【呉校長先生の随筆】 ー金魚の話ー

【大紀元日本11月29日】学校の昼休みに、雅ちゃんたち2人はゴールド色に輝く2匹の金魚が入った金魚鉢を校長室に持ってきた。私に、金魚の面倒をみてもらいたいのだという。本来は飼育係の雄(ゆう)くんが担当なのだが、彼は既に3日も学校を休んでいるらしい。

一日中、一言もしゃべらない物静かな雄くんは、しょっちゅう学校を欠席し、先生たちも頭を悩ましている。彼はかつて学校中退の寸前だったが、金魚の飼育係になってから毎日学校へ来るようになった。

私は、雄くんが学校に来るまで金魚の面倒をきちんと見るようにと念を押された。雅ちゃんたちは金魚鉢の水の交換やエサの与え方などを早口で説明すると、私が質問する間もなくさっさと行ってしまった。

数日間、金魚の面倒を見続けてから、私はふと校長としてやるべきことは何だろうかと考えた。翌日、教師2人と雅ちゃんたちを連れて、お祖母さんと一緒に住んでいるという雄くんの家を訪ねた。

時間はすでに午前10時をまわっていたが、雄くんはまだ布団の中で寝ていた。食べ終わったインスタントラーメンのカップと箸が散乱し、部屋中が散らかっていた。雄くんは何日間も、きちんとした食事を取っていないようだった。そして、目が覚めた雄くんは、狭い部屋に5人も立っていることに驚いた。担任は嘆きながら布団を畳み、雅ちゃんたちは床に散らかっているゴミを片づけた。もう1人の先生が、雄くんを洗面所に連れて行った。

20分後、雄くんの自転車が車に載せられ、学校へ行く用意ができた。唯一、準備できていないのが雄くんだった。突然のことに動揺した雄くんは、どうしても靴をうまく履けない。私は彼の前にしゃがみ、靴をはかせてひもを結んであげた。嬉しそうな雄くんの様子が、私にも伝わってきた。

あっという間に3年が過ぎた。卒業式の終了後、自分の校長室に戻ると、金魚鉢がテーブルに置いてあった。横に花束とカードが添えられている。カードには、「校長先生、本当にありがとうございました。あの日、僕の靴ひもを結んでくれた時、僕は父親のことを思い出しました。もう十何年も前のことです」と記されていた。

※呉雁門(ウー・イェンメン)

呉氏は2004年8月~2010年8月まで、台湾雲林県口湖中学校の校長を務めた。同校歴任校長の中で、在任期間が最も長い。教育熱心な呉校長と子どもたちとの間で、沢山の心温まるエピソードが生まれた。当コラムで、その一部を読者に紹介する。

 (翻訳編集・大原)