抗うつ薬を長く続けることの利点とリスク いま分かっていること

抗うつ薬の研究には、長らく一つの食い違いがありました。多くの人が何年にもわたって薬を飲み続ける一方で、ほとんどの無作為化試験は、わずか6〜12週間しか行われていないのです。

『オーストラリアン・ジャーナル・オブ・ジェネラル・プラクティス』誌に掲載された、最近のある臨床レビューは、この食い違いをあらためて浮き彫りにしました。著者たちは、抗うつ薬の長期使用を正当化する根拠とされてきた研究を見直し、いくつかの重要な限界があるために、長年にわたる治療を支える証拠は、これまで考えられていたほど確かなものではないと主張しています。

このレビューは、短期の試験と、より長期にわたる研究の両方を調べました。後者は主に、うつ病の再発を防ぐことに焦点を当てたものです。

「こうした長期研究には欠陥があり、それらの薬を長期にわたって使うことを支える、しっかりとした証拠は存在しません」と、このレビューの責任著者であり、アデレード大学で精神医学の准教授を務め、イギリス国民保健サービス(NHS)内にある国立精神科減薬クリニックの主任臨床医でもあるマーク・ホロウィッツ医師は、エポックタイムズへのメールで述べました。

同氏の主な主張は、こうしたより長期の試験、つまり一部の人には抗うつ薬を飲み続けてもらい、残りの人には服用をやめてもらうという形の研究では、薬をやめたことによる離脱症状を、うつ病の再発と取り違えてしまう可能性がある、というものです。

もっとも、すべての精神科医がこの見方に同意しているわけではありません。ケース・ウェスタン・リザーブ大学の精神科医アワイス・アフタブ医師は、エポックタイムズへのメールで、ホロウィッツ氏のレビューは、既存の証拠に確かに存在する不確かさを、正しく指摘していると述べました。ただし同氏は、このレビュー自体は、その不確かさに対してやや懐疑的すぎる立場を取っている、とも付け加えています。

とはいえ、患者にとっては、薬を飲み続けることで得られる利益と、起こり得る不利益とのバランスをどう取るか、という現実的な課題が、常につきまとっているのです。
 

研究は数カ月、治療は数年続くとき

アメリカの成人のおよそ6人に1人が、うつ病や不安、強迫性障害、その他の症状の治療のために処方された抗うつ薬を、現在服用していると報告しています。服用期間は通常2〜5年ほどに及びます。しかし、抗うつ薬に関する研究のほとんどは、わずか数カ月しか続かない無作為化比較試験によるものです。

しかも、こうした研究は、抗うつ薬が平均してプラセボ(偽薬)よりも良い結果を示すことを一貫して示してはいるものの、その差はごくわずかです。複数の試験を通して見ると、抗うつ薬は52点満点の尺度で、プラセボよりもうつ病のスコアを約2点多く改善する程度です。重度のうつ病の人であっても、抗うつ薬がもたらす差は、約3点にとどまります。

短期間の試験では、人が何年も抗うつ薬を飲み続けたときに何が起こるかまでは分かりません。効果が遅れて現れる可能性や、長期的な副作用、そして治療をやめようとしたときに何が起きるのかも、こうした試験では捉えることができないのです。

「多くの人が、これらの薬を何年も、時には何十年も飲み続けています」とホロウィッツ氏は述べました。「つまり私たちは、長期的な影響について、多くの人が思っているよりも、実はずっと分かっていないということです」
 

再発なのか、離脱症状なのか

長期にわたる抗うつ薬治療を支える、主な証拠の一つとなっているのが、「再発予防試験」と呼ばれる研究です。こうした研究では通常、抗うつ薬によって1年以上症状が改善した人たちを集め、そのまま服薬を続けるグループと、数週間かけて徐々に薬を減らしてやめるグループとに、無作為に振り分けます。

これらの研究では一貫して、抗うつ薬を飲み続けた人のほうが、治療をやめた人よりも「再発」と診断される割合が低いという結果が得られています。

しかし今回のレビューは、この研究デザインそのものに、ある根本的な問題があると指摘しています。抗うつ薬をやめると、気分の落ち込みや不安、不眠といった、うつ病の再発によく似た離脱症状が現れることがあるのです。服薬をやめたあとにこうした症状が出た場合、それが離脱症状なのか、本当の再発なのか、あるいはその両方なのかを、研究者が見分けるのは難しくなります。

「離脱症状と再発は、驚くほどよく似て見えることが少なくありません」と、ホロウィッツ氏は述べました。

つまり、治療を続けることで得られているように見える利益の一部は、実際には離脱症状を防いでいるだけ、という可能性があるのです。

研究者たちのあいだでも、これらの研究で得られた結果そのものについては、おおむね意見が一致しています。議論になっているのは、その結果が何を意味するのか、という解釈の部分です。
 

一つの画期的な研究をめぐって

こうした議論の多くは、画期的とされる「ANTLER研究」を中心に展開されています。これはイギリスで行われた試験で、抗うつ薬を飲み続けた人は、治療をやめた人に比べて、1年間のあいだに再発する割合が低かったと結論づけました。具体的には、服薬を続けた人が39%、治療をやめた人が56%でした。

参加者の70%は、すでに3年を超えて抗うつ薬を服用していた人たちでした。

この研究はこれまで、抗うつ薬を続けることで再発のリスクが下がるという証拠として、広く引用されてきました。しかしホロウィッツ氏と共著者たちは、ANTLER研究やそれに類する研究は、離脱症状と再発とを区別していないため、効果を過大に見積もっている可能性があると主張しています。

