最近の臨床試験で、研究者たちは人気の減量薬と、ごく普通の運動のどちらが動脈に良い影響を与えるかを比較しました。1年間にわたる試験の結果、運動は心血管疾患を逆転させることが分かりました。
運動は炎症を軽減し、画像検査で動脈プラークを縮小させました。薬にはそのような効果は見られませんでした。
『ネイチャー・メタボリズム』誌に掲載されたこの研究結果は、コレステロールと薬を中心に考える、従来の心臓病の捉え方が見落としがちな点を指摘しています。心臓を守るための最も強力な手段のうち二つは、費用がかかりません。しかも、そのほとんどは、医師も含めたほぼ誰もが、これまで説明を受けたことのない仕組みを通して働いているのです。
医学部では、こうした仕組みは教えられていません。データをもとに、詳しく見ていきましょう。
骨の中に潜むクローン
話は、心臓病とは一見結びつかなそうな場所、骨髄から始まります。骨髄とは、骨の中にある海綿状の組織で、血液の細胞をつくり出している場所です。
健康な骨髄を、何千もの細胞系統が共存する、多様な生態系だと想像してみてください。そのうちの一つの系統が、生存に有利な突然変異をたまたま手に入れたとします。その系統は周囲と足並みをそろえることをやめ、侵略的な外来種のように増殖して、少しずつ周りの細胞を押しのけていきます。科学者たちはこれを「クローン性造血」と呼んでいます。同じ変異を持つ細胞の集団(クローン)が増えていく、血球づくり(造血)の状態を指す言葉です。
がんに少し似ていると感じたなら、その直感は間違っていません。これはがんではありませんが、筋書きはよく似ています。ある細胞の集団が優位に立ち、ほかを押しのけて増えていくのです。
これが心臓にとって重要になってくる理由はここにあります。この競争に勝ちやすいのは、攻撃的で炎症を起こしやすい系統です。そして、それらは骨髄にとどまりません。動脈の壁まで移動し、そこで動脈硬化を進めてしまいます。動脈硬化とは、プラークが蓄積して動脈が狭く硬くなり、やがて心臓発作や脳卒中につながる状態です。
『ネイチャー』誌に掲載された論文は、その結論をはっきりと述べています。クローン性造血は炎症をあおり、動脈硬化のリスクを高める、と。
これは珍しく特殊な状態ではありません。年齢を重ねるごとに一般的になり、高齢者のかなりの割合に、ひそかに存在しています。そしてそのほとんどの人は、その存在をまったく知りません。考えてみてください。長年、コレステロールの数値ばかり気にするように言われてきた一方で、実際に体を傷つけているかもしれない、この炎症細胞のことは、おそらく誰からも聞いたことがなかったはずです。
その事実を知ることには、静かな力があります。なぜなら、これは自分で変えられる過程だからです。ただし、錠剤では変えられません。
睡眠と運動がもたらすもの
まず、人を対象にしたデータから見ていきましょう。研究者たちは、9万人以上のデータを含む二つの大規模データベース、英国バイオバンクと米国の「オール・オブ・アス研究プログラム」を統合しました。身体活動は自己申告ではなくウェアラブル端末で測定されており、データの信頼性は高くなっています。
まず分かったのは、中等度から高強度の活動が多い人ほど、クローン性造血が少ない、という傾向です。
これは男女どちらにも見られ、二つのデータベースの両方で確認された、一貫した傾向でした。
運動をする人は、もともと痩せていて健康な場合が多いのだから、血液が「きれい」に見えるのも当然だ、と思うかもしれません。ところが、研究者が体重の影響を取り除いたあとも、この関連性は変わりませんでした。運動は、単に体重を通して効いていたのではなく、突然変異したクローンそのものに作用しているようだったのです。
さらに興味深いのは、ここからです。運動は、血液細胞の産生を一律に抑え込んだわけではありませんでした。もしそうなれば、貧血や免疫不全になってしまいます。そうではなく、運動はもっと精密に働きました。何もかも叩き潰す大槌ではなく、狙いを定めたメスのように、特定の有害なクローンだけを選んで抑え、正常な血液細胞づくりはそのままにしていたのです。
では、この研究が取り上げたもう一つの要素、いわば運動の「陰」にあたる睡眠はどうでしょうか。
睡眠もまた、別の角度から同じ結論を裏づけました。睡眠が乱れると、クローン性造血は悪化します。これは、夜勤が心臓発作や脳卒中といった心血管イベントのリスクを約15〜30%高めることと一致する結果です。逆に言えば、質の良い睡眠は、骨や動脈に潜むこれらのクローンを抑えてくれるはずです。
つまり、「どう体を動かすか」と「どう眠るか」という、日常のごくありふれた二つの要素が、心臓を守る同じ生物学的な仕組みに行き着くのです。
この記事の冒頭で少し触れた、もう一つの画期的な研究に進む前に、科学者が実際にどうやってこうした仕組みを解き明かしていくのか、その一端をお見せしたいと思います。実験の中身を、もう少し詳しく見てみましょう。
ランニングや質の良い睡眠が、変異細胞を標的にする仕組み
倫理的な理由から、人間では行えない実験があります。生きている人間の幹細胞を、わざと変異させるわけにはいかないからです。そこで、仕組みをより深く理解するために、動物モデルの出番となります。研究者たちは、血液の約10%が変異しているマウスをつくり出し、「座りがち」「運動」「断片化した睡眠」という三つの条件に、無作為に割り当てました。そして12週間にわたり、変異クローンがどこまで広がるかを追跡しました。
座りがちなマウスでは、クローンは着実に増えていきました。
運動させたマウスでは、一部の変異体の広がりがほぼ完全に止まり、変異細胞の割合はほとんど動きませんでした。
