蚊はいつも真っ先に自分のところへやって来る――そんなふうに感じるなら、それは運が悪いからではなく、「体の化学的な特徴」が関係しています。科学者たちはこの10年ほどで、なぜある人は蚊の格好の標的になり、ある人はほとんど気付かれないのかを詳しく研究してきました。その答えは、「血が甘いから」という俗説とは関係ありません。
「血が甘い人は蚊に刺されやすい」といったよく知られた言い伝えを裏付ける科学的根拠は乏しい一方で、近年の研究では、蚊が標的を選ぶ際に利用している具体的なシグナルや、それに対して私たちができる対策について、少しずつ明らかになってきています。
蚊が人を見つけ出す仕組み
「蚊は小さな吸血鬼のような存在です」と、ワシントン大学の生物学者で教授のジェフ・リフェル氏はエポックタイムズに語りました。
吸血鬼が獲物を無差別に選ばないように、蚊もまた無作為に人を狙うわけではありません。
蚊の狩りは、人の吐く息をかぎ分けることから始まります。リフェル氏によると、呼気はまるで灯台のような役割を果たします。
「においは遠距離から獲物を引き寄せるシグナルです」と同氏は述べています。「二酸化炭素は『近くに誰かがいる』ことを知らせる長距離シグナルです。蚊はおよそ100m先からでもそれを感知できます」
近くに恒温動物(体温を一定に保つ動物)がいることを察知するのは、あくまで最初の段階です。特定の人を選ぶ際には、蚊は複数の感覚を組み合わせて判断しています。2014年に学術誌『Cell』に掲載された研究では、蚊は二酸化炭素、体臭、体温といった複数の手がかりを組み合わせて宿主(吸血対象)を探していることが示されました。研究者らは二酸化炭素を感知できないように遺伝子操作した蚊を作製しましたが、人への引き寄せられやすさは低下したものの、完全には失われませんでした。
蚊は標的との距離が縮まるにつれ、さらに別の感覚も利用するようになります。
「その後は、さまざまな手がかりを使って標的を絞り込んでいきます」とリフェル氏は説明します。「嗅覚だけでなく視覚も使いますし、熱に対する感受性も利用しています」
そして至近距離になると、最も重要になるのが皮膚のにおいです。これは皮膚から放出されるさまざまな化学物質によって生み出され、最終的に蚊に刺されるかどうかを左右します。人間には感じ取れませんが、私たちの皮膚は蚊にとっては特徴的で強いにおいを放っており、「食事の時間だ」と知らせる合図になっています。
「蚊を引き寄せる最大の要因は皮膚のにおいです」とリフェル氏は述べています。「蚊は皮膚のにおいを頼りにあなたを見つけます」
この段階で、その場にいる「蚊に刺されやすい人」がはっきりと分かれるのです。
「自分が蚊に刺されやすいかどうか分からないなら、おそらくあなたは刺されやすいタイプではありません」とリフェル氏は話しています。
蚊に刺されやすい人がいる理由
蚊が特定の人を好む大きな理由の一つは、皮膚由来の特定の化学物質にあると考えられています。2022年に『Cell』、2023年に『Current Biology』に掲載された研究では、人によって蚊に対する引き寄せられやすさには一貫した差があり、その差は皮膚に存在するカルボン酸の量と関連していることが分かりました。
カルボン酸とは、皮膚に存在する細菌が汗や皮脂に含まれる成分を分解することで作り出される分子です。
「蚊に非常に好まれる人は、こうしたカルボン酸をより多く放出していることは明らかです。ただし、どの種類のカルボン酸が実際に反応を引き起こしているのかは、まだ分かっていません」とリフェル氏は述べています。
また、2人とも蚊に刺されやすい体質でカルボン酸を多く放出していたとしても、その中に含まれる具体的な化学物質は人によって異なる可能性があるといいます。
さらに研究では、このような違いは時間が経ってもほとんど変わらないことも分かりました。
「人のにおいは驚くほど安定しています」と同氏は述べています。
カルボン酸は、皮膚のにおいを構成する数多くの要素の一部にすぎません。2020年に『Frontiers in Microbiology』へ掲載された総説(複数の研究をまとめて分析した論文)では、蚊は皮膚の常在菌(皮膚に自然に存在する細菌)が生み出すにおいのシグナルに強く反応することが示されました。これらの微生物は皮膚の成分を分解し、人によって異なる化学物質を作り出しています。
「私たちの皮膚には、皮膚マイクロバイオーム(皮膚に生息する細菌や真菌などの微生物群集)と呼ばれる、多様な細菌や真菌が存在しています」と、カニシアス大学環境科学プログラムの責任者で副学部長を務めるケイティ・コスタンゾ氏はメールでエポックタイムズに語りました。「これらの微生物は皮膚から分泌される成分を代謝し、副産物となる化学物質を空気中へ放出します。そして蚊はそれらを感知しています」
皮膚の上に存在する、この目には見えない生態系は、環境や生活習慣、生物学的な要因によって長い時間をかけて形成されます。
「多くの意味で、私たちのマイクロバイオームは、これまで暮らしてきた場所や経験してきたことを反映しています」とコスタンゾ氏は述べています。
