焦点:英国が陥る「不満の夏」、保守党員がEU離脱案に反旗

Andrew MacAskill and William James

[ビーコンズフィールド 5日 ロイター] – 英国の雨降る週末、年配の保守党員たちが、ソーセージと赤ワインを手に夜の庭に集まっている様子は、転覆を図ろうとする光景だと思えないかもしれない。

だが、このような集まりは実際に英国各地の庭や公民館で起きており、こうした動きが、同国が欧州連合(EU)からどう離脱すべきかを巡って、英議会で行われる投票の鍵を握る可能性がある。

ビーコンズフィールドは富裕層が暮らすロンドン郊外のベッドタウンで、保守党の地盤だ。しかし混み合ったキッチンからは、EUと決別し英国の主権を取り戻すという、離脱支持派が抱いた「つかの間の夢」をメイ首相がいかに売り渡したかについて不満の声が聞こえてくる。

「首相は、実際はそうではないのに離脱しようとしている印象を与えることで、国を間違った方向に導いている」と、小規模ビジネスに投資しているというロジャー・ケンドリック氏は、保守党内で保守民主主義を推進する圧力団体の集会でロイターに語った。

「国を欺き、その報いを受けずに済むと彼女は考えている。われわれはだまされている」と、紙皿の食べ物を口にしながら同氏は話した。

ケンドリック氏の意見は看過できない。

約12万4000人いる保守党の一般党員は、資金を集めたり投票日に地元票を集めたりするなど、英政治システムにおいて重要な役割を担っている。彼らは主に無償でそうした活動を行っている、中には給料を得ている地元議員もいる。

こうした草の根運動の圧力により、ほんの一握りの議員がメイ首相の提案に反対票を投じただけでも、首相が現在EUと交渉している計画が台無しになる恐れがある。

3月29日の「離脱日」まで7カ月を切る中、2.6兆ドル(約288兆円)規模の英国経済と世界最大の貿易圏であるEUの今後の関係は危機に直面している。

EU離脱を巡り、英国内では意見が分かれたままだ。2016年6月に実施された英国民投票の結果は、離脱支持が52%、不支持が48%だった。国民投票を求めた保守党内でも同様だ。

英国各地の党員25人超に対する取材では、地方の一般市民と首都ロンドンの党指導部との間に横たわる「分断」は、ブレグジット(英国のEU離脱)よりも根深い可能性が明らかになった。

「20年かけてここまできた。ブレグジットにより、われわれの関係は土壇場に追い込まれた」と、ビーコンズフィールドのバーベキューを主催したジョン・ストラッフォード氏は言う。

「党議員の6、7割が『残留』を支持し、一般党員の同じく6、7割が『離脱』を支持した場合、保守党は事実上、終わりを迎えることになる」

<チェッカーズ案>

ビジネスに優しいメイ首相の離脱案は、それが7月にまとめられた首相別邸の名にちなんで「チェッカーズ」と名づけられた。同案は離脱後もモノとサービスの円滑な流れを何よりも重視している。

EU側は英国による一段の譲歩が必要だと主張している。10月までに合意に至るとの期待は、11月にまでずれ込んでいる。

メイ首相は、どのようなことが浮上しようとも、恐らくクリスマス前までには議会の承認を求めると宣言している。

もし承認が得られなかった場合、英国が合意なしにEUを離脱する可能性に直面することになる。そうなれば、メイ氏に対する信頼は失墜し、首相の座を追われかねない。総選挙の前倒しを余儀なくされる可能性すらある。

定数650議席の下院では、メイ首相が率いる保守党からの316票に同党に協力する民主統一党の10票を加えた326票が、野党の313票を13票上回り、議会の過半数を得る見込みだが、あくまでこのシナリオは保守党議員が団結して首相を支えることが前提となる。

