(Shuterstock)

香りと味わいが整える 心をゆるめる柚子茶

コンビニの棚やカフェのメニューで、柚子茶は今やごく身近な飲みものです。人がこの一杯を選ぶとき、そこには理屈より先に働く「体の感覚」があります。

口に含んだ瞬間の、やさしい温もりと澄んだ香り。その一杯が、優しく気持ちを整え、胸にたまったもやもやや不安、張りつめた緊張を、静かにほどいてくれるのです。

甘すぎず、重たさもなく、香りは穏やかで強すぎない。飲みものとして親しみやすい一方で、どこか「食養」を感じさせる。それも、はちみつ柚子茶ならではの魅力でしょう。

中医学の視点から見ると、この「心がゆるむ感覚」は決して偶然ではありません。一杯の果実茶の中には、すでに陰と陽のバランス、そしてそれぞれの役割が自然に備わっています。香りは気の巡りを促し、味わいは体を養う。甘みは緊張をゆるめ、酸味は津液(体内の水分の総称)を生み、余分な熱を静かに下へ導く。

清らかな香りは皮にあり、脾を目覚めさせ、肝をゆるめる

多くの人は、柚子と聞くと果肉のさっぱりとした甘さを思い浮かべます。しかし、心の緊張をやわらげ、気持ちを軽くしてくれる力は、実はあの薄い皮の部分に多く含まれています。

細切りにした柚子の皮(Shutterstock)

食養の考え方では、芳香のあるものは脾に入り、気の巡りを動かすとされます。柚子の清らかな香りは、外皮と白いわたの間に集まり、ほのかな苦味と辛味を帯びています。それは味蕾を刺激するためではなく、体の中で滞りがちな気の流れを、そっと動かすためのものです。閉め切った部屋に少しだけ風を通すように、気が動くことで、胸のつかえや気分の重さが自然と和らいでいきます。

果肉だけを使えば、甘く潤す力は十分でも、肝の気を伸ばし巡らせる働きは弱まります。 一方で、新鮮な柚子を皮ごと薄く切り、果肉とともにお湯に入れると、香りが穏やかに立ちのぼり、脾を目覚めさせ、肝の気も伸びやかになります。

この香りは、強く主張するタイプのものではなく、ふっと通り抜けるような軽やかさがあります。飲んでいるうちに呼吸が深くなり、こわばっていた気持ちが少しずつゆるんでいきます。

 

果肉とはちみつを合わせて、うるおうのに重くならない

柚子の果肉は、甘みとほどよい酸味があり、やや涼性。口に含むとみずみずしく、津液を生んで喉の渇きをやさしく癒し、「うるおった」という感覚をもたらします。

一方、柚子の皮には、ほのかな苦みと辛みがあり、性質は平性、あるいはわずかに温性です。気の巡りを促し、滞りをほどく働きに長けています。

はちみつは甘く平性であり、乾きを潤すと同時に、他の味わいをやさしくまとめ上げる役割を果たします。そのため、飲みもの全体が冷えすぎることもなく、甘さが重く残ることもありません。

三つを合わせた一杯は、寒性と温性が釣り合い、甘みと酸味が調和した仕上がりになります。熱を静かに鎮めつつ、乾きを潤し、気を巡らせながらも消耗させません。

この組み合わせは、何かを「治す」ためのものではありません。忙しさや食べすぎ、不規則な生活が続いて、胸のあたりがなんとなく重く感じるとき、温かく香りのある一杯が、体の巡りをそっと整えてくれます。 流れが戻れば、人は自然と軽やかに、すっきりとした感覚を取り戻していきます。

 

レシピ:はちみつ柚子シロップ

はちみつ柚子シロップ(Shutterstock)

材料

・柚子(国産・無農薬が望ましい)……1個

・はちみつ……適量(可食部の約60〜80%を目安に。好みや体質により調整)

・氷砂糖……少量(無くても可)

作り方

  1. 柚子はぬるま湯に少量の塩を加え、表皮をやさしくこすって洗い、流水で流して水気を拭き取る。

     
  2. 柚子は皮ごと薄切りにし、種を取り除く。

     
  3. 鍋に少量の水を入れ、柚子と氷砂糖を加え、弱火で15〜20分ほどゆっくり加熱する。皮がやわらかくなり、香りが立っていれば十分で、煮詰めすぎない。

     
  4. 粗熱が取れ、手で触れられる程度の温度になったら、はちみつを加えてよく混ぜる。

     
  5. 水けのない清潔なガラス瓶に入れ、冷蔵保存する。

飲むときは大さじ1〜2杯を目安に、白湯、紅茶、薄めの緑茶などで割って、好みに合わせて楽しめます。

この方法は軽く加熱することで、柚子皮の冷えやすい性質を和らげつつ、清らかな香りを保てるため、日常使いに向いた穏やかな仕上がりになります。

脾胃が冷えやすい方は、薄切りの生姜を1枚加えて飲むと、さらにやさしくなります。

注意事項

冷たい飲み方は、気血を滞らせ、脾や腎を弱らせやすく、肝をのびやかに整えるという目的にも反するため、おすすめできません。

はちみつは甘く潤しますが、多すぎると腸がゆるみやすいため、体調や体質に応じて量を調整してください。脾胃が弱く下しやすい方は、濃いめや空腹時の摂取は控えめに。

血糖値が高めの方は、はちみつの使用量を少なめにしてください。

2歳未満の乳幼児は消化機能が未熟なため、はちみつ入り飲料は避けましょう。

また、夜間の多量摂取も控えましょう。何事も「ほどほど」が大切で、過ぎるとかえって睡眠の妨げになります。

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