睡眠時無呼吸のために持続陽圧呼吸(CPAP)装置を処方されても、6割近くの人が使い続けられずにいます。しかし、マスクを使わずに睡眠時無呼吸を治療する方法があるかもしれません。
その治療法は、舌下神経刺激と呼ばれています。マスクから空気を送り込んで気道を押し広げるCPAPとは違い、こちらは体の内側から働きかけます。小さな装置が、舌を動かす神経に向けて穏やかな電気パルスを送り、呼吸のリズムに合わせながら、舌をそっと前方へ押し出すのです。これにより、眠っているあいだに舌が喉の奥に落ち込み、気道をふさいでしまうのを防ぎます。
「舌下神経刺激は、よく『気道のペースメーカー』にたとえられます」と、睡眠医療を専門とするムハンマド・ウサマ医師はエポックタイムズに語りました。「患者さんは、眠る前に装置の電源を入れ、朝になったら切るだけです」
舌下神経刺激の利点
気圧の力で気道を押し広げるCPAPとは異なり、舌下神経刺激は、舌を動かす筋肉そのものを働かせる治療法です。胸の皮膚の下、またはあごの裏側に、小さな装置を埋め込んで使います。
新しい治療法のように思われるかもしれませんが、実はすでに10年以上の実績があります。アメリカ食品医薬品局(FDA)は2014年、中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸があり、CPAPに耐えられない、あるいは十分な効果を得られない人を対象に、上気道刺激システムを初めて承認しました。
舌下神経刺激の良いところは、睡眠中に気道を開いたままにしてくれることだけではありません。睡眠中の呼吸の乱れや睡眠の質、さらには日中の調子にまで改善がみられ、しかもその効果が長く続くことが分かっています。
5月に医学誌『チェスト』に発表された研究では、睡眠時無呼吸のある人たちが舌下神経刺激を受けました。その結果、睡眠中の呼吸は研究開始時から大きく改善し、3年間の追跡調査を通じて、その状態がほぼ変わらず保たれていました。呼吸が完全に止まってしまう回数はほとんどなくなり、浅い呼吸が続く時間も減って、研究の終わりまでその低い水準を保っていたのです。
全体で見ると、3年後には1時間あたりの呼吸の乱れが、約18回も減っていました。効果は夜だけでなく、昼間にも及んでいます。日中の眠気が正常範囲に収まった人の割合は、研究開始時の40%から、3年後には70%を超えるまでに増えました。
別の研究では、患者ではなく、その寝室を共にするパートナーに話を聞いています。パートナーのいびきが静かになった、あるいはまったくなくなったと答えた人の割合は、治療前の17%から、3年後には80%にまで増えていました。
こうした効果の持続性は、患者自身の満足度にもはっきり表れています。3年が経った時点で、参加者の80%以上が「満足」または「非常に満足」と答え、90%が「また同じ治療を選ぶ」と答えているのです。
どんな人に向いているのか
舌下神経刺激が最も向いているのは、「中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸があり、CPAPを真剣に試してみたものの、続けられない、あるいは十分な効果を感じられない人」だと、ウサマ医師は説明します。
閉塞性睡眠時無呼吸の人がCPAPで思うような効果を得られない理由として最も多いのは、単純に治療を継続できないことです。そのほかにも、閉所恐怖や息苦しさを感じる、マスクの形やサイズが合わない、マスクによる不快感や顔の痛み、加湿が足りずに鼻や口が乾いたり鼻が詰まったりするといった問題が挙げられます。
ただし、この治療を受けられるかどうかは、睡眠検査の数値を一つ確認すれば分かる、というほど単純ではありません。医師は、体重や気道の形はもちろん、無呼吸が閉塞性なのか別のタイプなのか、そして睡眠中に喉のどのあたりがつぶれてしまうのかまで、細かく見極める必要があります。
この最後の点を調べるために、外科医は「薬剤誘発睡眠内視鏡」という特殊な検査を行います。患者を短時間だけ眠らせ、眠っているあいだに気道がどう動くのかを、実際に観察する検査です。
「気道のつぶれ方には、刺激によく反応するパターンと、そうでないパターンがあるのです」と、ウサマ医師は述べました。
もっとも、そこまでの検査や手術に進む前に、もっとシンプルな対処で済まないかを確かめておく価値はあります。
「鼻づまりさえ解消できれば、装置を埋め込む手術を避けられるケースもあります」と、イギリスの王立国立耳鼻咽喉科病院で耳鼻咽喉科外科医を務め、睡眠外科の責任者でもあるヴィク・ヴィア医師はエポックタイムズに語りました。
鼻が詰まっていると、どうしても口で呼吸せざるを得なくなります。そして仰向けで眠ると、あごが、そしてあごと一緒に舌が、喉の奥へと滑り落ち、気道をふさいでしまうことがあるのです。
「鼻と舌は、解剖学的にはつながっていません。それでも、体の中を流れる空気を介して、不思議な形で結びついているのです」と、ヴィア医師は述べました。
手術はどのように行われるのか
埋め込み手術にかかる時間は、2時間を少し超える程度です。多くの患者は、手術当日か、遅くとも翌朝には帰宅できます。
