身近な細菌が認知症を悪化させる可能性

肺炎や副鼻腔炎を引き起こすことで知られる一般的な細菌感染が、アルツハイマー病の悪化に意外な役割を果たしている可能性があることが、研究で示唆されています。

セダーズ・サイナイの科学者たちは、肺炎や副鼻腔炎の原因として知られるクラミジア・ニューモニエ菌が神経組織に長年潜伏し、免疫反応を引き起こして神経損傷や認知症症状を悪化させる可能性があることを発見しました。

研究者らは、アルツハイマー病患者の網膜と脳でクラミジア・ニューモニエ菌のレベルが有意に高いことを発見しました。さらに、細菌レベルが高いほど、脳の変化がより重度で、認知機能の低下が速い傾向があることも確認されました。

「この発見は、感染-炎症軸を標的としたアルツハイマー病治療の可能性を示しています」と、共同責任著者でセダーズ・サイナイ・ゲラン小児科および生物医学科学部門の研究教授であるティモシー・クローザー氏は声明で述べました。

中枢神経系疾患の治療薬を開発するバイオテクノロジー企業「Anavex Life Sciences」の社長兼CEOで、本研究には参加していないクリストファー・U・ミスリング氏は、エポックタイムズに対し、「これは非常に興味深い発見です。感染と炎症がアルツハイマー病で、これまで考えられていた以上に大きな役割を果たしている可能性を強めるものです」と語りました。
 

細菌が網膜に感染して疾患を悪化させる

『Nature Communications』誌に掲載されたこの研究では、正常認知、軽度認知障害、アルツハイマー病の104人の網膜組織を、先進的な画像診断、遺伝子検査、タンパク質分析を用いて調べました。

アルツハイマー病患者では、脳と眼の組織でクラミジア・ニューモニエ菌のレベルが高いことが分かりました。これらの細菌が存在すると、周囲の組織に炎症が伴うことが多く、研究者らは、これが脳を損傷し、時間の経過とともに認知機能低下を引き起こす可能性があると考えています。

研究者らは初めて、クラミジア・ニューモニエ菌が網膜に到達し、体内の感染に対する第一防衛線である自然免疫反応を誘発して、感染に関わる炎症経路を活性化することを発見しました。

クラミジア・ニューモニエ菌は一般的な呼吸器病原体であり、多くの人が20歳までに感染するとされています。

研究者らは、アルツハイマー病患者の眼で炎症に関連する免疫タンパク質のレベルが上昇していることを発見し、継続的な免疫反応が起きている可能性を示しました。細菌を検知するタンパク質も、アルツハイマー病患者の脳と眼の両方で増加していました。

細菌レベルが高いことは、アルツハイマー病の遺伝的リスク因子として知られるAPOE4遺伝子を持つ人で、より多く見られました。
 

マウスモデルが関連性を確認

研究結果を検証するため、研究者らは実験室でヒト神経細胞を調べ、アルツハイマー病モデルマウスも使用しました。

マウスの鼻にクラミジア・ニューモニエ菌を注入すると、7日以内にアルツハイマー病モデルマウスの脳で細菌の存在が明確に増加しました。研究者らは、記憶に関わる脳領域で特定の免疫細胞と炎症マーカーが有意に上昇することも観察しました。

「ヒト組織、細胞培養、動物モデルのすべてでクラミジア・ニューモニエ菌を一貫して確認できたことで、細菌感染、炎症、神経変性疾患の間に、これまで認識されていなかった関連性を特定できました」と、上級著者でセダーズ・サイナイ教授のマヤ・コロニョ=ハマウイ氏は声明で述べました。

特に注目すべき点は、この感染がアルツハイマー病患者の脳に蓄積するアミロイドβタンパク質の産生増加と関連していたことです。

以前の研究でも、アルツハイマー病患者の脳からクラミジア・ニューモニエ菌が検出されており、この疾患に関連するアミロイドβが感染への応答として産生されることが確認されています。
 

潜在的な治療への示唆

これらの知見は、長期間持続する細菌感染がアミロイドの産生を引き起こし、免疫反応を活性化させ、脳細胞の損傷を加速させる可能性を示していると、有機化学の博士号を持つミスリング氏は述べました。

この研究は、早期の抗生物質使用や抗炎症療法などの新たな治療アプローチの可能性を示唆するものであり、網膜を非侵襲的なアルツハイマー病診断ツールとして利用する根拠の一つにもなります。

「この研究は、感染と炎症がアルツハイマー病で、これまで考えられていた以上に大きな役割を果たしている可能性を強めるものです」とミスリング氏は述べました。

彼は、この知見がAPOE4キャリアなどリスクが高い集団に対する予防戦略につながる可能性もあると示唆しました。

「それは、慢性感染の早期スクリーニング、標的型抗炎症アプローチ、神経変性が始まる前に微生物負荷を減らす介入などを含むかもしれません」と彼は語りました。

しかし、ニューヨーク州ポキプシーにある「Northwell Health」の神経内科レジデント医師で、Drugwatch.com にも所属するラジェシュ・ブレラ医師は、エポックタイムズに対し、研究結果は「説得力がある」ものの、この理論を裏付けるにはさらなる研究が必要だと述べました。

「それでも、感染がアルツハイマー病の発症メカニズムに果たす役割を理解する上で、大きな進展につながる可能性があることを示しています」と彼は語りました。

ブレラ医師は、仮に感染がアルツハイマー病の直接的な原因ではなかったとしても、疾患の進行を加速させる要因として作用する可能性があり、抗感染戦略が価値を持つかもしれないと述べました。

「これらの治療法や、この種の研究が予防戦略につながると言うには、まだ時期尚早だと思います。なぜなら、より長期的な研究が必要だからです」と彼は述べました。

(翻訳編集 日比野真吾)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。