焼きみかん:肺をうるおし、痰をやわらげる
昔から伝わる「焼きみかん」は、みかんを丸ごと直火やトースターで軽く焼き、皮が少し黒くなったらむいて中の果肉を食べるという、とても素朴な食養生です。こうして温めたみかんは、肺をうるおして痰を出しやすくし、喉の乾きやイガイガをやわらかく和らげてくれます。
一見ただの民間療法に見えますが、実はこのシンプルな方法の中に、陰陽五行のバランスを整える中医学の知恵が静かに息づいています。
寒い冬には「肺の金」が弱りやすい
中医学では、私たちの体の五臓は五行の気のはたらきによって支えられ、外の自然界の気とも呼応しながら常にめぐっていると考えます。
木は肝をつかさどり「酸」、土は脾をつかさどり「甘」、金は肺をつかさどり「辛」――それぞれに対応する性質があります。
冬の寒さが深まると、金の気は次第に弱まり、金に属する肺も影響を受けて働きが落ちやすくなります。肺は呼吸だけでなく、皮膚や毛穴の開閉も管理しているため、肺の力が不足すると、喉や口が乾きやすくなり、肌が荒れ、毛穴の調節もうまくいかなくなります。
さらに、体の表面を守る「衛気(えき)」――外からの冷えやウイルスを防ぐ防御の気も弱まり、風邪をひきやすくなるのです。だからこそ、冬は肺をうるおし、肺の気をのびやかに通すことが何より大切になります。
焼きみかんは、加熱によって性質がやさしく変わり、まさにこの「肺をうるおし、気を巡らせる」という季節の養生にぴったりの食養生なのです。
みかんの果肉:甘酸が脾と肝に入り、肺をうるおす土台
みかんの果肉は、甘酸っぱく、やや涼性です。
甘味は「土」に属して脾に入り、酸味は「木」に属して肝に入ります。甘味は胃腸の働きを整え、酸味は体の潤いを保つはたらきがあるため、みかんの甘酸っぱさによって、消化をつかさどる脾と、気の巡りを調える肝のバランスが整い、体内に潤い(津液)が生まれます。この津液が肺にめぐることで、自然と喉の渇きが癒され、肺がうるおいます。乾燥しやすい秋冬に、みかんを食べると口の中が潤うのはこのためです。
ただし、果肉はもともと涼性であるため、食べ過ぎると脾の陽気を冷やし、消化力が落ちてしまいます。すると、かえって痰や湿が生じ、肺の働きを助けるどころか、肺気の上下の巡りが滞り、咳を招きやすくなります。
みかんの皮:辛苦温散で、肺を理し、脾を通す要
中医学では、辛味は「金」に属して肺に入り、寒を散らし、気の滞りを解くとされます。苦味には湿を乾かし、気を下ろす働きがあります。
みかんの皮は性質が温かく、味は辛苦。気を巡らせ湿をさばき、肺を開いて痰を除くと同時に、脾胃の運化を助け、胃のつかえや膨満感を和らげます。
五行で見ると、皮の黄色は「土」に属して脾を助け、さらにその辛味は肺の金に入り、肺の働きをのびやかにします。
果肉だけを食べて皮を用いないと、涼性の性質だけが残り、温かく散らす力が不足するため、気が滞り、脾胃を冷やしやすく、痰を切り咳を鎮める効果も十分に発揮されません。
焼きみかん――陰陽が補い合い、肝・脾・肺を調える知恵
昔から民間で親しまれてきた焼きみかんは、「果肉のひんやりとした潤い」と「皮の温かく巡らせる力」という、相反する性質をうまく組み合わせた食養生です。加熱することで、皮の持つ香りと温める力が果肉にも移り、みかん全体が単なる「冷やす果物」ではなく、「体を温めつつ潤す」性質へと変化します。
この温かさを含んだ辛味が、体の潤いを肺へと導き、のどや気道をしっとり保ち、痰をやさしく外へ出す助けになります。また、ほどよい温性は胃腸を冷やさず、消化をつかさどる脾の働きを守りながら、体の中で潤いを生み出す力を支えます。
その結果、肺に十分な潤いが届き、のどや口の乾燥がやわらぎ、皮膚もしっとりして、毛穴の開きが整います。体の表面を守る力も安定し、寒さやウイルスに対する抵抗力が自然と高まっていきます。
焼きみかんが昔から親しまれてきたのは、果肉で肺を潤し、皮で気の巡りを整え、火の力で全体の性質を調えるという、陰陽五行の理にかなった組み合わせになっているからなのです。潤すけれど冷やさず、痰を取りながらも体を乾かさない、まさに冬にふさわしい知恵の一品です。
日本の焼きみかんと、みかん皮のはちみつ漬け
日本の冬にも「焼きみかん」という食べ方があります。皮つきのみかんを網やフライパンで弱火でじっくり焼き、皮がうっすら香ばしくなる程度でいただきます。果肉は加熱によってやわらかく甘みが増し、体を冷やさずに潤す性質になりますので、のどの乾燥や長引く咳、寒さによる不調のあるときに適しています。
もう一つの手軽な方法が、みかん皮のはちみつ漬けです。新鮮なみかんの皮を細く刻み、さっと下ゆでして苦味を抜いた後、はちみつに漬け込みます。はちみつにはのどを潤して咳を和らげる働きがあり、温かい性質のみかん皮と合わさることで、潤しながらも重たくならず、痰を取りながらも体を乾かしにくい飲み物になります。冬にぬるめのお湯で割って飲むと、乾いた咳、のどの違和感、鼻づまり、胃の張りなどの緩和に役立ちます。
適している方
・秋冬に口や鼻、のどが乾きやすく、のどのかゆみや長引く咳がある方
・風邪のひき始めで、白くさらっとした痰が出るタイプの方
・胃腸が弱いものの、冷えに弱く体を温めながら潤したい方
・皮膚が乾燥しやすく、風邪をひきやすい方
控えたほうがよい方
・熱っぽい咳で、黄色く粘りのある痰が出る方
・胃に熱がこもりやすく、口が苦い、強い乾きがあるものの冷えがない方
・糖尿病のある方(はちみつ漬けは注意が必要です)
・みかんにアレルギーのある方