舌下神経刺激が適していると判断され、睡眠中の検査で特定の気道閉塞のパターンが確認され、その装置ごとに定められた条件を満たせば、実際に装置が埋め込まれます。手術からおよそ1カ月後に装置の電源が入れられ、本人にリモコンが手渡されます。そこから3カ月ほどかけて、無理のない範囲で少しずつ刺激の強さを上げていきます。
初期の副作用としては、切開した部分の痛みや腫れ、一時的な舌の脱力感などがあります。装置が動き始めたあとは、舌が歯にこすれてピリピリしたり、口の中が乾いたりすることに気づく人もいますが、こうした症状は多くの場合うまく対処でき、時間が経つにつれて、あるいは設定を調整することで改善していきます。頻度は高くありませんが、感染や、埋め込んだ電線がずれてしまうといったリスクもあり、その場合は追加の手術が必要になることもあります。
装置を埋め込んだからといって、それで治療が終わるわけではありません。
「これは、スイッチを入れ、調整を重ね、時間をかけて経過を見ていく必要のある、埋め込み型の治療なのです」と、ウサマ医師は述べました。
最初に変化に気づくのは、本人よりも、同じ寝室で眠るパートナーであることがよくあります。いびきが静かになり、呼吸が止まる回数が減り、眠っているあいだの様子が以前ほど落ち着きなく見えなくなるのです。本人がその変化に気づくのは、もう少しあとになってからで、夜中に目を覚ます回数が減り、朝の目覚めが良くなったと実感するようになる、とウサマ医師は述べています。
これひとつで解決するわけではない
埋め込み手術は、治療の重要な柱の一つにはなり得ますが、それだけですべてが解決するとは限りません。耳鼻咽喉科専門医で、ジェームズ・クック大学准教授でもあるデイビッド・マッキントッシュ医師は、装置そのものだけでなく、その先にも目を向けることの大切さを強調しました。
「舌下神経刺激が果たす役割は、今も広がり続けています。ただ、土台となる考え方は変わりません。鼻で楽に呼吸できるようになること自体が、呼吸の改善にとどまらない、大きな健康上の恩恵をもたらすのです」と、同医師はエポックタイムズに語りました。
睡眠検査を受ければ、睡眠時無呼吸があるかどうかは分かります。しかし、それがなぜ起きているのかまでは、必ずしも分からない、とマッキントッシュ医師は言います。原因となる要因の組み合わせは、患者ごとに異なるのです。
体重も、その要因の一つです。ヴィア医師によれば、閉塞性睡眠時無呼吸のある人には減量が勧められることが多い一方で、睡眠時無呼吸そのものが体重の増加につながっている場合もあるといいます。
睡眠時無呼吸があると、1時間のうちに何度も目が覚めてしまいます。体はこうした生理的なストレスを受けると、炭水化物を欲しがらせたり、脂肪を蓄えやすくしたりするホルモンを分泌することが、今では分かっています。そうして、悪循環が出来上がってしまうのです。
さらに、最近になって新たな問題も見えてきました。マンジャロのような急速な減量を促す薬を使っている患者は、体脂肪と一緒に、喉の内側にある筋肉まで失ってしまうことがあります。その後、薬をやめて体重が元に戻ると、脂肪は戻ってきても、喉の筋肉までは戻らないことがあり、結果として、薬を使う前よりも睡眠時無呼吸が悪化してしまう患者もいるのです。
「以前の2倍ひどい睡眠時無呼吸を抱えて戻ってくる人を、最近よく見かけるようになりました。眠っている様子を見ると、脂肪が溜まりやすい部分の状態が、薬を始める前よりもずっと悪くなっているのです」と、ヴィア医師は述べました。
そこで同医師は現在、こうした変化に対抗するため、喉の筋肉を鍛える運動を勧めています。研究によれば、1日およそ30分の取り組みを3カ月続けることで、呼吸の乱れを39%減らせる可能性が示唆されています。
鼻での呼吸のしやすさ、舌や喉の筋肉の働き。これらはいずれも、睡眠時無呼吸に関わり得る要素です。だからこそ、誰にでも効く、たった一つの正解というものは存在しません。
「いびきや閉塞性睡眠時無呼吸に対する最も効果的な治療は、患者さん一人ひとりの体の構造や生理機能、生活習慣、そして好みに合わせて、個別に組み立てていくべきものです」と、舌下神経刺激装置の埋め込みと睡眠時無呼吸の治療を専門とする、顧問耳鼻咽喉科医で睡眠外科医のライアン・チン・タウ・チョン氏はエポックタイムズに語りました。
舌下神経刺激は、合う人にとっては、本当に効果の高い治療になり得ます。しかし、その成否は、その人にとって本当に適した治療かどうかにかかっている、とウサマ医師は言います。CPAPがうまくいかなかったという経験だけで判断するのではなく、手術を検討する前に、きちんとした評価を受けることが欠かせません。
患者によっては、この刺激療法を、体重管理や体位療法、鼻の治療、口腔内装置、そして場合によってはCPAPとも組み合わせることが、最も良い選択肢になることもあります。
(翻訳編集 日比野真吾)
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