現時点では大きな仮定にすぎないが、7月にはEU残留派議員12人がブレグジット関連法案を巡り反対票を投じた。

議員に圧力をかける上で一般党員は重要な役割を担うと、ロンドン大学クイーン・メアリーの政治学教授、ティム・ベイル氏は指摘する。

「つまり、彼らがハードブレグジット(合意なきEU離脱)に懸命に取り組んできたのであれば、そこから手を引くのは難しい」

マンチェスター北西部のボルトン・ウエスト選出の保守党議員、クリス・グリーン氏のような議員はすでにメイ首相に反旗を翻した。

グリーン議員は7月、チェッカーズ案に反対の意を表明するため、運輸省で担当していた職を辞任した。もし議会で投票されることになれば、反対票を投じるつもりだという。

グリーン議員の選挙区は国政の傾向を表す指標として伝統的に見られており、国民投票の離脱支持率は56%に上った。

昨年の総選挙で936票を獲得して選出されたグリーン氏は、支持者が自身を見捨てて、反EUを掲げる英国独立党(UKIP)にくら替えすることを懸念している。

「提案されている離脱案に対する見方はほぼ例外なく否定的で、絶望感すら漂っている」とグリーン議員は言う。

ロンドン東部のホーンチャーチとアップミンスターの保守系団体の会長を務めるボブ・ペリー氏は、チェッカーズ案が明らかになって以降、160─170人いる会員の約10人が脱退、あるいは更新を拒否したと語った。

「彼女(メイ首相)は一般の支持者に耳を傾けるべきだ。結局、一軒一軒、足で支持を訴えるのはわれわれなのだから。彼らの支持が得られないなら、厄介なことになるだろう」と同氏は語った。

ビーコンズフィールドでは、ストラッフォード氏が2022年に実施される次の総選挙で現職のドミニク・グリーブ議員を党候補として擁立しないよう求める嘆願活動を開始した。同議員が議会でEUを支持する反逆的な動きを何度か主導したことが主な理由だという。

前出の投資家ケンドリック氏は、保守党員歴30年において、党内でそのような分断や、指導部と一般党員にまたがる断絶が起きた記憶がないと話す。

<ブレグジット後>

全国的な世論調査では、保守党と野党・労働党の支持率は拮抗(きっこう)している。一方で、スカイ・データが8月発表した調査によると、保守党支持の有権者の59%がブレグジット交渉におけるメイ首相の仕事ぶりに満足していない。

メイ首相の後任として挙がっている1人に、ジョンソン前外相がいる。ジョンソン氏はチェッカーズ案がまとまった後に外相を辞任し、積極的に同案に反対する活動を行っている。

一般の保守党員の多くにとって、2016年のEU離脱キャンペーンで主導的役割を担い、ユーモアと一般人の感覚を持ち合わせたジョンソン氏は理想の後任として映る。

南西部サマセットの地方議員であるジョン・ソーン氏は、メイ首相の退陣を望み、ジョンソン氏を支持している。

「ボリス(・ジョンソン氏)は人々に愛されている。パブで一緒に1杯やれるような男だ」と同氏は語った。「彼ならブレグジットをやり遂げられるという自信がある。彼は一般大衆の言葉を話す」

ロイターが取材した党員の圧倒的多数は、たとえメイ首相が3月までにブレグジットを成し遂げることができたとしても、彼女に未来はほとんどないと考えていた。

デービッド・キャメロン、ジョン・メージャー、マーガレット・サッチャーという歴代保守党政権の指導者も、欧州での英国の役割に手を焼いた。

現在、サッチャー元首相を懐かしむ人もいる。ビーコンズフィールドのバーベキューに参加したグラスさんもその1人だ。

「メイ首相がもう少しマギー(サッチャー氏の愛称)のようだったら、EUに乗り込んでこっぴどくやっつけたのに」と、グラスさんはソーセージが焼ける煙が立ち上る中、傘の中でにこやかに振る舞いながらこう述べた。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

 

 9月5日、英国の雨降る週末、年配の保守党員たちが、ソーセージと赤ワインを手に夜の庭に集まっている様子は、転覆を図ろうとする光景だと思えないかもしれない。写真は、ロンドンの英議会前で抗議するEU離脱支持派(2018年 ロイター/Peter Nicholls)

 

 

 9月5日、英国の雨降る週末、年配の保守党員たちが、ソーセージと赤ワインを手に夜の庭に集まっている様子は、転覆を図ろうとする光景だと思えないかもしれない。写真は、ロンドンの英議会前で抗議するEU離脱支持派(2018年 ロイター/Peter Nicholls)

 

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