 + しいたけ → 免疫力を高め、肺の気を補い、全身の抵抗力をサポートする。

  1. 春の湿気による脾の停滞を予防する

生姜 + 味噌 → お腹を温めて陽気を助け、体内の湿気を追い出し、疲労感や軟便などの脾の不調を防ぐ。
 

結論

この「春分のすき焼き薬膳」は、五行のバランスを整えることによって――

  • 肝をのびやかにし、気の滞りを解消(春のイライラや怒りっぽさを予防)
     
  • 脾を健やかにして気を補う(脾の弱りによる腹部の張りや湿気の停滞を防ぐ)
     
  • 肺を潤して乾燥を防ぐ(免疫力を高め、アレルギーや肌の乾燥の予防)

――という効果が期待できます。

中医学が説く「人体は小宇宙」という理念に基づき、春分の自然のリズムに調和しながら、心身のバランスを整える薬膳です。まさに“天人合一”を体現する一品といえるでしょう。
 

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。