アングル:米国とサウジ、記者失踪巡り利害と思惑が交錯

[ワシントン 16日 ロイター] – 米国とサウジアラビアは過去70年にわたり、相互に依存する関係にあった。サウジは原油を輸出し、米国は地域の安定を提供。原油価格やイラン包囲網、テロ封じ込め、シリアやイエメン内戦への対策、米国向けの投資からパレスチナ紛争まで、この2国は時に協力し合い、時には対立する関係にあった。

だが、10月2日にサウジ人記者ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールの総領事館で消息を絶ってから、米国とサウジの間で緊張が高まっている。

トルコはカショギ氏が殺されたと主張し、サウジ側は否定しているが、一部報道では尋問中に誤って死亡したとの説明を準備していると伝えられた。

両国間の関係変化による影響やリスクをまとめた。

●原油

サウジアラビアは世界最大の原油輸出国であり、供給量を調整して価格を上下できる能力がある。通常は将来の価格に影響を与えず、現状の原油収入が最大限になるような水準に調整している。サウジにとって原油収入は国家予算や、非石油部門の発展を後押しするための政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」の財源を賄うためにも原油収入は必要だ。

一方で米国も、国内でシェールオイルの生産が拡大するにつれ、輸入原油への依存度が下がっている。

ただ、もしサウジが原油輸出を減らし、原油価格が上昇するような状況になれば、米国の経済成長にとっては重しとなり、2020年の次期大統領選で再選を目指すトランプ大統領にとっては逆風となりそうだ。

また、原油価格が上昇すれば、米国の思惑とは反対に、イランにとって原油収入が増えることになり、米国のイラン対策の足を引っ張ることにもなりそうだ。

●武器輸出

トランプ大統領はカショギ氏失踪を巡り、サウジに強硬姿勢で臨むかで苦慮している。大統領は13日、カショギ氏が総領事館内で殺害されたことが確認されれば、サウジに「厳しい処罰」を科すと述べた。ただ、米国からサウジ向け武器輸出を止めるのは、米国の雇用が失われ、ロシアと中国の企業に恩恵をもたらすだけだとして慎重な姿勢を示した。

一方、共和党のリンゼー・グラム上院議員は、フォックス・ニュースに対し「サウジに制裁を加える」と述べ、さらにフォックス・ニュース・ラジオのインタビューでは「(サウジのムハンマド皇太子が権力の座にある限り)武器輸出を停止する」と述べた。

●対イエメンとイラン

サウジはイエメン内戦に介入しているが、一般市民の犠牲が増えると米国は懸念している。カショギ氏の一件で、米議会では米国の関与縮小を求める声が高まる可能性がある。

イエメンでは、サウジ主導の連合軍が支援する暫定政権と、イランが後ろ盾のイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」の戦闘が激化。米軍は、サウジ主導の連合軍を給油や情報収集面で支援しており、サウジ・イエメン国境ではフーシ派からのミサイルを迎撃するため米軍の特殊部隊が配置されている。

スンニ派のアラブ人が多数を占めるサウジアラビアとイスラム教シーア派のイランがしのぎを削る中東地域では、イエメンは覇権争いの単なる現場の1つに過ぎない。

米国とサウジはイランを封じ込めたい思惑では一致するものの、イランやシリア、レバノンを抑制する防波堤の役割は米国がサウジに頼っているのが実情だ。

●中東和平

トランプ大統領の義理の息子、ジャレッド・クシュナー氏はイスラエルとパレスチナの和平交渉に意欲を見せているが、サウジの協力を得るのは難しそうだ。

大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認め、米国大使館を移転する考えだが、もしサウジの支援が得られなければ、移転計画にも暗雲が垂れ込めそうだ。

●テロ対策

2001年9月11日に米同時多発攻撃が起きた際、国際テロ組織アルカイダへの反応が遅いとして米国はサウジを責めた。

だが今では、サウジ軍部が家族や親族のネットワークを生かして収集する機密情報がテロ対策に欠かせないものとなっている。

こういった協力体制は米国とサウジ双方にとって重要な意味があり、米国がカショギ氏の一件に過剰に反応することで、両国関係を悪化させる可能性は低そうだ。

関連記事
5月14日、バイデン政権はトランプ前大統領の元顧問スティーブ・バノン氏に対する実刑判決の執行を連邦判事に求めた。バノン氏は2022年に議会侮辱罪で禁固4カ月の判決を受けたが、判決を不服として控訴したため、刑は保留されていた。しかし現在、司法省は「もはや『判決を覆すか新しい裁判を命じることになりかねない法律上の実質的な問題』は存在しない」とし、バノン氏の主張をすべて退けた。
全米の大学キャンパスなどで頻発している活発なパレスチナ支援デモに、中国共産党と関連のある団体が資金提供していることが明らかになった。「2024年米大統領選に向けて不安をあおり、若者を過激化させ、米国を不安定化させることが目的」と分析している。
国際人権NGO アムネスティ・インターナショナルが最近発表した報告によると、中国や香港出身の留学生が海外で人権活動に関わった場合、その家族が中共による脅迫や報復を受ける事例があることが指摘された。このような中共の国際的な弾圧の実態が、再び世界の関心を集めている。
WHOは、5月27日に開催される世界保健総会に先立ち、パンデミック条約の一部条項を緩和したが、アメリカの批評家たちは、これらの変更が政策に対する懸念を十分に解決していないと指摘している。
2020年以降、香港の自治が中国共産党によってさらに侵食されつつあるため、ワシントンは香港に対する政策を見直すよう求められている。米国のシンクタンクである「戦略国際問題研究所(CSIS)」は5月7日、「2020年以降の香港の自治権の侵食」というタイトルの報告書を公開した。同報告書は北京による香港支配の拡大を明確に描き、米国政府に対香港政策の見直しを促す40ページに及ぶ調査結果を発表した。