【大紀元日本2月25日】僕は最近、ずっと携帯電話を眺めては手にとり、アドレス帳を何度も見返していた。
そして、ついに我慢できずに保存していたメールをもう一度開けてみた。
メールの内容はこうである。「今日のお昼頃からあなたのことが頭から離れず、午後になって更にこの思いが募り、心のテンションが5度も下がってしまった。恐らく、この状態はあなたからの電話が届くまで続くでしょう」
このメールは同僚が私に送って来たもので、受け取った時は「面白いな」と思い保存していたのだ。
私はこのメールの内容を、密かに思いを寄せている彼女に送り、自分の気持ちを伝えようとした。このぐらいのメールなら、不快に感じることはないだろうと考えた。
アドレス帳で彼女の名前を探し、メールの送信ボタンを押した。その瞬間、私は思わず「やばい!」と叫んでしまった。宛先を間違えてしまったのだ。
今度は慎重に彼女の名前を確認してから送信ボタンを押した。それからやっと一息ついた。
その日の晩から次の日まで、僕は彼女からの折り返しの電話を今か今かと待っていた。時間が過ぎるのが本当に遅く感じられた。秒針がカチカチと鳴り、まるでカタツムリが動いているようだ。 僕の携帯はジーパンのポケットの中に収まっていたが、たびたび時間を確認しては、ため息をついた。ちょうど片付けをして会社を出ようとしていた時、携帯が鳴った。これは、世の中で最も美しいメロディーではないか。僕は自分の顔が一瞬赤くなったのが分かった。そして、素早く携帯を取り出した。すると携帯の着信画面には父の番号が表示されており、少し失望しながらも電話に出た。
私「お父さん!」
父「今日、お前に豆乳機を郵送したからな」
私「本当?へえー、僕もついにマイ豆乳機を持てるのか!」
父「今後は朝早く起きて自分で豆乳を作りなさい。外で買う豆乳は飲めたものじゃないからな」
私「命令に従います!でもお父さん、何で突然、豆乳機を僕に送ってくれたの?」
父「お前は遠く離れているから、わしらに会いたくても会えんし、行ってやることも出来ない。昨日の晩、お前からメールを受けとってから、母さんはお前に何を送ってやろうかと一晩中考えて全然眠れなかったそうだ。朝起きてからお前に豆乳機を送ってやろうと思い立ったんだ」と電話の向こうで「えへへ」と照れくさそうに笑っていた。
私「メール?何のメール?」
父「お前は私たちに会いたいと昨日のメールで言っていたじゃないか」と父は笑いながら言った。
私はポカーンとしたが、やっと状況がつかめた。
電話を切った後、私の目からは大粒の涙が溢れた。
本当は、あのメールは僕が間違えて父に送ったものだと伝えたかった。でも、それを言い出す勇気はなかった。今まで一度も父にメールを送ったことなどなかったからだ。父は畑仕事ばかりして中学もろくに出ていないし、メールなんて受け取れるわけがない。そう思い込んでいた僕は、いつも両親と電話で話をしていた。まさか、あのメールを受けとったお父さんとお母さんが、僕のことをこんなにも思ってくれて、喜んでくれるとは想像もしていなかったのだ。
「愛に溺れると人はおかしくなる」と以前、聞いたことがある。この言葉は恋愛感情のことだとばかり思っていたが、家族同士の愛情にも当てはまるのだ。
お父さんは、なぜこのメールが間違って送られたものだと思わなかったのだろう。
僕は宿舎に戻り、ベッドに横たわりながらいろいろな事を考え、寝付けずに何度も寝返りをうった。結局、一睡も出来なかった。
小さい頃の僕といえば、両親の愛情を一身に受け、家族の愛に守られながら成長して大人になった。毎日僕は、周囲が分からなくなるまで学業に没頭したかとおもうと、生活の辛さを嘆き、友達と遊びに夢中になったり、恋愛ごっこなぞに浸っていた。みるみるうちに老けていき、ロウソクのように命の光が衰えていく両親に対して、いろいろな理由をつけては無関心を装い、彼らへの愛情を忘れかけていたことを思い出した。
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