小寒は二十四節気の中で年末から二番目にあたる節気で、一年で最も寒い時期ではありませんが、体の気の巡りが最も滞りやすい時期です。外では陰の寒さが依然として「閉じる力」として働く一方、体の内側では春に向けて陽気が静かに動き始め、すでに気の流れは方向転換を始めています。
人体の気は天地の気と呼応しているため、この時期の気の特徴を理解し、それに沿って五臓を調えることで、少ない工夫でも大きな効果が得られます。そのためにも、まずは小寒という節気がもつ気の特徴を知ることが大切なのです。
五日で一巡する「小さな五行循環」
天地は陰陽の気の循環によって動いており、その陰陽は木・火・土・金・水という五行に分かれています。つまり五行とは、陰陽が有機的に循環する一つの仕組みなのです。
五行が順に入れ替わることは気の巡りの変化であり、それが気候として現れます。この変化には大きな周期もあれば、小さな周期もありますが、最も小さな単位が「五日」です。五日で一巡する小さな五行の循環があり、そこから一つの節気は三つの「候」に分けられ、各候は五日ずつと定められました。干支で日を示すことで、日々の五行の移り変わりと気候の変化を明らかにし、人々の生活、すなわち養生や医療の指針としてきたのです。
したがって小寒にも三つの候があり、五日ごとに気の流れが一度ずつ転換します。
小寒の初候は、中国では「雁北郷(がんほくきょう)」、日本では「芹乃栄(せりすなわちさかう)」と呼ばれます。
中国の名称はかりの行動に由来します。実際に北へ戻るわけではありませんが、進路を変え始め、様子をうかがう時期という意味合いです。鳥は陽気の象徴であり、ここでは「陽気が方向転換を始める」ことを視覚的に示しています。厳寒の中でも、すでに陰が極まり、気の向きが変わり始めていることを、人々に気づかせるための表現です。
一方、日本ではなぜ「芹乃栄」とセリの名が使われたのでしょうか。
中国が鳥を用いて天の気の動きを示すのに対し、日本は草木という大地の恵みを通して、気の変化をより身近に伝えようとしました。その土地で実際に見られ、食卓にも上るものを示すことで、「この時期に何を取り入れるとよいか」を直感的に教えているのです。

小寒の初候の頃、日本のセリは芽吹き始める段階ではなく、すでに生き生きと育ち、収穫して食べられる状態になります。だからこそ「芹乃栄」と名付けられ、この時期の養生に最もふさわしい食材として示されているのです。
日本の暦は小寒という節気の本質を変えたわけではなく、その気の変化を、より実践しやすい形で食生活へと翻訳しました。中国の「天を仰いで気の理を読む」姿勢に対し、日本は「足元の大地と食卓を見る」ことで養生を伝えるーこの呼び名には、そんな親しみやすさと実用性が込められているのです。
小寒の初候五日から「五運」を理解する
五日という単位は、一つの五行の気が秩序正しく入れ替わる、一回の完全な小循環です。したがって、この最小単位の気の運行を理解することで、『黄帝内経』が説く五運六気、すなわち「運気学説」の基本構造をつかむことができます。今日「運が良い・悪い」と言う言葉も、もとはこの五行の運行思想から生まれました。
ただし『内経』における「五運」は一年を尺度として用いられ、五年で一巡する大きな五行循環を成します。各年にはそれぞれ主導する五行があり、これを年運・大運・歳運などと呼び、その年の気候傾向や人体への影響、起こりやすい病態を推測します。一方、節気における「一候」は日を尺度とし、五日で一度五行が一巡します。規模は違っても、気の変化の仕組みはまったく同じなのです。
このため古代の暦では、年・月・日すべてに干支が付されました。干支を見れば、その年、その月、その日の五行属性が分かり、養生や治療に応用することができるからです。人体そのものが五行で成り立つ「小宇宙」だと考えられていたためです。
ここでは、2026年1月5日(旧暦ではまだ2025年乙巳年の年末)から始まる小寒初候の五日間を例に、古人がどのように暦を読み、五行と気の流れを理解して養生に生かしていたのかを見てみましょう。
天干による年運の見方
『内経』では年運を測る際、天干(十干)を用います。天干は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十ありますが、ここでは五行との対応のみを見ます。
本来、甲乙は木、丙丁は火、戊己は土、庚辛は金、壬癸は水に属しますが、年運を測る際にはこの配当は用いません。『内経』には以下のような特別な規則が定められています。
甲・己の年は土運
乙・庚の年は金運
丙・辛の年は水運
丁・壬の年は木運
戊・癸の年は火運
つまり、天干が丙の年は「水運」の年となり、火ではありません。2026年は旧暦の大寒(1月20日頃)から丙午年に入るため、年運は水運になります。ここが多くの人が誤解しやすい点です。
