AIがもたらす豊かさは インフレを終わらせず 貨幣を無意味にもしない
イーロン・マスク氏の最近の発言をきっかけに、AIが経済に及ぼす影響をめぐる議論が改めて活発になっている。発端となったのは、政府が家計に直接現金を給付することで支えられる「誰もが高い所得を得られる社会」を将来像として語る動画クリップが広く出回ったことだ。その映像はXで急速に拡散し、金融メディアでも大きく取り上げられた。マスク氏はその中で、AIによる生産の伸びはマネーサプライの増加を上回るほど急速になるため、こうした給付はインフレを招かず、むしろデフレ的に働く可能性すらあると主張している。彼の理屈では、財やサービスの供給が貨幣の増加よりも速く拡大するなら、政府が家計に現金を配っても物価は下がるはずだという。
この考え方は、AIによって雇用が大きく揺さぶられる労働市場では所得支援が必要になるという、彼が以前から示してきた主張の延長線上にある。ただ今回は、それをよりはっきりとした貨幣論の形にまで押し広げている。つまり、生産性の伸びが十分に大きければ、大規模な通貨供給の拡大も必ずしも物価をゆがめるとは限らない、というわけだ。
確かにこれは印象的な主張である。そして、こうした発言がなされたタイミングにも意味がある。マスク氏の事業上の利害は、AIによる変化がどれほど大きく、どれほど避けられないものとして受け止められるかと、ますます強く結びついているからだ。彼のAI関連事業はSpaceXを中心とするより大きな事業圏の中に深く組み込まれつつあり、しかも近く大きな資本市場におけるイベント(IPO)が控えるとの観測も出ている。そうした中で、AIを単なる段階的な技術革新ではなく、世界経済の構図そのものを塗り替えうる力として描こうとする誘因が働くのは当然だろう。
関連記事
米議会で提出された、チベットでのジェノサイド認定を求める超党派法案と、トランプ氏によるジミー・ライ救出への意欲を報じる。中国の弾圧に対し、米国が人権と経済の両面からどう対峙すべきかを問う解説記事
解説 定期的に、大衆は新たな微生物の脅威に直面する。そのパターンは常に一定だ。悲劇的な死や集団感染が発生すると […]
ヴィクター・デイヴィス・ハンソン氏がイラン情勢の終焉を鋭く分析。米国の軍事的優位と経済封鎖に対し、窮地のイランが取る生存戦略とは。中間選挙を控えたトランプ政権の思惑と、激化する膠着状態の結末を予測する
中国が進める「軍民融合」の実態を解説。商船をミサイル艦へ転換する「中大79」や、戦車を輸送する大型フェリー、さらに「海上民兵」という民間を装う準軍事組織の脅威など、偽装される海上戦略の深層に迫る
世界保健機関(WHO)のパンデミック対策の目玉として鳴り物入りで進められてきた「パンデミック協定」の最終合意が、またも合意不達のまま延期となった。この事は何を意味するのか