焦点:消滅可能性日本一の村、自民安泰 「3本の矢は1本も届かず」 

[南牧村(群馬県) 17日 ロイター] – 東京や大阪の大都市圏では、希望や立憲民主、維新などの政党が話題に上る今回の衆院選。だが、一歩地方に足を踏み入れると、揺るぎのない「自民一強」の風景が広がる。

「日本一高齢化の進んだ村」と知られる南牧村では、全人口に占める有権者の割合と投票率が高く、「改革」、「リセット」よりも政策の継続性が重要視されている。

「私は、昔から自民党一本。他の政党の人は絶対当選できないよ」──。73歳の今井力氏はロイターの取材に力強く語った。「僻地(へきち)に住んでいると、中央との太いパイプがあったほうが災害が起きた時など、うんと頼みやすい。そういう人たちを応援しないとダメな村なんです」と話す。

群馬県南牧村。2014年5月に民間シンクタンクの日本創成会議が発表した人口推計で「日本一消滅する危険性が高い自治体」とされた。その後も人口は減少を続け、現在では2000人を切っている。

長谷川最定村長によると、毎年自然減を含め100人程度人口が減っているが、700人―800人程度になった段階で止められるよう、村では移住促進などの対策を取っている。

「人口減少対策なんて、1年でできるわけがない。地方創生の5年の枠組みの予算が切れても、それで終わりではなく続けてほしい」。村長は政策の継続性が重要だと強調し「政権が変わるのは怖い」と話す。

しかし、安倍晋三首相が雇用を改善させ株価を上昇させたと胸を張るアベノミクスの果実は、村には全く届いていないという。

「3本の矢だと言うが、村中見回しても1本も届いていない。1000本くらい撃ってもらわないとだめなのではないか」と言う。

南牧村はかつてコンニャクイモ栽培や養蚕で栄えたが、価格低迷で衰退。その後は、それに代わる産業が生まれず人口減少が始まった。

村の中心部で明治10年創業の和菓子屋を継ぐ4代目の金田鎮之氏(46)。中学卒業の時、村に中学は3校あり、学年には同級生が44人いた。今、村に残っているのは自分を含め5人。

現在、村の学校は小中学校1つずつに減り、小学生24人、中学生17人しかいない。団体スポーツができない生徒数だ。

金田氏は村の空き家を調査し、空き家バンクとして登録し、ホームページで公開する活動をしている。移住を促進するための山村ぐらし支援協議会会長を務める。

衆院選は自民党に投票するつもりだが「消去法でいくとそんな感じ」。国政レベルの政治に期待することはほとんどないという。

子どもが大きくなり、家業を継ぎたいと言ったら「この業界に入るのは止めない。ただ、ここでやるというのはどうかと思う」と話す。

10年後、20年後は今より人口が減るし、空き家も増えるのが目に見えているからだ。

 

村に移住してきた若者もいる。田中陽可氏(26)は、総務省のプロジェクト「地域おこし協力隊」として2年半前に南牧村に移住し、山間地の農地を借りて自然農法でナスやサトイモなどの野菜を作っている。「自然農法を広めることで、世界から飢餓をなくす」ことが夢だ。

東京で生まれ育ち、アメリカの大学に進学した。村の人たちからは親切にされ、ここの生活には満足しているという。都会では若者の投票率が低いことについて意見を聞くと「村は、小さい分、選挙の影響がすごくわかる。自分の1票の重みが感じられるから投票に行く」と答えた。

道の駅「オアシスなんもく」で会った前述の今井氏は、今でも野球チームに所属して「仕事は野球」と言い切るほどの野球好きだ。体格も頑強で70代にはとても見えない。

夕方、南牧村役場の隣では、ナイターの照明がまぶしいグラウンドで70代以上と思しき男性たちが、球音を響かせ練習に余念がなかった。

昔は子どもたちの遊び場だったであろう野球場を占領して汗を流す高齢者たち。

「この村のお年寄りは、みんな驚くほど若く元気です。山が多いから足腰が強いのと、食べ物が良いせいかもしれない」。村で数少ない20代の田中氏は言った。

 

(宮崎亜巳、竹中潔 編集:田巻一彦)

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