科学的な裏付けのある方法で、ジャーナリングの効果を最大限に引き出しましょう。

日記をつけることで脳が変わる 心を整える4つの仕組み

今夜、10分間だけ時間を取り、ストレスに感じていることを書いてみてください。ごく普通の行為に思えますが、その効果は並大抵ではありません。

ある研究では、心に深い傷を残した体験について、3日間にわたって感情を交えて書いた人は、ささいな話題について書いた人に比べ、その後の数か月間に医師の診察を受ける回数が少なくなりました。誰も食生活を変えていません。運動を始めたわけでもありません。変わったのは、紙に書く内容だけでした。

では、ペンと白紙のページが、どうしてこれほどの違いを生むのでしょうか。ジャーナリングが心に役立つ4つの仕組みをご紹介します。
 

感情に名前をつけて、落ち着かせる

嫌な感情に襲われると、私たちの多くは、それを押し殺したり、自分に言い聞かせて打ち消したり、忙しくすることで感じないようにしたりします。しかし、それよりもよい方法は、その感情に名前をつけることです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者たちは、怒った顔やおびえた顔の写真を参加者に見せながら、脳の活動を調べました。一方のグループは顔を見るだけで、もう一方のグループは、その顔に表れている感情を「怒っている」「怖がっている」などの一言で表すよう求められました。

否定的な感情に名前をつけたり、その感情について考え続けたりすると、かえって感情が強まると思うかもしれません。しかし、研究では逆の結果が示されました。

感情に名前をつけると、脳の警報装置である扁桃体の活動が落ち着き、推論や理性的な判断を調整する、額の奥にある領域が活性化しました。つまり、感情に名前をつけることで、理性が感情をよりうまくコントロールできるようになるのです。研究者たちはこれを「感情ラベリング」と呼んでいます。何かを感じ、それに名前をつけると、その感情が和らぐのです。

この研究結果は、数多くの哲学や宗教で古くから受け継がれてきた、自分の内面を見つめる伝統とも一致しています。立ち止まって自分の感情を振り返り、それが何なのかを見極めることが、感情の整理に役立つのです。

これは、ジャーナリングの核となるものです。さまざまな意味で、ジャーナリングは、感情ラベリングを一言に凝縮するのではなく、ページ全体へと広げる行為だといえます。

同様の感情ラベリングに関する研究では、感情を言葉にしたときに脳がより大きな反応を示した参加者ほど、その後、最長3か月にわたって確認された改善の度合いも大きくなりました。

参加者からは、不安や抑うつ、身体の不快感が減り、生活への満足度が高まったとの報告がありました。
 

頭の中で繰り返される未完了の用事に区切りをつける

脳は、物事が未完了のままになっていることを嫌います。返信していないメッセージ。支払いを何度も忘れている請求書。言うべきだったのに言わなかったこと。こうした未完了の事柄は、意識の片隅に居座って繰り返し浮かび、あなたの注意を奪い合います。

2011年の研究には、まさに内容にふさわしい「もう終わったと考えてください!」という題名がつけられています。この研究で、研究者たちは参加者に、自分にとって重要で、数日以内に終える必要がある課題を思い浮かべるよう求めました。課題について考えるだけで、参加者は気が散りやすくなりました。そして、その影響は明らかにほかの場面にも及びました。未完了の課題とは関係のない読解テストでも、成績が悪くなったのです。

しかし、実験はそれだけでは終わりませんでした。その後、研究者たちは参加者に、それぞれの課題をいつ、どこで、どのように終えるか、明確な計画を書き出してもらいました。すると、気を散らすように勝手に浮かんでくる考えが消えました。計画を書くだけで、まるですでに用事を終えたかのように、参加者はそこから解放されたのです。

この効果が最も強かったのは、本人が本当に実行するつもりの計画を立てたときでした。曖昧な計画では、同じような安堵は得られませんでした。心配事を紙に書き出すと気持ちが楽になるのは、このためです。問題はまだ解決していなくても、頭の外へと移せたのです。心理学では、これを「認知的オフローディング(思考の一部を紙などに委ね、頭の負担を軽くすること)」と呼びます。

「請求の件を確認する」といった大まかな覚え書きでは、頭の中で何度も繰り返し浮かんでくるかもしれません。一方、「火曜日の午前10時に、支払いについて銀行に電話する」と書けば、その用事を行う時間や場所、次に取る行動が明確になります。

興味深いことに、リストが詳しいほど、得られる効果も大きくなります。ベイラー大学の研究では、参加者を2つのグループに分けました。一方は寝る前の5分間で翌日のやることリストを書き、もう一方は、その日にすでに終えたことを書きました。すると、やることリストを書いたグループのほうが、早く眠りにつきました。さらに、リストが長く、詳しいほど、寝つくまでの時間が短くなりました。まだやらなければならないことをすべて書き出すと、気が重くなることもあるため、直感に反するように思えます。しかし、研究によれば、書き出すことは、そうした考えをいったん手放し、眠りにつく助けになるのです。

