秋冬の便秘に セロリとエリンギで腸を整える
秋冬に便秘が起こりやすい理由
秋から冬へと移り変わるこの時期は、寒さと湿気が同時に強まります。季節の変わり目を司る「土」の気が旺盛になり、体内では脾胃、つまり消化の働きに深く関わります。しかし、この「土気」は湿気を帯びやすく、食べたものの消化吸収が滞り、気の巡りが悪くなるため、便秘が起こりやすくなるのです。気の流れが止まると体内の水分がうまく行き渡らず、腸が乾いて固くなるのです。
中医学では「肺と大腸は表裏の関係にある」と言われます。肺は気の流れを司り、上へ下へと巡らせる働きがあり、大腸はその流れに乗って排出を行います。肺の気が充実していれば腸の働きもスムーズになりますが、逆に肺の気が弱ったり、体内の潤いが不足すると、大腸が乾いて便が出にくくなります。
また、秋から冬にかけては「土が旺盛で木を抑える」時期でもあります。肝は「木」に属し、血を蔵し、気血の流れを調える臓器です。ところが、土の力が強くなりすぎると肝の働きが抑えられ、気血の巡りが滞り、結果として肺や大腸の働きまで影響を受けてしまいます。したがって、便秘を解消するには、肝の気を整え、胃の働きを高め、肺を潤すこと——この三つのバランスをとることが大切です。
そんな中で、セロリ・エリンギ・牛肉の組み合わせは、「肝の気を整え、肺を潤し、脾胃を温める」という三つの効果を兼ね備えた理想的な食材です。
セロリ——肝と胃を調え、気と血の流れを活発に
セロリは甘くてほろ苦く、性質は涼しくやや冷たいですが、その香りは清らかで胃腸を冷やしすぎることがありません。湿気が多く気が滞りやすい秋冬にぴったりの食材です。
『本草綱目』には「セロリは気の巡りを整え、血脈を通す」とあります。肝と胃に作用し、肝の鬱滞を和らげて胃腸のバランスを取るため、木と土の関係を調和させます。気が通れば血も巡り、血が巡れば潤いが行き渡り、大腸も自然に潤って便通がよくなります。
秋冬に多い「気の滞りによる便秘」には、この清々しい香りで気を通すセロリがぴったりです。
セロリには食物繊維とアピイン（セロリ特有の香り成分）が豊富に含まれ、腸のぜん動を促し、血圧や炎症を抑え、血液の流れをなめらかにします。カリウムが多くナトリウムが少ないため、塩分の摂りすぎやストレスで滞った気血を整える働きもあり、「肝を和らげ、気血を巡らせ、腸を潤す」という中医学の効能にぴったり一致しています。
エリンギ——肺を潤し、気を補い、腸を整える
日本の食卓でもおなじみのエリンギは、白くしっかりとした根元を持ち、その姿が大腸の形にも似ています。味はまろやかで甘く、潤いがありながら重すぎず、肺と大腸に対応する性質を持ちます。
『食療本草』には「きのこ類は多くが気を補い、乾きを潤し、胃腸を整える」とあります。エリンギは肺・胃・大腸に働きかけ、肺を潤して気を補い、便通をよくし、のどの渇きを癒し、胃腸の働きを助けて湿気を取り除きます。
エリンギは木のエネルギーを吸収し、湿った土で育つため、「通す」と「潤す」の両方の性質を兼ね備えています。そのなめらかな食感は、腸を潤してスムーズに働かせることの象徴のようです。まさに、乾燥して便秘しがちな秋冬に最適な食材といえるでしょう。
エリンギにはβ-グルカンや多糖類が豊富で、腸内の善玉菌を活性化し、排便のリズムを整えます。さらに、ビタミンB群や銅・セレンなどの微量元素も多く含まれ、免疫力を高め、抗酸化作用を発揮します。水分と植物性たんぱく質も豊富で、腸内をしっとり保ち、気血のめぐりを助ける働きがあります。まさに「肺を潤し、便を通じ、気を補って胃腸を整える」食材です。