離脱症状は、うつ病の再発と非常によく似て見えることがあります。ホロウィッツ氏はこの問題を、次のような例えで説明しています。喫煙者に、そのまま喫煙を続けるか、それとも急にやめるかを選んでもらい、やめた人がイライラしたり、眠れなくなったり、集中できなくなったりしたことから、「喫煙には不安を防ぐ効果がある」と結論づけてしまうような研究と、同じ落とし穴があるというのです。

「抗うつ薬をやめた人が不安になったり、眠れなくなったり、感情的につらい状態になったりしたとき、それを自動的に『精神疾患が再発した』と見なしてしまわないよう、注意しなければなりません」と、ホロウィッツ氏は述べました。

こうした症状の重なりは、研究者にとっても、実際に患者を診る臨床医にとっても、大きな課題になると同氏は主張します。なぜなら、離脱症状の多くは、うつ病や不安障害の診断そのものに使われる症状と、重なっているからです。

「こうした症状は、もともと心の健康に問題を抱えていない人にも起こることが分かっています」と同氏は述べ、痛みの治療や更年期の症状のために抗うつ薬を処方された人、さらには健康なボランティアに抗うつ薬を投与した研究の例を挙げました。「それらはいずれも、臨床医がうつ病や不安障害をそもそも診断するために用いる症状の多くと、同じものなのです」

一方、ANTLER研究の主任研究者の一人であるグリン・ルイス氏は、この見方に異論を唱えています。

抗うつ薬をやめることで、一時的にうつや不安の症状が強まることがある点は認めつつも、それは「再発」とは異なるものだと、同氏は述べました。

ANTLER研究においては、「再発」は国際的に認められたうつ病の診断基準に基づいて定義されています。

「もしこの結果を離脱症状だけで説明しようとするなら、離脱症状が、国際的に合意されたうつ病の定義とまったく同じ症候群を引き起こす、と考えなければならなくなります」と、ルイス氏はエポックタイムズに語りました。「服薬の中止が、診断基準を満たすほどのうつ病性障害を、誰かに引き起こす可能性は低いでしょう」

コロンビア大学で疫学と精神医学の教授を務めるマーク・オルフソン医師は、エポックタイムズに対し、この結果が離脱症状である可能性は低いと述べました。その理由は、両グループの差が、薬を減らし始めた直後の数週間だけでなく、その後の長期にわたる追跡調査全体を通じて、一貫して続いていたからだといいます。
 

抗うつ薬をやめるかどうかを決めるために

再発予防研究をめぐるこうした議論は、長期にわたる抗うつ薬治療について考えるうえでの、一つの側面にすぎません。患者と臨床医は、その薬が今もなお意味のある効果をもたらしているかどうかを、時間の経過とともに現れてくる可能性のある副作用や、その他の不利益と比べながら、判断していく必要があります。

このレビューは、抗うつ薬の長期使用が、性機能障害、感情が鈍くなる感覚、体重増加、睡眠の問題、そして認知機能への影響の可能性といった、さまざまな副作用と関連しているとする証拠が、近年増えつつあることを指摘しています。

抗うつ薬は、体内にある複数の化学的な信号伝達の仕組みに影響を与えるため、同じ薬であっても、人によって異なる副作用が現れることがあります。そして、こうした副作用は、治療を続ける期間が長くなるほど、積み重なっていく可能性があります。

医学誌『ランセット』に掲載された分析では、30種類の抗うつ薬を比較し、薬の種類によって、副作用の種類や起こりやすさに大きな差があることが強調されています。

精神科医のあいだで意見が一致している点が一つあります。それは、長期的な治療は、自動的に継続するのではなく、定期的に見直すべきだ、ということです。

「処方というものは、それが今でも本当に必要かどうかを、誰も立ち止まって問い直さないまま、なんとなく続いてしまうものであってはなりません」と、ホロウィッツ氏は述べました。

同氏は、理想としては6カ月ごとに治療内容を見直し、その薬がいまもなお意味のある効果をもたらしているかどうかを、患者と話し合うことを勧めています。

抗うつ薬は、急に服用をやめるべきではありません。患者が治療の中止を決めた場合、減薬は一般に、緩やかに、そして一人ひとりの状態に合わせて個別に進める必要があります。もし何らかの症状が現れた場合には、減薬のペースをさらにゆっくりにすることで、それが時間とともに改善していくことの多い離脱症状なのか、それとも、別の治療方針が必要となるうつ病の再発なのかを、臨床医が見極めやすくなる、とホロウィッツ氏は述べています。

しかし、患者を日常的に抗うつ薬から徐々に減薬していくことが、治療の結果を改善するという、確かな証拠はほとんどない、とアフタブ氏は指摘します。現在得られている証拠だけでは、治療を続けるべきか、やめるべきかをめぐるリスクと利益に関する、あらゆる疑問に答えることはできません。だからこそ、「臨床医と患者は、不確かさを抱えたままで判断を下さざるを得ず、できる限り協力しながら、治療を一人ひとりに合わせていくことを目指すべきです」と、同氏は述べています。

「目標は、すべての人に抗うつ薬をやめるよう説得することでも、すべての人に飲み続けるよう説得することでもありません」と、ホロウィッツ氏は述べました。「患者が、入手できる最善の証拠に基づいて、本当の意味で十分な情報を得たうえで、自ら選択できるようにすることなのです」

(翻訳編集 日比野真吾)

フリーランスのライターであり、ホリスティック健康教育者。ニューヨークのパシフィック・カレッジ・オブ・ヘルス・アンド・サイエンスで12年間教鞭をとり、クーパー・ユニオンでは工学部の学生を対象にコミュニケーション・セミナーを担当。現在は、統合医療やホリスティックなアプローチに焦点を当てた記事を執筆している。