【大紀元日本6月11日】うっとうしい梅雨の季節は好まれないことが多いが、柔らかな雨に濡れて咲くこの花を目にすれば、その思いも幾分は解消されるに違いない。
紫陽花(あじさい)は、中国語では「繍球花」と書く。美しい刺繍が施された手鞠のようだから、そう呼ばれるのであろう。漢字の意味との兼ね合いも含めて、なかなか上級に属する花名ではないかと思う。
それに対して本邦の「紫陽花」は、どう読んでも「あじさい」の発音にはならない。もともとの和語に後から漢字を当てた名称には間違いないが、さて、その由来はどこからくるのか。
唐の詩人・白居易に「紫陽花」と題する詩の一首がある。その詩の自注に、「招賢寺に山花の一株があったが、誰もその名前を知らなかった。花の色は紫で、芳しい香りを放っている。仙界の花にも類するように見えたので、紫陽花と名づけた」と白居易自身が記している。
そうすると、白居易がこの時目にした花に自分で「紫陽花」と名づけたことになるのだが、その花がいま日本で見るアジサイであるかというと、どうも別種の植物であったらしいのだ。
どうやら平安時代の学者で三十六歌仙の一人でもある源順(みなもとのしたごう)が、白居易が名付けた別花の漢字を日本のアジサイに当ててしまったらしい。そのような「千年越しの誤訳」の結果、今日の私たちが紫陽花と書いて「あじさい」と読む、何とも奇妙な、しかし慣れればそれも捨てがたい日本語のアジサイになったという。
アジサイが今年も咲く。雨の多いひと月を、厭わずに楽しみたいものだ。
(牧)
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