また、丙と辛はいずれも水運ですが、丙は陽で勢いが強く、辛は陰で弱いとされます。したがって丙午年は水の力が強く働きますが、地支が午であるため、同時に火の性質も表れ、水火がせめぎ合う年になると考えられます。
しかし今はまだ乙巳年の年末、小寒の時期であり、年運は金運不足・木気過盛という状態にあります。肺の働きが弱く、肝の気が強くなりやすく、風邪や情緒不安定、血圧の変動などが起こりやすい年回りです。
小寒初候五日の五行循環
小寒初候の五日間の干支は次の通りです。
1月5日:己卯日(土・陰)
1月6日:庚辰日(金・陽)
1月7日:辛巳日(水・陰)
1月8日:壬午日(木・陽)
1月9日:癸未日(火・陰)
この五日間の天干を並べてみると、そこには一つの明確な法則が見えてきます。すなわち、五行の相生の順である 土 → 金 → 水 → 木 → 火 という循環です。土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生じ、木は火を生じる。この相生の流れが五日間の中でそのまま巡っており、五日で一つの「小さな五運の気の循環」が完成しているのです。
これは、『黄帝内経』が五行によって一年の年運を測る方法が、五日という最小単位の中にもそのまま表れている例だと言えます。したがって、天干地支さえ分かれば、その年の年運と、地支によって分かれる六段階の気の性質を重ね合わせることで、その年の気候傾向をかなり正確に予測することができます。そこから、起こりやすい病態や、人体の五臓の変化も自然に推し量ることができるのです。原理はこのように非常に明快です。
古代の暦が干支を細かく記しているのは、まさにこのためでした。陰陽五行の変化を読み取り、農事、健康管理、旅の時期など、あらゆる生活の指針とするためだったのです。
それでは、小寒の初候の五日間で一つの小さな五行循環が完結するのなら、毎日その日の五行に合わせて養生すべきなのでしょうか。そこまで意識して実践することも可能ですが、ここではまず、この例を通して「一年の五行年運を理解する」ことを目的とします。つまり、小寒はまだ2025年乙巳年の金運の影響下にあり、大寒を過ぎて初めて2026年丙午年の水運に切り替わる、という理解を得るための説明なのです。
したがって小寒の節気における養生は、「乙巳年は金運が弱く、肝の気が揺れやすく、脾胃が影響を受けやすい」という年運の背景を踏まえたうえで、その体調の乱れを調える食養生を考えていくことが基本となります。
乙巳年の終之気における小寒の気の流れ
乙巳年が小寒を迎える頃は、一年を六つに分けた最後の段階、すなわち「終之気」にあたります。これは小雪・大雪・冬至・小寒の四つの節気を含む期間で、小寒はその締めくくりに位置します。この時期の気の特徴は、外は寒水が強く、内には「相火」が伏していることです。相火とは、水の中に潜む火で、まだ地表に現れず、腎の水と肝の木の働きに関わり、肝腎両方の気の巡りに影響を及ぼします。
陽気はすでに動き出そうとしていますが、なお寒気に抑えられ、肝の気は鬱しがちになります。そのため、内にこもった熱は感情の不安定さや血圧の変動、睡眠の質の低下、心臓の働きにも影響しやすくなります。まさに「外は静かで、内は動き始めている」時期であり、火を無理に外へ引き出すのも、寒さを力ずくで追い払うのも適切ではありません。
とりわけ小寒の初候は、気の向きが変わり始めたばかりで、まだ勢いが形になっていない段階です。この五日間の養生の要点は、強く補うことではなく、脾胃の働きを整え、肝と脾を調和させながら、芽生え始めたわずかな陽気をそっと支えてあげることにあります。
セリで「転じる気」を受け止め、肝脾を調える
中国ではこの時期を「雁北郷」として空を見て気の変化を読み取りますが、日本では「芹乃栄」として地上の芹(セリ)の生育に注目します。いずれも示しているのは同じこと、気の向きはすでに変わりつつあるものの、その力はまだごく軽い、ということです。
芹は湿地に育ち、寒さに耐えつつも気の巡りを滞らせません。肝と脾に入り、肝を伸びやかにし、脾を助けます。小寒の頃、真っ先に青々と伸びますが、その姿は決して派手ではありません。これは火を強めるためではなく、陽が動き始めるこの時期に、気の転換を静かに整えるための食材なのです。
寒湿が厳しい外の環境の中で、芹を取り入れることは、体内の陽気が潜伏から上昇へとスムーズに転じていくのをやさしく助ける意味を持ちます。まもなく訪れる大寒に備えるための、穏やかな下支えでもあります。

鶏肉・豚肉・牛肉と芹やきのこを炒めたり、豆腐と和えたり、餃子の具にしたりして、旬の芹を意識的に取り入れることは、臓腑の陰陽を調え、肝を伸ばし脾を健やかにしながら、小寒の気の流れに寄り添う、日本の伝統的な食養生の一つです。
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