つまり、蚊に好まれるかどうかは、一つの要因ではなく、複数の生物学的シグナルが重なり合った結果として決まります。人によっては、それらの要因がいくつも重なり、「蚊にとって理想的な標的」になってしまうことがあります。
「体温が高めであったり、吐き出す二酸化炭素が多かったり、特定の揮発性化合物(空気中に蒸発しやすい化学物質)を多く放出していたりする人は、蚊にとってより魅力的になります」とコスタンゾ氏は話しています。
蚊に好まれやすさへ影響する可能性があるその他の要因
蚊を引き寄せる主な要因は皮膚のにおいや皮膚の化学的特徴ですが、それ以外にも刺されやすさを左右する可能性のある要因があります。
「私たちが口にする食べ物や飲み物は体内の化学的状態を変化させ、皮膚や呼気から放出される成分にも影響を与える可能性があります」とコスタンゾ氏は述べています。
バーベキューでビールを飲んでいる人に蚊が集まりやすいことを示す研究もあります。2010年に『PLOS One』へ掲載された研究では、ビールを飲むことで二酸化炭素の排出量や体温に変化はなかったものの、人のにおいへの蚊の引き寄せられやすさや飛来が増加したことが報告されました。
「アルコールを飲むと血流が増えます」とリフェル氏は説明します。「汗もかきやすくなるでしょう」
ただし、アルコールの影響について現在分かっているのはビールに関する研究だけであり、ワインや蒸留酒(ウイスキーや焼酎など)について同様の影響があるかどうかは、ほとんど調べられていません。
また、特定の食品にも影響がある可能性があります。2018年に『Insects』へ掲載された研究では、バナナを食べるとマラリア媒介蚊に対する人の引き寄せられやすさが増加した一方で、ブドウではそのような変化は見られませんでした。この結果は複数の蚊の種類や繰り返し行われた実験でも一貫して確認されています。
「バナナを食べると、体内で作られる代謝産物(代謝によって生じる物質)の影響によって、蚊を引き寄せやすくなる可能性があります」とコスタンゾ氏は述べています。
妊娠も、蚊を引き寄せることがよく知られている要因です。研究によると、妊婦は妊娠していない女性に比べて約2倍も蚊に刺されやすいことが分かっています。
「ホルモンは汗腺や皮脂の分泌、さらに皮膚に自然に生息する細菌のバランスを調整するうえで重要な役割を果たしています」と、皮膚科専門医のアネット・チェルニク医師はメールでエポックタイムズに語りました。
蚊に好まれにくくする方法
蚊に刺されやすい人でも、生まれ持った体臭そのものを変えることはできません。
「生まれ持った体の化学的特徴を完全に変えることはできません」とチェルニク医師は述べています。
しかし、蚊に見つかりにくくするための方法はいくつかあります。
- DEET(ディート):「DEETを好まない人も多いですが、蚊に刺されるのを防ぐ方法としては最も優れており、おそらく最も安全な方法でもあります」とリフェル氏は話します。「70年以上にわたって安全性と効果が検証されており、最も効果的です。蚊にとっては、あなたがほとんど見えなくなったような状態になります。また、妊娠中でも安全と考えられています」
- ペルメトリン処理済みの衣類:蚊はペルメトリン(衣類などに使用される殺虫成分)に非常に弱く、触れるだけで死滅します。
- 肌を露出しない:露出した皮膚は衣類や虫よけ剤で保護しましょう。特に足や足首はにおいが強くなりやすいため、重点的に守ることが大切です。
- シトロネラやユーカリ油:こうした天然由来の虫よけにも効果はありますが、DEETより持続時間は短くなります。
- 明るい色の服を着る:蚊は濃い色の衣類を好む傾向があります。
- 扇風機を使う:「蚊は風を嫌います」とリフェル氏は話します。「飛ぶ能力はあまり高くありません」
- 蚊をたたく:「誰かが自分をたたこうとすると、蚊は次にたたいてこない人へ向かいます」とリフェル氏は述べています。「蚊には学習能力があります。状況に応じて柔軟に行動を変えることができます」
- 無香料のスキンケア用品を使う:香りの強い石けんや香水は、良くも悪くも体臭の特徴を変えてしまう可能性があります。
- たまり水をなくす:バケツ、雨どい、植木鉢の受け皿などは蚊の繁殖場所になります。水をこまめに捨てるか、水を抜けない場所ではボウフラ駆除剤(蚊の幼虫を駆除する薬剤)を使用しましょう。
将来的には、「蚊に刺されやすい体質」に対する科学的な解決策が登場するかもしれません。現在、一部の研究者は皮膚マイクロバイオームを変化させ、蚊が手掛かりとしているにおいを変えるクリームの開発を進めています。また、蚊の嗅覚に関わる遺伝子を機能しないようにすることで、人を感知できない蚊を作り出そうという研究も行われています。
それまでは、できるだけ蚊の「レーダー」に引っかからないよう工夫することが、最も有効な対策といえるでしょう。
(翻訳編集 井田千景)
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