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秋分のあとは「肺を潤す」より「腎を養う」ことが大事

秋分を過ぎると空気が乾いてきて、肌や体がカサカサするのが感じやすくなります。この時期は「肺を潤す」ことが大切だと言われますが、実は本当に大事なのは「腎」を元気にすることなのです。腎をしっかりケアしないと、いくら肺を潤しても根本的な改善にはつながりません。
 

肺を潤すのは一時しのぎ、腎を補うのが根本的なケア

『黄帝内経』という中国の古典では、季節の変化は「陰陽五行」という自然の法則とつながっていると書かれています。秋、特に秋分の頃は「金」という気の性質が強まり、涼しく乾燥した状態になります。肺と大腸はこの「金」の気に属する臓器なので、乾燥の影響を直接受けやすいのです。その結果、乾いた咳、便秘、肌の乾燥やひび割れなどが出やすくなります。

しかし、梨や蜂蜜などで「肺を潤す」のが効果的ですが、根本的な対策にはなりません。体の奥で大事な役割をしている「腎」が弱っていると、乾燥のダメージを受けやすくなるのです。

人間の体は季節と同じリズムで動いています。冬は「ためる」季節で、春や夏に活動するためのエネルギーを蓄える時期です。この「ためる力」を持っているのが腎です。

春になると陽気が高まり、体はエネルギーを使い始めます。夏はさらに活動が増え、暑さに耐えるためにも腎にためていた力をたくさん使います。そうして夏から秋になる頃には、腎のエネルギー(精気)がかなり消耗しています。

腎は「水」を司る臓器なので、腎が弱ると水分の代謝もうまくいかなくなります。そこに秋分の乾いた空気が加わると、体は乾燥に負けてしまうのです。つまり、体の「水タンク」である腎が空っぽになっているので、「腎を養って水をためる」ことが必要になります。自然界でも秋分を過ぎると大地が収穫を終えて、冬に向けてエネルギーをためる準備を始めますが、体も同じなのです。

ですから秋分を過ぎたら、梨や蜂蜜で肺を潤すのも悪くありませんが、それだけでは足りません。大事なのは「腎を補ってエネルギーをためること」です。腎が元気になれば水分が全身に行き渡り、肺や大腸、皮膚も乾燥から守られるのです。
 

黒豆としじみ:腎を養い、精を満たし、陰陽を整える

腎を補う食材といえば、日本人にとって一番なじみ深いのは「しじみ」ではないでしょうか。居酒屋でお酒のあとにしじみ汁を飲むと、さっぱりして翌日頭がすっきりする、こうした習慣は、実は中医学の理にかなっているのです。

日本人にとって一番なじみ深い「しじみ」(Shutterstock)

しじみは甘くて少し塩味があり、性質はやや冷ややか。塩味は腎に届くとされ、もともと「潜む・ためる」性質があります。中医学では、貝類は散らばりやすい陽気を内に引き戻し、腎にある精(生命エネルギー)をしっかり守る作用があるとされます。

さらに、しじみの色は黒で、五行では「水」に属し、腎に対応しています。つまりしじみ汁は、肝臓を守りつつ腎を養い、精をため、肝血も整える働きがあるのです。日本の食文化そのものが、古くから中医学の知恵に沿っていたといえるでしょう。秋の乾燥を調えるにもぴったりです。

黒豆は腎を補う代表的な食材(Shutterstock)

黒豆は甘くて温かい性質を持ち、体をじんわり温めて補う方向に働きます。腎の精を補い、血を養い、さらに脾胃(消化機能)を助けるので、栄養を体に取り込みやすくしてくれます。

「黒は腎に入る」と昔から言われ、黒豆は腎を補う代表的な食材として大切にされてきました。ただし、黒豆だけをとり続けると温めすぎになり、体質によってはのぼせやすくなることがあります。一方でしじみは冷やす力が強いので、胃腸が弱い人は下痢しやすくなることもあります。

