過去20年間で、ミニマリズム(必要最小限の持ち物で暮らす考え方)のムーブメントは大きく広がり、多くの人々が、意識的に物を所有する生き方や、散らかっていない空間、そしてそれによって心身にもたらされる穏やかさを受け入れてきました。
しかし、散らかりは依然として大きな問題です。散らかりは身体面にも心理面にも悪影響を及ぼしますが、意識的にそれを生活や環境から取り除き始めることで、私たちの精神的健康は改善し、自分自身や他者、さらには神聖な存在(神や精神的価値観)とより深くつながるための余白が生まれます。
「散らかりとは、過剰な量の所有物によって、生活空間全体が混沌として無秩序になっている状態です」と、デポール大学の心理学教授であるジョセフ・フェラーリはエポックタイムズに語りました。
散らかりの心理学を研究しているフェラーリは、それを「ためこみ症(ホーディング)」とは区別しています。ためこみ症は精神疾患の一種であり、同じ物を強迫的に集め続ける特徴があります。一方、散らかりは、より広範で一般的な状態を指します。
「ためこみ症は縦方向です。同じ物を大量に持っています」と彼は説明しました。「散らかりは横方向です。つまり、物の広がり方です。ためこみ症の人は散らかっていますが、散らかっている人が必ずしもためこみ症というわけではありません」
散らかった環境が脳に与える影響
私たちの周囲にある物は、多くの人が想像する以上に脳へ影響を与えています。散らかった環境は、視覚的にも精神的にも複雑になり、脳は今行っている作業とは関係のない情報まで処理しなければならなくなります。その結果、認知負荷(脳への情報処理負担)が増加し、集中力の低下、判断力の低下、慢性的な精神疲労につながります。
プリンストン大学神経科学研究所による研究では、視覚的な散らかりが私たちの注意力を奪い合うため、物事を明確かつ効率的に考えることが難しくなることが分かりました。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校が家庭内で家族を観察した研究では、散らかった住環境はコルチゾール(ストレスホルモン)の上昇と関連していることが判明しました。特に女性においてその傾向が強く、散らかりが「終わっていない家事や作業」を常に視覚的に思い出させる存在になっていたのです。
地域心理学者でもあるフェラーリと、消費者心理学者のキャサリン・ロスターは、「心理的な家(psychological home)」という概念について研究しています。これは、自分の住空間が自分らしさを反映し、真の安心感を与えてくれるという感覚を意味します。
「散らかりが多いほど、つまり所有物が多いほど、『ここが自分の居場所だ』という感覚は低下します」とフェラーリは話しました。
フェラーリの研究では、散らかった環境で暮らしている人ほど幸福感が低く、生活の質も低いと感じていることが一貫して示されています。データによれば、物を多く持つことは、人を幸せにはしないのです。
なぜ私たちは買い続けるのか
現代の「散らかり」の根源は、比較的新しいものです。著者でありミニマリストでもあるジョシュア・ベッカーは、新著『Uncluttered Faith: Own Less, Love More, and Make an Impact in Your World(散らかりのない信仰――より少なく所有し、より深く愛し、世界に影響を与える)』の中で、消費主義の始まりは第二次世界大戦後の1940年代にあると指摘しています。
彼は、家はより大きくなる一方、 家族の人数は少なくなり、現在ではアメリカの一般家庭には平均して30万点もの物があるとされていると書かれています。
「物質的な商品は、かつてないほど手頃になりました。それは、かつてないほど手に入りやすくなったからです。そしてテクノロジーによって、所有欲の魅力はさらに強くなったと思います」とベッカーはエポックタイムズに語りました。「ソーシャルメディアのアルゴリズムは、私たちが何を欲しがっているのか、そしていつそれを見せればよいのかを非常によく理解しています」
その仕組みの一部は、神経学的なものです。現代の消費文化の多くは、脳の「報酬系」に基づいています。新しい物を買うと、快感や意欲、期待感、報酬感覚に関係する神経伝達物質であるドーパミンが分泌されます。
しかし、その効果は長続きしません。脳はすぐに慣れてしまい、満足感は薄れ、私たちは次の買い物を求めるようになります。心理学ではこのパターンを「快楽順応」と呼びます。どれだけ買っても「十分だ」と感じられない理由を、これが説明しています。
精神的健康を改善する
ミニマリズムが精神的健康を改善する理由の一つは、自分の人生に対する主導権を取り戻せることにあります。それは物理的な環境だけでなく、自分のエネルギーや資源、考え方、選択に対しても同様ですと、ベッカーは述べています。人生をただ漫然と過ごすのではなく自分が進みたい方向へ向かう選択ができるようになるのです。
また、所有物を増やすことから意識をそらすことで自分を幸せにするものは何か、自分にとって大切なことは何か、どのように生きたいのかを見つめ直すためのエネルギーが生まれます。そして、その目標を追求できるようになります。
さらに、物を減らすことで得られる予想外の恩恵として、時間やエネルギー、資源をより自由に人へ与えられるようになること、人とのつながりを築きやすくなること、そして意味や目的を見いだせることが挙げられます。
直感に反するように思えるかもしれませんが、ベッカーは「所有物が少ない人ほど、より多くを人に与える傾向がある」と述べています。
「ミニマリストになってから見つけた最大の喜びの一つは、自分が本当に望んでいた形で人に与えられるようになったことでした」と、彼は著書の中で書いています。
散らかりを片づけることで、外側にも内側にも余白が生まれます。また、自分が所有するあらゆる物の管理によって生じる身体的・精神的疲労も軽減されます。
「家にあるすべての物は、私たちの注意を必要とします」とベッカーは書いています。「掃除し、維持し、整理し、修理し、保管し、移動し、そして最終的には処分しなければなりません。しかし、散らかりを取り除くと、何かが変わります。家は軽やかに感じられ、私たち自身もそう感じるのです」
本当に大切なものとつながる
カトリック教会の助祭(司祭を補佐する聖職者)でもあるフェラーリにとって、不要な物を捨てるのではなく、人に分け与えるという行為には、それ自体に価値があります。
「何も持っていない人たちがいます」と彼は語りました。「もし家族が必要としないなら、そこに遺産を残しましょう。次の人へ受け渡していくのです。世界は『私』のためではなく、『私たち』のためにあるのですから」
精神的な健康の効果に加えて所有物を減らすことは、自分にとって本当に重要なものへ意識を向ける助けにもなります。私たちの多くは、「もっと持てば幸せになれる」と考えていますが、実際にはなかなかそうはなりません。「物」を人生からり除いた時、本当に大切なものが見えてくるのです。
ベッカーにとって、ミニマリズムは信仰とのつながりをより深める助けにもなりました。これは彼の最新の著書でも語られています。
「信仰を深めたいと思う人にとって、所有物を減らすことは大きな助けになります」と、彼はエポックタイムズに語りました。
20年近くにわたりミニマリズムについて執筆してきたベッカーは、目指すべきなのは「欲望を消すこと」ではなく、その向きを変えることだと提案しています。つまり、物への欲望ではなく、愛や正義、思いやり、信仰といった、本当に価値のあるものへ向けるべきだというのです。
「消費主義が私たちの心や人生の一部になると、孤独や静けさ、瞑想の機会を失ってしまいます。なぜなら、孤独とは『もっと欲しい』という欲求とは正反対のものだからです」とベッカーは語りました。「今あるもので満たされていると感じられるとき、私は少し立ち止まり、自分自身と静かに向き合うことができます。そして、その中で平穏を見つけるのです」
(翻訳編集 井田千景)
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