自分との間に少し距離を置く

何かを整理して考えたいときは、一人称で書く代わりに、自分を名前で呼んでみてください。友人のことを話すように、自分について語るのです。

「私は会議に不安を感じた」ではなく、「[自分の名前]は会議に不安を感じた」と書きます。

言葉遣いの小さな変化にすぎませんが、研究によると、「私」から自分の名前へと切り替えることで、物事の捉え方が大きく変わる可能性があります。そして、脳も実際に、この変化によい反応を示します。

心理学者のイーサン・クロスは、7つの実験でこれを検証しました。そのうちの1つでは、参加者はほとんど準備時間がないままスピーチをしなければなりませんでした。多くの人にとって、悪夢のような状況です。この実験設定は、ストレスを確実に引き起こす、古典的な方法です。興味深いことに、自分の名前を使って自分に語りかけた人は、より落ち着いて本番に臨み、スピーチの出来もよく、終わった後に自分を責める時間も短くなりました。

別の研究では、自分の名前を使うように切り替えると、約1秒で脳のストレスを示す信号が弱まることが分かりました。しかも、余分な精神的努力は必要なく、必要なのは、自分との間にほんの少し距離を置くことだけでした。

ここには、昔からの知恵が息づいています。私たちは皆、他人の問題を解決するのは得意なのに、自分の問題は見えなくなりがちです。友人から困った状況について電話で相談されれば、すぐに答えが浮かぶことがあります。しかし、同じ問題が自分に降りかかると、行き詰まってしまいます。

心理学では、これを「ソロモンのパラドックス」と呼びます。知恵で名高い一方、その知恵を自分自身の問題には生かせなかった王にちなんだ名前です。幸い、簡単な解決策があります。距離を置くことです。一歩引いて、自分の問題を離れた視点から眺めると、友人の問題を考えるときと同じように、賢明に判断できるようになります。

これは、ジャーナリングにも応用できます。1か月間、日記を書いてもらう研究では、参加者はその日の最も重要な出来事について、一人称か三人称のどちらかの視点で書きました。研究の終了時には、三人称で書いた人たちのほうが、問題への向き合い方において、測定上もより賢明になっていました。異なる視点や、状況が今後どのように展開し得るかを、より柔軟に受け入れるようになっていたのです。丸1か月続ける必要もありません。その後に行われた1週間の研究でも、同じ効果が再現されました。

興味深いのは、こうした自分との距離が、ある程度は自然に生まれる可能性もあることです。つらい体験について感情を交えて書くとき、特に指示を受けなくても、何度か書くうちに、人は自分との間に自然と距離を置くようになります。「私」という言葉を使うことが減り、その代わりに、なぜ物事が起きたのかを説明する言葉が増えていきます。書くことそのものが、自分の頭の中だけに閉じこもった状態から、あなたを引き出してくれるのです。
 

物語として語る

私たちは、自分の人生を事実の羅列として記憶しているわけではありません。物語として記憶しています。そして、その物語を自分にどう語るかが重要です。

ノースウェスタン大学の心理学者ダン・マクアダムス氏は、何かを学ぶきっかけとなった失敗や、その後の道につながったどん底の時期など、人生の出来事を否定的なものから肯定的なものへと変わる物語として語る人は、幸福度が高く、健康状態もよい傾向があることを見いだしました。反対に、よいことが悪い方向へ転じる物語として語る人は、幸福度や健康状態が低い傾向にあります。

これは、ジャーナリングで、つらい出来事を無理に幸せな出来事へと変えたり、すべてがうまくいっているふりをしたりするという意味ではありません。感情をそのまま吐き出す段階から一歩進み、その出来事にはどんな意味があったのかを、自分に問いかけてみるということです。

心理学者のジェームズ・ペネベーカー氏とその研究チームは、悲嘆の中にある177人が書いた文章を分析し、一部の人で健康状態がより改善した理由を調べました。改善が大きかった人たちには、時間の経過とともに、使う言葉の変化が見られました。

こうした人たちは、「気づく」「理解する」「なぜなら」「理由」といった言葉を、より多く使うようになっていました。何が起きたかを描写するだけでなく、その出来事を理解し、意味づけ始めたのです。つらい体験を物語にすることで、原因と結果を結びつけ、体験に意味を見いだすことができます。
 

ジャーナリングが逆効果になるとき

白紙のページは、前向きな思考の循環を育むのと同じくらい簡単に、否定的な思考の循環を強めることもあります。

ジャーナリングでよく懸念されるのは、つらい感情について考え続けるうちに、うまくいっていないことを何度も頭の中で繰り返す「反すう(同じ否定的な考えを繰り返し思い巡らすこと)」に陥る可能性です。机に向かい、同じ傷つく場面を40回目もまた繰り返したとしても、それを整理できているとは限りません。ただ追体験しているだけかもしれません。

