南アジア安全保障の重心は海へ 核抑止と制度なき競争
数十年にわたり、南アジアの安全保障の論理は陸上を基軸としてきた。カシミールの実効支配線、係争中の国境、そしてほぼ例外なく陸上から始まる危機である。だが近年、インド洋およびアラビア海で起きている動きは、地域の勢力均衡における真の重心が、徐々に海洋領域へ移りつつあることを示している。現在これらの海域で展開しているのは、一時的な力の誇示ではなく、静かではあるが根本的な抑止構造の変化だ。
インドがアリハント級原子力潜水艦から射程約3千500キロの海中発射弾道ミサイルK-4の試験を行っていることや、中国の情報収集・調査船が北インド洋に継続的に展開していることは、個別に見れば技術的、あるいは日常的な動きに見えるかもしれない。しかし、これらを総合すると、南アジアが多層的かつ複数領域にまたがる核抑止の段階に入りつつある姿が浮かび上がる。
戦略的に極めて重要な空間であるインド洋には、独特の特徴がある。複数の主体が存在する一方で、いずれの大国も安定した秩序や拘束力のあるルールを確立できていない点だ。北大西洋条約機構(NATO)や各種制度が比較的構造化された安全保障環境を形作ってきた欧州や、「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約(UNCLOS)や地域的枠組みによって一定の規範が定着してきた東アジアとは対照的に、インド洋には競争を管理し、対立を防ぐための強固な制度が欠けている。中東は露骨に不安定だが、インド洋は秩序と無秩序の境界に位置している。
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