『黄帝内経』には「五穀は養いの基本である」と説かれています。穀物は種であり、生命のはじまりそのもの。そこには栄養だけでなく、陰陽五行の働き、すなわち「気の巡り」そのものが宿っています。
天地では、木・火・土・金・水の五行が秩序をもって巡り、人の体でも五臓が同じ五行の仕組みによって生命活動を支えています。この二つは本来切り離されたものではなく、人は「小さな宇宙」、天地は「大きな宇宙」として、同じ法則のもとに動いていると考えられてきました。
だからこそ、五穀をいただくことは、単にエネルギーを補うだけではありません。穀物がもつ五行の力が体内に入り、五臓の気の巡りと響き合うのです。天地の運行に倣い、五穀を組み合わせることは、体の内側を自然のリズムに合わせること。そうして陰陽と五行が整えば、五臓は無理なく調い、心身は本来の穏やかな状態へと戻っていきます。
冬は腎を養う季節 黒豆が要になる理由

冬は五行で「水」に属し、色は黒、臓では腎に対応します。この季節は「蔵精(ぞうせい)」、すなわち生命の力を内に蓄える時期です。
腎の力が十分に養われていれば、翌春の生気が充実し、春先に起こりやすい風邪や外からの不調にもかかりにくくなります。
そのため、冬の食養生では黒豆を中心に据えるのが、最も天の流れにかなっています。黒豆は腎の「水」を養い、生命の根を支える食材だからです。そこに他の穀物を組み合わせて五穀ごはんにすることで、腎だけに偏ることなく、五臓全体のバランスを穏やかに整えることができます。
冬は補いすぎず、動かしすぎず、土台をしっかりと整える――その要となるのが、黒豆を中心とした穏やかな穀物の養生です。
五行の考え方で組み立てる、黒豆五穀ごはん(2~3人分)
五方に五穀を配することは、食材そのものを用いて「食養生の処方」を組み立てることに等しい考え方です。こうして炊いたごはんは、食卓の上で五臓の気の巡りを調え、全身のバランスをやさしく整えてくれます。
まず、北を背にして南を向いて座っている自分を想像してください。自分が座る位置が中心で、中医学ではこれを「中宮」と呼びます。
- 背後(北):北は黒、水に属し、腎に対応します。 黒豆 約40g
- 左手(東):東は青、木に属し、肝に対応します。生の枝豆 約50g
- 正面(南):南は赤、火に属し、心に対応します。あずき 約30g
- 右手(西):西は白、金に属し、肺に対応します。白米 約180g(主食として)
ここまでで四方が整います。
- 中心(中宮):中心は黄色、土に属し、脾胃に対応します。 粟 または 大豆 約30g
これで五行すべてがそろい、一つの組み合わせが完成します。
この五方の穀物を一緒に炊くことで、鍋の中に「縮小された宇宙」が生まれます。それが体内に入ることで、五臓が互いに助け合い、制約し合いながら、秩序あるバランスの中で働くようになる――それがこの五穀飯の考え方です。
黒豆五穀ごはんの作り方
- 黒豆はあらかじめ4~8時間浸水するか、乾煎りして火を通しておく
- 粟または大豆は、軽く炒っておくと火の力が入り、脾を助ける働きがまります
- すべての穀物を洗い、白米と一緒に炊飯器へ入れる(水は米の量の約1.2~1.3倍)
- 炊き上がったら10分ほど蒸らし、全体を混ぜて完成
脾胃が弱い方は、水をやや多めにして、やわらかく炊くと消化しやすくなります。
体質に応じて五穀の分量を調整する
体調や体質に合わせて、五穀の配分を少し変えることで、より的確な養生になります。
・肝の気が滞りやすく、ストレスが多い人
枝豆を 70~80g に増やす
・脾虚で、腹部の張りや軟便が出やすい人
大豆を省き、粟を中心にし、さらにハトムギをひとつかみ加える
・心が落ち着かず、眠りが浅い、血の巡りが滞りがちな人
あずきを 40~50g に増やす
・腰や膝がだるい、抜け毛が気になる、夜間頻尿がある人
黒豆を 60~80g に増やす
・息切れしやすく、疲れやすい人
白米を 200g 程度に増やし、肺の気を助ける

これは単なる「食材の足し引き」ではありません。五行のバランスという法則に基づき、体内の気の偏りに応じて調整することで、五臓の関係を本来あるべき状態へと戻していく考え方です。
全体の働きのまとめ
この五穀飯は、北に配した黒豆で腎を養うことを軸とし、他の四方の穀物でその働きを支えます。腎精はしっかりと蓄えられ、肺の防御力は固まり、脾胃は健やかに運化し、肝の気はのびやかに、心身も穏やかに保たれます。
まさに「冬に養い、病が起こる前に防ぎ、自然の流れに従って整える」 という養生の知恵を体現した食事です。
五穀で五臓を調えるとは、五行という生命の仕組みを内包する“種子としての穀物”を用い、人が本来持つ調整力・回復力を静かに引き出すこと。
これこそが、『黄帝内経』が説く「五穀をもって養う」 という言葉の、本来の意味なのです。
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