(Shutterstock)

「冬に大根、医者いらず」 中医学が教える大根もちの効能

霜降の頃になると、寒気はいっそう深まり、秋と冬の気が入れ替わる時季を迎えます。この時期は肺がもっとも傷つきやすく、咳や風邪、インフルエンザが流行しやすい季節でもあります。そんなときにぴったりの身近で頼れる食材が「大根」です。

昔から「冬に大根、夏に生姜、医者いらず」と言われるように、この言葉はまったくの道理にかなっています。ただし、その理由を理解せずに食べては、せっかくの効能も十分に発揮されません。本当に大根の力を引き出したいなら、まずは「なぜこの季節に大根がよいのか」を知ることが大切です。

 

大根は「気を下げる」働きで体を整える

中医学では、世界のすべては「木・火・土・金・水」の五行によって成り立ち、四季の移ろいもこの五つのエネルギーが循環する姿とされています。

春は木、夏は火に属し、陽気が上昇する季節。秋は金、冬は水に属し、陽気は下降します。土はその中心で、まるで車輪の軸のように上下の気の流れを調え、天地の循環を保っています。

人の体もこの自然と同じく、五臓が五行に対応して気を巡らせています。肝は木に属して上へと伸び、肺は金に属して下へと降ろす働きをします。春に肝の気が上昇し、秋に肺の気が下降する。この「昇降の循環」こそが健康の根本です。

しかし、秋冬に肺の気がうまく下がらないと、上半身に陽気がこもり、咳・のどの痛み・不眠・便秘などの不調を招き、さらには肺熱による炎症を起こすこともあります。

そんなときが大根の出番となります。

大根は「気を下げる」ことが得意な食材です。(Shutterstock)

大根は性質が涼しく、味は辛みと甘みを併せ持ち、なによりも「気を下げる」ことが得意な食材です。肺や胃の気を下に導き、痰をさばき、咳をしずめ、食欲を整え、胃の滞りを解消します。

咳や痰、しゃっくり、食べすぎによる不調の多くは「気が上へ昇りすぎる」ことから起こりますが、大根を食べることで気の流れが自然に整い、咳も痰もおさまります。

ただし、「降気」が過ぎると、肝の働きを弱めて気のめぐりが鈍くなり、倦怠感や気分の落込みを招くことがあります。そのため、大根を食べるときは、ねぎ・にら・しそなど、やや陽性の食材を合わせるとよいでしょう。そうすれば「降」の中にも「昇」があり、気の流れが調和し、秋冬の養肺・整気に理想的な食べ合わせになります。

次に紹介するのは、そんな季節にぴったりの最も身近で手軽な一品です。

 

養生レシピ:大根もち(3〜4人分)

材料

  • 大根……1本(約500g)
  • 椎茸……2枚
  • むきエビ……50g
  • 油揚げ……1枚
  • 青ねぎ……2本(小口切り)
  • 卵……1個
  • 小麦粉……100g
  • 塩……小さじ1
  • こしょう……少々
  • うま味調味料……少々
  • サラダ油……適量

作り方

  1. 大根は洗って皮をむき、細い千切りにして軽く水気をしぼる。

     
  2. 椎茸、エビ、油揚げは細かく刻むか細切りにする。

     
  3. ボウルにすべての材料を入れ、塩・こしょう・うま味調味料で味を調える。

     
  4. 卵を割り入れ、小麦粉を加えてややとろみのある生地に混ぜる。

     
  5. フライパンに少量の油を熱し、スプーンで生地をすくって小さな円形に広げ、両面をこんがり焼き上げる。

養生ポイント

大根:肺を潤し、痰を切り、熱を冷まして咳をしずめ、気の流れを下げて脾胃の働きを助けます。

エビ:腎の陽を補い、体を温めます。

ねぎ:気の巡りを整え、香りで陽気を引き出します。

こしょう:胃を温めて冷えを散らし、消化を助けます。

この料理全体が、気の流れを「下げながら上げる」絶妙なバランスを持ち、温かさの中にも潤いをもたらします。

まさに、秋冬の「気を収めることを貴しとする」季節の理にかなった一品です。

関連記事
腎を補う前に――まず胃腸を整える 冬は「水の季節」とされ、体の中では「腎」に関係が深い時期です。ですから冬にな […]
立冬は肺が弱まり腎が冷えやすい季節。今年は金気が不足し肺の働きが乱れやすいため、五臓の調和が重要です。白菜や豚肉を使った温かい料理で脾と腎を温め、気血の巡りを整えましょう。
秋冬は湿気と乾燥が重なり、脾胃と肺が弱りやすく便秘が増える季節。セロリは気の巡りを促し、エリンギは腸を潤し、牛肉は胃腸を温める食材。三つを組み合わせることで、気血が整い、自然な排便リズムが戻ります。
シソは胃腸を整え、体を温め、風邪や寒さから身を守る力を高めます。特に朝に食べると、体の陽気が自然に立ち上がり、秋冬の風邪予防に効果的。朝食に取り入れたい伝統の養生法です。
中医学の養生は、体を自然界のように調和させる「気候調整」の学問。五行の働きが乱れると病が生じ、整えば健康が戻る。季節と連動した「人体の気候」を理解することで、日々の食と生活に新たな視点が生まれます。