舞茸の土瓶蒸し:秋の森の香り、身も心も温まる
寒露を過ぎると、季節はいよいよ深い秋へ入ります。中医学では、秋の気は五行で「金」に属し、その性質は乾燥です。金は肺を司るため、この時季は肺の潤いが不足しやすく、咳が出たり、胸のあたりに不快感が生じたり、心が落ち着かず、悲しみが生まれやすいといわれています。
そんな時こそ、小さな一杯の伝統料理が、身も心も温かく包み込んでくれます。
土瓶蒸し:肺を潤し腎を温める
関西から東海地方にかけて、秋の食卓によく登場するのが土瓶蒸しです。最も贅沢なのはもちろん松茸ですが、家庭では舞茸を使うだけでも十分に香り高く、豊かな風味を楽しむことができます。
中医学では「形が形を補う」とされ、舞茸はその形が肺の葉に似ており、また黒い色は腎に通じます。五行の考えでは「金は水を生む(肺は腎を養う)」とされることから、舞茸は肺を助けるだけでなく、腎の気まで養い、生命の根を支える食材とされてきました。さらに、舞茸の森林のような香りは脾を健やかにし、湿をさばき、肺を潤して津液を生むとされています。
これに、気血を補う鶏肉、血の流れを助ける銀杏、腎陽を温める海老を合わせて蒸すと、清らかな出汁が透き通り、からだをしっとりと温め、気血のめぐりを整えてくれます。
現代では、舞茸には多糖類や食物繊維が豊富で、免疫機能の調節や呼吸器のサポートに役立つことが知られています。鶏肉は良質なたんぱく質とイノシトールを含み、肺の修復や体力維持に役立ちます。銀杏にはフラボノイドと微量元素が含まれ、血行を促し、抗酸化作用によって秋の体を守ります。こうした点でも、伝統的な食養の知恵が現代科学によって証明されているといえます。
土瓶から立ちのぼる湯気とともに、清らかな一杯をそっと茶碗に注ぎ、柚子を数滴たらして口に含めば、秋の森がそのまま体の中に溶け込んでいくような感覚に包まれます。その瞬間、日本の食文化には、自然と呼応する深い智慧が息づいていることに気付かされるのです。
舞茸の土瓶蒸し(2人分)
材料
- 舞茸……80g
- 鶏もも肉……80g(一口大に切る)
- むきエビ……4尾
- 銀杏……4粒(殻をむいたもの)
- 昆布だし……300ml
- 清酒……大さじ1
- 醤油……少々
- 塩……少々
- 柚子のしぼり汁……数滴
作り方
- 舞茸は小房に分け、鶏肉は下ゆでして臭みを取る。
- 土瓶または小さな耐熱容器に、舞茸・鶏肉・エビ・銀杏を入れる。
- 昆布だしを注ぎ、清酒・醤油・塩を加える。
- 弱火で約10分ほど蒸し、具材に火が通ったら出来上がり。
- 汁を小さな湯のみにそそぎ、柚子汁を数滴たらし、まずは出汁を味わい、そのあと具材をいただく。
澄んだ香りの一杯は、見た目は素朴ながら、そっと肺をいたわり、心と体を温かく満たしてくれます。