【紀元曙光】2020年5月6日

昨日、5月5日は端午の節句。今の日本は「こどもの日」で、男女を問わず子どもの健やかな成長を祈念する。
▼今年は外出自粛で、なかなか自由にはできなかった。もちろん子どもを遊園地に連れて行けなくても、家の中で過ごす楽しみはあっただろう。子どもたちも、幼稚園や保育園に行かれないことで、今が通常でないことは分かっている。これ以上の不安を子どもに与えないためにも、大人たちが良き範を示したいものだ。
清少納言枕草子』に「五月五日(さつきいつか)は曇り暮らしたる」とある。本来は旧暦なので、新暦6月ぐらいの季節を想像するべきだろう。それにしても「5月5日は一日中、曇っているのが、趣があってよい」と書いているのは、はて、どういう美的感覚なのか。
▼古典を鑑賞するには、現代の日本人であることを一度忘れないといけないらしい。中宮定子に仕える清少納言がいる場所は、およそ千年前の京都の宮中である。その彼女が目にしている風景は、主殿寮(とのもりょう)が管轄する各殿中であるが、端午の節会には、菖蒲や蓬(よもぎ)が軒先の各所に吊るされる。
▼菖蒲の花を見るのではない。その菖蒲や蓬から、芳しい香りが漂ってくるのだ。むしろ薄暗い曇りの日であったほうが、屋内の香りに意識を集中できる。清少納言が描いた5月5日の宮中は、そんな香気ゆたかな空間だった。
▼清少納言のように、曇りの日を好ましいと思うのも、発想の転換によるのかもしれない。私たちは、この閉塞的な日々に、どうしたら小さな楽しみを見つけられるか。小欄の筆者も、考えている。