牛肉——胃腸を温め、寒湿を取り除く
牛肉は甘くて温かい性質を持ち、胃腸に働きかけます。『本草綱目』には「脾胃を補い、気力を高め、血を養う」とあります。豚肉のように脂っこくなく、温かくやさしく体を補うため、気血を養い、胃腸を強めて臓腑のエネルギーを巡らせます。
秋冬の寒い時期には、牛肉が胃腸の陽気を温め、寒さと湿気を追い払い、消化吸収を助けることで肺の気を補い、大腸の働きを促します。まさに秋冬の便秘対策にぴったりの食材です。
牛肉には良質なたんぱく質、鉄、亜鉛、ビタミンB12が豊富に含まれ、赤血球の生成を助け、体力や代謝を高めます。分岐鎖アミノ酸が筋肉のエネルギーを維持し、消化酵素の分泌を促すため、胃腸の働きをしっかり支えます。疲れやすく気力のない体質の方には、牛肉が「中を温め、気を補い、胃腸を養い血を増やす」力を発揮します。
レシピ：セロリとエリンギの牛肉炒め
材料（2〜3人分）
- 牛もも肉または牛ヒレ肉：150g（薄切り）
- セロリ：100g（斜め切り）
- エリンギ：80g（薄切り）
- しょうが：2枚（スライス）
- ごま油：小さじ1
- 塩・しょうゆ：適量
- 料理酒：少々
- 水溶き片栗粉：大さじ1
作り方
- 牛肉に塩・しょうゆ・料理酒・水溶き片栗粉を加えて、軽くもみ込み、10分ほど下味をつけます。
- フライパンに油を熱し、しょうがを入れて香りが立つまで炒めます。
- 牛肉を加え、色が変わるまで手早く炒めたら、一度取り出しておきます。
- 同じフライパンでエリンギを炒め、香ばしい香りが出たらセロリを加えます。
- 牛肉を戻し入れ、全体を炒め合わせ、塩で味を整えます。
- 水溶き片栗粉で軽くとろみをつけ、仕上げにごま油を回しかけて完成です。
効能
この料理は、気の巡りを整え、腸を潤し、消化器系を温めて消化を助け、肝・胃・肺のバランスを整える働きがあります。
セロリは肝の気を和らげて気の流れをスムーズにし、エリンギは肺を潤して便通を促し、牛肉は気血を補って胃腸の働きを強め、体を温めながら湿気を取り除きます。
三つの食材が組み合わさることで、体内の気の流れと血のめぐりが調い、腸の働きが自然に活発になって便秘が改善されます。
体質別のアレンジ
気虚体質（疲れやすく息切れしやすいタイプ）
にんじんや山芋の薄切りを加えると、胃腸を補い気を養い、体の推進力を高めます。
陰虚燥熱体質（口の渇き・便が硬いタイプ）
エリンギの量を増やすか、きくらげを加えると、潤いを補い便通をよくします。
湿が多い体質（お腹が張る・舌苔が厚いタイプ）
牛肉の量を減らして鶏むね肉に替え、しょうがの細切りやねぎを加えると、湿を取り除き、陽気を助けます。
まとめ
人体の「気」は、天地の五行の流れと同じように循環しています。秋から冬への季節には、寒（水）・燥（金）・湿（土）の三つの気が同時に働き、乾いた「金」は肺と大腸に影響し、湿った「土」は肝臓と胃腸に負担をかけます。その結果、気血の流れが滞り、体内の潤いが行き渡らず、便秘だけでなく、イライラや不眠などの不調も現れやすくなります。
このような時こそ、体に合った「薬効のある食材」で気血の流れを整え、五臓のバランスを保つことが大切です。食で調えれば、自然と不調は和らぎ、心身ともに整っていきます。