焦点:台湾総統選、揺れる中国との距離感 野党候補に地元反発

Yimou Lee James Pomfret

[高雄(台湾) 9日 ロイター] – 台湾南部は工業地帯が広がる一方、農村や比較的落ち着いた雰囲気の町が点在する穏やかさを持つ。その中心都市・高雄の市長を務める韓国瑜氏は、11日に行われる総統選挙の野党・国民党候補だが、肝心の地元で一部有権者から背を向けられつつある。韓氏が台湾の中核的利益を中国に売り渡すのではないかとの懸念が理由だ。

韓氏は2018年、中国との経済関係を改善することで市民の「懐を潤す」手助けをすると約束して高雄市長に当選。それ以来しっかりとした支持基盤を築くことができると見込まれていた。

ところが独立志向の強い民進党を率いる現職の蔡英文氏と争っている総統選では、韓氏の旗色が悪い。親中国姿勢に加え、論議を呼ぶような再三の発言が批判を浴びたほか、南シナ海における石油探査を含む公約を達成できていない点が痛手になっている。

先月には「高雄を大事に思う会」と呼ばれる住民連合団体が、反韓氏の大規模集会を開催し、数万人が参加した。中には「親中の市長を解任せよ」とのメッセージを掲げる人も見られた。

団体リーダーの1人であるアーロン・インさんは「全ての台湾の指導者は、米国と中国の間でバランスが取れる場所を見つけ出す必要がある。だが韓氏は完全に中国寄りだ」と非難した。

台湾総統選は中国にとっても国際的に微妙な局面にある中で実施される。そして台湾南部の有権者の態度は、民主的な台湾が共産党独裁体制の中国とどのような関係になるかを決める選挙の結果を左右する1つの重要な要素となっている。

昨年3月には韓氏が香港と中国本土を訪問して要人と会談し、「1つの中国」が中台関係の軸だとの姿勢を改めて表明した。

ただ中国側が韓氏を歓待したことが台湾市民の警戒感を誘う形になった。多くの市民は、特に習近平国家主席が台湾への武力行使をちらつかせて以来、中国に根強い不信感を持っているからだ。

インさんは、韓氏批判と香港で抗議を続ける民主派との連帯をうたったパンフレットが積み上がった小さな事務所で、「この選挙の主な目的は、中国との握手を拒否することだ」とロイターに語った。

<1つの中国>

62歳の韓氏は、17年に国民党党首選に敗北して以降、常に人によって評価が分かれる存在だ。過激な言い回しをすることで知られ、群衆の心をつかむ演説能力があることで高雄市長に当選した。

その韓氏は、「一国二制度」は台湾が受け入れられないモデルだと言いながら、総統に就任すれば中国との対話を再開すると公約。「1つの中国」を認めて中国が中華人民共和国を指すのか、中華民国(台湾)を指すのかは双方の解釈に任せるという中国共産党と国民党の合意を有効化するよう求めている。

韓氏によれば、台湾の正式な独立は「梅毒」より恐ろしく、蔡氏が再選すれば中国との緊張関係が「噴火」状態になりかねないと警鐘を鳴らしている。

総統選と同時に行われる立法院(国会)選で高雄市美濃区から国民党候補として出馬したワン・リン・チャオ氏も、安定こそが何よりも大事で、中国との関係継続が先に進む唯一の道だと強調するとともに「21世紀は中国の手にある。台湾は良好な未来を求めているので、われわれは厄介な政治問題に立ち入り、事態が変わるのを望まない。人々が気にしているのはお金と安全な生活の話だけだ」と主張。昨年中国政府に規制措置を打ち出された後、本土から台湾への観光客や本土への農産物輸出が減ってしまったという「実害」を訴えた。

もっともワン・リン・チャオ氏と議席を争う民進党のチュー・イイン氏などは、台湾は中国だけに頼らず、東南アジア18カ国との経済関係を深める政策の推進が不可欠だと反論する。

またチュー氏は高齢有権者向けには、1997年に香港が中国に返還された後には本土から大量の移民や旅行者が押し寄せ、公営病院は長蛇の列となり、粉ミルクをはじめとする生活必需品が買い占められてしまったと説明している。

同氏はロイターに「そうした言い方をすると、香港の今日が台湾の明日の姿だと本当に理解してもらえる」と打ち明けた。

<籠の鳥>

台湾南部の農家やレース鳩ブリーダーは、過去何十年間も中国との対立に生活をおびやかされてきており、対中関係悪化は避けたい考えだ。それでも香港の現状や習近平指導部によって中国の強圧姿勢がより鮮明になったことは無視できない。

あるレース鳩ブリーダーの男性は「一国二制度はよくない。香港で起きていることを見ると、かつて台湾と同じ自由があったが、本土がそれを奪いつつある。私の鳩と同様に、香港市民はしばらく飛べても、結局は籠の中へ、いつも戻されるのだ」と述べた。

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