そこで、黒豆としじみを組み合わせることで、温と冷がバランスよく調和し、陰陽のバランスが取れるのです。

黒豆で腎を温め補い、しじみで陰を養って守る。つまり、取り入れた栄養を「入れる」と同時に「逃がさず守る」ことができます。ちょうど、水を注ぐと同時に栓をしっかり閉めるようにして、体という「水の貯蔵庫」を満たすイメージです。

さらに、黒豆は血を養い、しじみは肝の熱を冷ます働きもあります。腎に精が満ちると肝の血も豊かになり、両者が助け合って気血がスムーズに流れます。その結果、肌がうるおい、筋肉や骨がしっかりする、女性は生理が整い、男性は精力が充実するといった効果が期待できます。ここに少し生姜を加えれば、貝特有の生臭さを消し、胃腸を温めて消化を助け、より食べやすくなります。
 

日本の伝統食養生を忘れずに

日本では、黒豆はお正月料理「黒豆煮」として登場し、健康長寿やまじめに働き続けることの象徴とされています。黒豆を食べるのは、体に良いだけでなく縁起も良いのです。

一方、しじみ汁は家庭の食卓に欠かせない「常備薬」のような存在で、特にお酒を飲んだ後の「二日酔い防止の汁」として知られています。ほとんどの日本人は「しじみは肝臓を守り、腎を強くし、翌朝すっきり目覚められる」という事を知っています。

黒豆としじみを合わせると、黒豆のコクとしじみのさっぱり感が調和し、美味しいだけでなく、まさに陰陽のバランスをととのえる「秋分の養生ごはん」になるのです。
 

養生雑炊ごはん:黒豆×しじみ

黒豆としじみの雑炊(イメージ画像)

こんな人におすすめ

秋分を過ぎて肌が乾燥する・喉がイガイガする・便秘気味の人
夏に働きすぎて疲れやすい・腰や膝がだるい人
お酒を飲んだあと頭が重い・目がしょぼしょぼする・口が渇く人

材料(2人分)

  • 米…1カップ(約150g)
  • 黒豆…大さじ2(約30g、炒って2時間浸水させるか、炒り黒豆を使用)
  • しじみ(殻付き)…200g
  • 生姜…2~3枚
  • 清酒…大さじ1(臭み消し&風味付け)
  • 味噌…少々(お好みで)
  • 水…600ml
  • 塩…適量
  • 小ねぎ…少々(仕上げ用)

作り方

  1. 黒豆は軽く炒ってから水に浸すと柔らかくなりやすく、豆特有の匂いも取れる。市販の炒り黒豆ならそのまま使える。
  2. しじみは塩水に浸して砂抜きをしておく。
  3. 洗った米と黒豆を鍋に入れ、水・清酒・生姜を加える。
  4. 強火で沸騰させた後、弱火にして約20分煮る。米と黒豆が柔らかくなればOK。
  5. しじみを加え、殻が開くまで煮る。塩で味を調え、火を止める。
  6. 盛り付ける前に味噌や小ねぎを加えるとさらに風味が良くなります。

効能

  • 腎を温め精を守る:黒豆で腎を養い、しじみで精を守る。陰と陽が調和。
  • 肌と腸を潤す:腎が潤うことで肺が潤い、肌や腸も乾燥しにくくなる。
  • 肝を養い血を補う:黒豆は血を養い、しじみは肝の熱を冷ます。肝腎が整う。
  • 体を温め血の巡りをよくする:生姜で胃腸を温め、女性の冷えや生理不順に良い。
  • むくみ防止・骨を強くする:腎が整えば新陳代謝も正常になり、筋骨も丈夫になる。

一杯食べると、すっきりとした味わいの中に温かさが広がり、胸が軽くなり、手足もぽかぽか。まるで体に優しい泉が流れ込み、秋の乾燥や疲れを和らげてくれるようです。

黒豆は炊飯器で「黒豆ご飯」に、しじみは「味噌汁」にして一緒に食べるのもおすすめです。

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。