英国バイリンガル子育て奮闘記(39) 日本語の教材(1992-1996年) 中

【大紀元日本6月14日】文部省の海外子女用の通信学習では、国語、算数、生活などの教科のドリルが毎月送付され、教科書に合わせてドリルをした後、添削用のシートに取り組む。一つ気がついたのは、娘は算数は進んで答えようとするが、国語はいやがる。算数の出題は「計算をしましょう」と書いてあり、国語の出題は「次の問題に答えなさい」とある。これは、私の時代も同じだった定番の表現だ。しかし、個人主義で本人を尊重する文化で育つ娘には、国語の「しなさい」というのを見ると、「絶対しない」と反応してしまう。

また、国語の出題で、「物語を書きましょう」は進んでするが、「最初の段落を写しなさい」は、苦しみながらいやいやする。イギリスの小学校ではきちんと文を写したりするより、創作文をたくさん書かせる、いわゆる「楽しい」授業だったようだ。

イギリスの学校は9月から始まる。さらに一年生は、5歳になる年から始まる。というわけで、イギリスでの学校教育は、日本の1学年よりずっと早かった。イギリスの学校生活が主流になり、補足的に似たような概念を日本語で入れられれば理想だ。帰国子女用の通信学習の出だしはよかった。算数などは、始めは数字の書き方などで、娘はとっくに知っていることばかりだった。しかし、本人に合わせすぎるイギリスのシステムでは、2年生、3年生になると、一クラスでの学力の差に開きができ、伸びていた子も伸びなくなってしまう感じだった。

2年生の九九算で、完全に日本に追い越された。日本の小学校の体験入学を2年生の春に1週間だけさせてもらい、日本の担任の先生からの同年12月のクリスマスカードで、「九九算、全員合格しました」というメッセージを読んで、5の段と10の段から始めるイギリスは、そこで止まってしまう子も多いようで、教育レベルの格差を痛感した。

教育水準の問題だけでなく、小学校2年生というのは西洋と東洋のバイリンガルにとって大きなハードルがあることを発見した。算数は2年生から1万の数というのが導入される。しかし、欧米圏には「万」の発想がない。そして、九九算は、「ににんがし、にさんがろく」と「2」の部分が最初に来る日本と違い、英語では、「2 times 2is 4, 3 times 2 is 6, 4 times 2 is 8」と「2」の部分は後に来る、「リンゴか三つ」という日本語と「Three Apples」という英語の語順の差から来ているのだろうか。教育のある高レベルのバイリンガルは、九九算を2度丸暗記しなければならない。(イギリスの学校から戻ると、親に部屋に缶詰にされて、日本語で九九算を丸暗記させられたという人にも、後で出会った。)娘の場合は、数字を見ると英語で考えるようになったと思う。

(続く)

著者プロフィール:

1983年より在英。1986年に英国コーンウォール州に移り住む。1989年に一子をもうけ、日本人社会がほとんど存在しない地域で日英バイリンガルとして育てることを試みる。