私小説『田舎の素麺』(二)

しゅるしゅると皆で素麺をすする幸せな音が居間に響くと、やおら咀嚼して嚥下し一拍してから、「この出汁は、アゴからとったのかい?」とキク叔母さんが聞いた。白髪の母はすぐにかぶりを振って、「いやあ、今年は河豚のアラを使ってみたよ。東京から孫を連れてきている正志が河豚のアラがすきだから」と、私が話題に上ったので、親戚一同の視線がいっせいに私に集中して、田舎の通例なのだろうが、何か意見を求めているようだった。

一種田舎特有の人間関係を敏感に感じ取った私が押し黙っていると、「今年もお盆だっていうのに、京子さんは九州に来んとか? 嫁が一緒じゃないとか、九州のお盆じゃ考えられん! だから、あれほど一緒になるなら、九州のおなごば一番じゃと反対したのに、本州の人と一緒になったから、こないなみっともないことになる!」と典型的な九州男児の菊治叔父さんがイラつき気味に口火を切って空気が悪くなったが、このとき正午の戦没者への黙とうが始まって救われた。

黙とうが終わったら皆の前で公開処刑されるかと内心肝を冷やしつつ静かに目を開いたところ、いそいそと白髪の母がノドグロの煮つけと冷汁の出汁をかけた麦飯を盆にのせて昼食の支度をしていた。ノドグロは最近東京でも注目されるようになった玄界灘の逸品で、田舎の人は現金なもので、御馳走を前にするとすぐに空気が直ってしまい、いつのまにか亡父の遺影の前にもそれが添えられている。つくづくこの白髪の母が、わが母ながら機転の利く行き届いた女性だと感心させられる。

▶ 続きを読む
関連記事
ネギやショウガ、ニンニクも、体質によっては不調の原因に。体に良いはずの食材が合わない場合と、食べ方の注意点を紹介します。
AIと効率化が進む現代、左官職人は自らの手のひらで壁と対話し、素材の息遣いを感じ取る。機械では決して再現できない「職人魂」と手仕事の記憶。失われゆく伝統の根と、現場に希望を見出す若者の姿を描く
片頭痛やしびれの原因は、痛む場所とは別にあるかもしれません。首・肩・臀部に隠れるトリガーポイントと筋膜痛の見分け方を紹介します
毎日水やりしているのに花や野菜が元気にならない。原因は水の量ではなく、時間やかけ方かもしれません。水やりの5つの間違いを紹介します。
午後のイライラ、眠気、口の渇きに。蒸し鶏や枝豆、杏仁豆腐など、コンビニで選べる処暑の薬膳ランチを紹介します