ロンドンにある国立海事博物館の世界と海事史部門の学芸員であるロバート・ブリツ博士は、18世紀後半のミニチュア中国庭園について、次のように語っています。
このミニチュア中国庭園は「冬の三人の友」を表しています。珊瑚で作られたスモモの木、象牙と木で作られた松の木、そして彩色した象牙の竹です。これらの木は厳しい冬を乗り越えるので、忍耐、高潔、長寿を示すシンボルとされています。
イギリスのカントリーハウスを見て回れば、これに似た、天然素材を使って作られた想像上の風景を見かけることがあるでしょう。
そういった容易に思い描くことができるタピスリーや壁紙のデザインとは異なり、こちらは立体なので、中国画そのものの風景の中を歩き回った気分になります。
当時のヨーロッパの人々は、アジア、特に中国に大きな関心を持っていました。中国趣味が隆盛した時期で、こちらは理想化された中国庭園であり、いわゆる儀式的な精神の表現としての庭だったのです。
このミニチュアはさまざまな天然素材から作られています。硬い石や珊瑚の他、松葉や竹の葉の一本一本を表現するために、細く削られた象牙が一本ずつ添えられています。実に驚くべき技術です。
イギリスへの返礼品
このミニチュア中国庭園の所有者は、中国とじかに接する関係があったと思われます。たとえば、イギリス東インド会社の船長のような。
東インド会社の船長たちは、個人貿易用に船倉の一部を使用することが認められていたので、彼らはヨーロッパの物品を輸出し、自身が欲しい物や売りに出す物を持ち帰っていました。このミニチュアは船長の所有物であれ売買されたものであれ、通常の貿易とは別に、持ち帰った物であると考えられます。
あるいは、当時盛んに行われていた高級ギフトの交換に使われたのかもしれません。当時、西洋のさまざまな国が、自国の商品に対する中国市場の開放を交渉するため、使節団を送り込んでいました。ヨーロッパ人は交渉が進捗している間、よく高級時計や操り人形などのぜんまい仕掛けの動く製品をプレゼントしていました。
西洋では、ぜんまい仕掛けの製品はヨーロッパの機械職人の高度な技能を代表するものであると考えられていたので、中国人に感銘を与えるだろうと思われていました。
一方、中国は概して、ヨーロッパ人が送って来るそれらの製品にさほど感銘しなかったようです。
1790年代に中国を訪れた大規模なマカートニー使節団は数々の贈り物を持ち込みましたが、乾隆帝の興味を引いた物は何一つなかったそうです。
無論、それらの贈り物に対して返礼品が渡されました。このミニチュアも中国から海外使節団への、あるいは面会した当局者への返礼品として、ヨーロッパに持ち帰られたのかもしれません。
もし、このミニチュアが輸出用に作られたものでないとすれば、アヘン戦争の時に、戦利品としてイギリスに渡った可能性もあります。
中国を展示する
このミニチュア中国庭園は二つのことを明らかにしています。まず、中国では磨き抜かれた珊瑚や希少な石や原材料などがが素材として使われていたこと。次に、職人たちがそれらの素材を使い、このように実に自然に見えるものを作り出す技術を持っていたということです。
中国において、この庭は別の意味を持っています。これらの素材は長寿と幸運などを象徴しますが、この意味は恐らくヨーロッパには伝わらなかったのでしょう。
ヨーロッパにおいて、このような工芸品は理想化された中国の形として見られていると思います。このミニチュアが持つ意味は伝えられたのかもしれませんが、時が経つにつれ、美的価値と技術の高さだけが注目されるようになってしまったのでしょう。
このミニチュアが話題の的になるのは間違いありませんから、かつては応接間の目立つ所に置かれていたのかもしれません。あるいは、イギリス紳士が世界中から集めた、さまざまな興味深い物を陳列した小部屋に飾られていたのかもしれません。すぐ人目につく場所ではなく、その小部屋のドアを開けた瞬間、客人がすぐに気付くような場所に。
(エポック・メディア・グループ新唐人より転載)
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