気づきを得ることと反すうとの違いは、視点にあります。感情の渦中にいるまま「なぜ私はこう感じるのだろう」と問うと、そこから抜け出せなくなります。しかし、一歩引いてから同じ問いを投げかけると、気づきにつながります。適切な書き方の枠組みと距離を保つことが、書く行為を反すうに変えないために役立ちます。

ですから、書き始める前よりも書いた後のほうがつらくなることが続くなら、それを失敗ではなく、やり方を見直す合図と受け止めてください。一歩引いてみましょう。計画を立てましょう。出来事を再現することより、理解することに意識を向けてください。あるいは、いったんノートを閉じて、後で戻ってきてもよいのです。目標は、感情の中にとどまることではなく、その感情を通り抜けていくことです。

書くタイミングも大切です。寝る前のやることリストは眠りを助けてくれるかもしれませんが、就寝直前に重い感情をすべて吐き出すと、眠りが浅くなる可能性があります。心に重くのしかかるものがあるなら、夜の早い時間帯に書くことを考えてみてください。眠る直前の数分間は、簡単なことを書く時間や、穏やかに振り返る時間にしましょう。

また、回数を増やせばよいとは限りません。ある研究では、自分が恵まれていることを週1回振り返った人は、幸福感が高まったと報告しました。一方、週3回行った人にはほとんど効果がなく、少し気分が悪くなった人もいました。繰り返すことで行為が機械的になり、心に響く意味が薄れると、脳はそれに注意を向けなくなってしまうのです。
 

今夜、何を書くか

ここまで、感情に名前をつけること、頭の中の負担を外に移すこと、自分と距離を置くこと、そして物語の形にすることという、4つの仕組みを見てきました。寝る前に短い文章を書くだけでも、そのすべてを取り入れることができます。

今夜、何を書けばよいのか、あなたの必要に応じた具体的な方法をご紹介します。

1. 始めやすくするために、未来を思い描く

「実現し得る最高の自分」という、文章を書くためのテーマがあります。現実的に実現できる範囲で、自分の人生が最もうまく進んでいる様子を書いてみてください。仕事、人間関係、健康について書きます。これは、願えばかなうと考えることではありません。意味があり、実現可能な未来を具体的に思い描くことです。この方法には、楽観性や幸福感を高める効果が安定して認められています。

2. 心に重くのしかかるものがあるなら

ペネベーカーの方法を使ってみてください。15〜20分間、書き続けます。誤字を直したり文章を整えたりするために手を止めないでください。自分を悩ませていることに、まっすぐ向き合って書きましょう。初日は、効果を感じる前に、かえって気分が悪くなるかもしれません。しかし、それは普通のことです。その後の数日間で、物事を見る視点や気づきが積み重なり始めます。そして最後に書くときには、全体を一つにつなげてみてください。「これが起きた理由はこうで、それによって変わったのはこれだ」という理解にたどり着いた人ほど、改善が見られるからです。

3. やることリスト

疲れた一日の終わりに、とにかく眠りたいのであれば、感情はいったん脇に置き、明日のやることリストを書きましょう。5分間かけて、できる限り具体的に書いてください。夜の間は、紙にその用事を預けておきましょう。

次のテンプレートを参考に書いてみましょう。5〜10分かけて、1ページを埋めてみてください。

  • 今日の出来事を一つ取り上げ、要約ではなく、一つの場面を描くように数行書きます。
     
  • 自分が感じた感情を一つ挙げ、その感情が生まれた理由について、今の自分が最も納得できる説明を書きます。
     
  • 明日取り組むことを5つ、それぞれ実際の行動が思い浮かぶくらい具体的に書きます。
     
  • 感謝の練習として、どんなに小さなことでもよいので、うまくいったことを一つ書きます。

最後に一つ、歴史上で最も大きな影響を与えた日記は、もともと誰かに読まれることを想定していなかったとご存じでしょうか。マルクス・アウレリウスは、戦争や疫病のさなかに日記を書き、心の平静を保ち、より正しく行動するにはどうすればよいか、自分自身に向けた私的な覚え書きを残しました。彼はそれに題名をつけることも、出版を計画することもありませんでした。しかし、何世紀も後の今、私たちはその書を『自省録』と呼び、今も人々は、孤独を和らげようとそのページを開いています。

彼が行っていたのは、ジャーナリングが最も得意とすることでした。紙に書くことで、考えをより明確にし、自分の心を落ち着かせていたのです。あなたも今夜、同じことができます。その行為はありふれていますが、それがあなたにもたらす変化は、ありふれたものではありません。

 

(翻訳編集 井田千景)

生物医学科学の理学士号と人文科学の修士号を持つ健康分野のライター。メリーランド大学で生物医学研究に従事し、NASAのデータ分析プロジェクトに参加したほか、ハーバード大学ギリシャ研究センターの客員研究員も務める。健康ジャーナリズムでは、綿密な調査をもとにした洞察を提供することを目指している。