睡眠が断片化されたマウスでは、クローンはどのグループよりも速く増えました。
その影響は、骨髄だけにとどまりませんでした。睡眠と運動は、これらの変異した炎症細胞が動脈にたどり着いたあとの振る舞い方まで変えていたのです。
断片化した睡眠は、動脈の壁の内側で炎症の連鎖を引き起こす受容体を、変異クローンの表面で増やしていました。一方、運動は脳幹の深い部分にある神経を活性化させ、ノルアドレナリンなどのホルモンの分泌を調整していました。これらのホルモンは、体内を巡回する免疫細胞「マクロファージ」の表面にある受容体と結びつき、動脈の炎症を直接鎮めていたのです。
ここは重要なポイントなので、ぜひ覚えておいてください。睡眠と運動は、それぞれ二つの段階で動脈を守っています。
- 骨髄で、炎症性クローンの増殖そのものを遅らせること。
- クローンが動脈の壁に入り込んだあと、その働きを鎮めること。
マウスの実験では、これが実際に目に見える結果につながりました。睡眠を断片化すると動脈プラークは悪化し、そこに運動を加えると、プラークは小さくなったのです。もちろん、人間でこれほど厳密な実験を行うことには限界があります。しかし、こうした仕組みは生物種を超えて共通して保たれているものであり、人間にも同じように当てはまると考えるのが自然でしょう。
睡眠と運動は、体全体の炎症と免疫の状態を変えることを通じて、動脈を直接守っている可能性が非常に高いのです。
この知見は、人間にも当てはまるのか
運動が心血管疾患を防ぐだけでなく、場合によっては逆転させる可能性さえあることを示す、信頼性の高いヒトのデータもあります。
『ネイチャー・メタボリズム』誌に掲載された最近の研究では、成人130人を、52週間にわたる四つのプログラムのいずれかに無作為に割り当てました。プラセボ、構造化された運動プログラム、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド。今人気の減量注射と同じ系統の薬です)、そして運動と薬の併用です。動脈の状態を追跡するため、超音波で動脈プラークの厚みを測る「頸動脈内膜中膜厚(cIMT)」という指標を測定しました。
結果はどうだったでしょうか。運動は炎症を軽減し、cIMTで測ったプラークの量を、1年間で7%減らしました。薬だけのグループでは、わずかに効果の兆しが見られたものの、統計的に意味のある差とまでは言えませんでした。研究チームは、動脈の壁は、薬よりも運動の効果に、より強く反応したと結論づけています。
今日からできること
実用的なアドバイスは、やや地味なものです。
運動
週に少なくとも150分、中等度から高強度の身体活動を行うことを目標にしてください。これは適当に決めた数字ではありません。先ほど紹介した、大規模な人のデータで、炎症性クローンの少なさと結びついていたのが、まさにこの強度の範囲なのです。
具体的には、心拍数と呼吸がはっきり上がる運動を、1日およそ30分、週5日行う、ということです。上り坂の速歩き、ジョギング、サイクリング、ボート漕ぎ、水泳、激しいスポーツなどが当てはまります。
また、週に2〜4回の筋力トレーニングを取り入れることも、強くおすすめします。筋肉をつくり、維持することは、長期的な健康への最も効果的な投資の一つであり、有酸素運動による心血管系への効果を、さらに高めてくれます。
睡眠
ガジェットやサプリメントに頼る前に、まずは基本から見直しましょう。
- 寝室は涼しく、暗く、静かに保ちます。
- 就寝前の60〜90分は、明るい光、特にスマホやパソコンの画面の光を、できるだけ浴びないようにします。
- 週末も含めて、できるだけ同じ時間に寝起きするようにします。
- 読書、ストレッチ、日記、呼吸法、あるいはそれらの組み合わせなど、「今日はもう終わり」と脳に伝えるための、簡単な自分なりのルーティンをつくりましょう。
睡眠効率をさらに高めたい方は、このニュースレターでより詳しい情報を見ることができます。
ここでの教訓は、睡眠や運動そのものよりも、もっと大きな意味を持っています。
私たちは長年、心血管疾患について、コレステロールと薬という視点を中心に考えるよう教えられてきました。これらの道具は確かに役立ちます。しかし、それは物語のほんの一部にすぎません。
あなたの骨の奥深くでは、今この瞬間も、静かな進化の戦いが繰り広げられています。変異した炎症性クローンが縄張りを争い、動脈へと流れ込み、あなたの心血管の未来を形づくろうとしているのです。この戦いに影響を与える、最も強力な方法の二つは、薬局の棚には並んでいません。それは、あなたの日々の習慣の中にあります。
一回一回の運動は、体への合図です。一晩一晩の質の良い睡眠も、体への合図です。この二つが重なり合うことで、体の免疫の状態がつくり直され、有害なクローンの広がりが遅くなり、動脈の病気を引き起こす炎症が和らいでいきます。
だからこそ、私はこの科学に、これほど胸を躍らせているのです。健康とは、ただ私たちの身に起こるものではありません。日々の、ともすれば平凡すぎて見過ごしてしまうような選択の積み重ねによって、自分自身でつくり出していけるものなのだと、この科学は教えてくれます。時として、最も効き目のある薬は、ごく身近なところに、ひっそりと隠れているものなのです。
この記事で表明されている見解は著者個人の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
(翻訳編集 日比野真吾)
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