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ぶり大根で整える 大寒の養生

日本では、ぶりは「出世魚」と呼ばれます。成長に合わせて名を変え、関東では一般にワカシ、イナダ、ワラサを経て「ぶり」と呼ばれる――その姿は、時に従い、一段ずつ進んでいく人生の歩みの象徴として、年の始まりの食卓にもたびたび登場します。

こうした習わしは一見、縁起担ぎの文化のようにも見えます。けれど中医学の視点から見ると、そこには季節の理に沿った、はっきりした必然があります。

大寒の前後は、天地の気が「蔵(しまう)」から「動(うごく)」へと移る節目。寒さが最も深まる一方で、新しい一年の気運が、目立たないところで立ち上がり始める時期です。この時期の食事は、ただ体を温め、空腹を満たすためのものではありません。新しい一年における、人と自然の“気の巡り”の土台を整える――それが役割です。

だからこそ大寒の食事は、「ごちそう」のためではなく、身体が次の段階へ無理なく移行するためのもの。ぶり大根は、その目的にかなった一椀なのです。

 

年初の気の特徴――下に冷え、水は強く、上では風が動く

年の始まりは、天地の気の流れとして「水の力がやや強く、冷えが体の内側や下半身に入り込みやすい」時期にあたります。影響を受けやすいのは腎で、腰や膝のだるさ、トイレの近さ、疲れが抜けにくい、気力が湧きにくい――といった不調が出やすくなります。

一方で、大地の気は静止しているわけではありません。内側では「風」に象徴される木の気が静かに動き始め、肝の働きを促し、気を上へ外へと巡らせようとします。

ここで寒さが強いと、体の中にズレが生じやすくなります。気は動こうとしているのに、脾胃(消化を司る中心)が冷えや湿の影響を受けて支えきれず、巡りが途中で滞るのです。

その結果、病気と断定するほどではないものの、「なんとなく重い」

「すっきりしない」「やる気が出ない」といった感覚が続き、気分の落ち込みと消化の不調が同時に現れやすくなります。

だからこそ年初の養生では、どこか一つを強く補うのではなく、肝・脾・腎の働きを整え、気を巡らせることが大切になります。この「肝を調え、脾を和し、腎を助け、気を巡らせる」という考え方が、この時期の養生の要です。

 

なぜ「ぶり」を選ぶのか

ぶりは中国語では「青甘(せいかん)」と呼ばれます。この呼び名には、ぶりがもつ気の性質が、すでに表れています。

年の初めを祝う出世魚「ぶり」(shutterstock)

中医学的に見ると、ぶりは性質がやや温で、肝と脾に働きかけます。燥しすぎず、脂が重たく残りにくい。血を養いながらももたれにくく、気を巡らせても散りすぎない――バランスのよい魚です。

年初は「風木」が動きやすく、肝の気が揺れやすい時期。この段階でぶりを用いると、肝の気を過度に煽ることも、無理に抑え込むこともなく、流れをなめらかにし、同時に脾の働きを安定させてくれます。

肝が暴走せず、脾がきちんと運化できるようになると、気血の流れは自然に整い、「真ん中に詰まって上にも下にも行かない感じ」「食後の膨満感や重だるさ」といった不調が、ほどけていきます。

さらに、ぶりの温潤な性質は、強い刺激を与えずに腎の気を支えます。水の気が強く、冷えが腎を傷めやすい年回りに、まさに適した食材と言えるでしょう。

こうした理由から、ぶりは年の始まりにも、寒さが最も深まる大寒の頃にも、無理なく寄り添う、理にかなった魚なのです。

 

大根と生姜――気の流れを“本当に”動かすために

大根は、性質は甘辛でやや涼性、肺と胃に働きかける食材です。肺と胃の気を下へ導く力があり、上に滞りがちな熱や張りついた気を、ゆっくり下方へ戻していきます。結果として、上にこもった火の気が腎のほうへ落ち着き、全身の気の配置が整っていきます。

大根は、長く煮込むことで辛味の鋭さが取れ、穏やかな「巡らせる力」へと変わります。湿・滞・冷え・こもった熱が入り混じった状態を、無理なくほどいていくのが得意です。

大根の性質は甘辛でやや涼性、肺と胃に働きかけます(shutterstock)

寒さを力で追い払うのではなく、寒湿に塞がれて上で熱が行き場を失っている“通路”を、少しずつ緩めていく。その結果、寒と熱がそれぞれ本来の位置に戻り、自然なバランスが回復していきます。

ここに加える少量の生姜は、性質は温で脾胃に入り、この料理では「汗をかかせるため」でも「強く温めるため」でもありません。魚と大根が持つ“冷えやすさ”を中和し、料理全体を 「温かく、しかし燥させず」「動かしながらも乱さない」状態に整える役割を担います。その結果、気の巡りが滞りなく、滑らかに進むようになります。

ぶり・大根・生姜の組み合わせは、補薬のように力を足すためではありません。自然の流れに沿って、人と天地の気の動きを調和させるための取り合わせです。

 

この一杯は、一年の「出だし」を整える養生

明確なのは、この料理は「治療」を目的としたものではない、という点です。

一年の気が動き始める入り口で、肝が滞らない、脾が重くならない、腎が冷えきらない、気が詰まらない、心がざわつかない――そうした状態をつくること。これが、ぶり大根の役割です。

年の初めに、身体が正しい一歩を踏み出せていれば、その後の節気で無理に踏ん張ったり、消耗したりする場面は、確実に少なくなっていきます。

 

レシピ:ぶり大根

ぶり大根のイメージ写真(Shutterstock)

材料(2人分)

  • ぶり(切り身)……300g
  • 大根……400g
  • 生姜……2〜3枚(または細切りを少々)
  • 水……500ml
  • 酒……大さじ1
  • 醤油……大さじ1〜1.5
  • 塩……少々(仕上げ用)

作り方

  1. 大根は皮をむき、厚めの輪切り、または乱切りにする。
  2. ぶりは酒少々(分量内)をふって軽くなじませ、臭みを取る。
  3. 鍋に水と大根を入れ、煮立ったら中火にして約10分煮る。
  4. ぶりと生姜を加え、弱火で10〜15分ほど煮る。
  5. 醤油で味を調え、仕上げに塩を少量加えて整える。

食べ方のポイント

  • 温かいうちに食べる
  • 作り置きはせず、その日のうちにいただく
  • 主食はご飯など淡泊なものを合わせ、辛味や濃い味のおかずは控える

この料理は、体を冷やさず、乾かさず、やさしく温めることを大切にし、濃い味付けを避けています。気の巡りをゆっくり整えることを目的としており、大寒の前後から立春にかけての養生に適しています。

 

結び

日本では、ぶりに「出世」の願いを託します。中医学はそれ以上に、天の時・地の気に身を委ね、自然の流れに逆らわずに養うことを重んじます。

一年の気が立ち上がる大寒の節目に、ぶり大根という一椀で心身を整えることは、体をいたわる行為であると同時に、天地のめぐりに敬意を払うことでもあります。

人が自然に沿って養われれば、気の巡りは自ずと伸びやかになります。一年の運の良さは、こうした穏やかで無理のない一食から、始まっていくのかもしれません。

 

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