パスポート写真はなぜ笑ってはいけないのか? 専門家が解説

パスポートは海外旅行に欠かせない重要な書類です。ほとんどの国では、パスポート申請に使用する写真について、写真のサイズや撮影時期、申請者の表情、背景などに関する明確な規定があります。中には、撮影時に笑顔を見せたり歯を見せたりすることを禁止している国もあり、そのためパスポート写真はどれも真面目な表情に見えます。では、なぜ満面の笑みの写真をパスポートに使用できないのでしょうか。
 

笑顔が制限される理由

『ハフポスト』の報道によると、アメリカではパスポート写真の撮影時に笑うことを正式に禁止しているわけではありません。しかし、アメリカ国務省は、申請者が正面を向いてカメラをまっすぐ見つめ、自然な無表情で、両目を開き、口を閉じた状態で撮影することを求めています。

国務省の報道官は『ハフポスト』に対し、「写真撮影時に微笑むことはできますが、両目を開き、口は閉じていなければなりません」と説明しました。

また、中華民国(台湾)外交部領事事務局が2022年3月31日に公表したICチップ搭載パスポートの写真規格では、パスポート申請者は「カメラレンズを正面から見つめて撮影し、両目を開いてはっきり見える状態で、自然で誇張のない表情とし、口は閉じて歯を見せないこと」と定められています。

アメリカの旅行専門家ケイティ・ナストロ氏は、歯を見せて笑うと、入国審査官が目の色や顔の輪郭を確認しにくくなり、本人確認が難しくなると説明しています。特に、多くの税関や入国審査で顔認識技術が利用されている現在では重要な問題です。顔の識別ポイントが少しでも動くと、現在の顔認識システムでは正確な認識が難しくなるためです。

生体認証写真および旅行分野の専門家カロリナ・トゥロフスカ氏は、ほとんどの国において、パスポート写真で笑顔を避けることが一般的な原則になっていると述べています。国ごとに使用している顔認識ソフトウェアが異なるため、「自然な無表情」の定義も多少異なります。フランスでは、口角を上げることさえ認められていません。

一名女子拍攝的照片呈現中性表情。(Shutterstock)
無表情で撮影された女性の写真。(Shutterstock)

トゥロフスカ氏は、笑顔が禁止される主な理由について、空港などの国境検査施設に顔認識ソフトウェアが導入されているためだと説明しています。多くの入国管理機関では、係官ではなくコンピューターがパスポートと写真を照合しています。人間であれば相手の表情が変わっても同一人物だと判断できますが、機械にはそれが容易ではありません。

彼女は次のように述べています。

「アルゴリズム(計算手法)の働き方は人間とは異なります。3Dの顔と2Dのパスポート写真を比較するために、瞳孔間の距離や耳、鼻、口の位置、口や目の幅などの顔の特徴を確認し、測定する必要があります。笑顔になると顔の比率が変化し、認識が難しくなるのです」
 

国際基準に基づく規定

前述の国務省報道官によると、国際民間航空機関は、渡航書類に関する世界共通の基準と推奨措置を定めており、その中にはパスポート写真の表情に関するガイドラインも含まれています。

同報道官は、誇張された表情の写真は即座に本人確認を行うことが難しくなると述べました。また、アメリカは過去数十年にわたり、同機関が定める写真要件に基づいてパスポート審査を行ってきたと説明しています。

一名男子手持美國護照。(Shutterstock)
アメリカのパスポートを手にする男性。(Shutterstock)

ナストロ氏は、顔は長年にわたり国際民間航空機関の生体認証基準の中心であり続けているものの、コンピューターによる顔認識能力には限界があるため、無表情が「絶対的な原則」として扱われるようになったと述べています。

また、パスポート申請の遅延や却下の原因として最も多いのは写真の規格違反であり、どれほど魅力的な笑顔の写真であっても却下される可能性があると指摘しています。

彼女はこう語っています。「できるだけ早く審査を通過したいのであれば、無理に冒険せず、無表情の写真を提出するのが最善です」

一方で、現在の国際標準パスポート制度が第一次世界大戦後に導入される以前は、パスポート写真に対する規制はそれほど厳しくありませんでした。

旅行情報サイト「The Points Guy」の上級編集者マディソン・ブランカフロール氏は、「パスポート写真が常に今のように厳格だったわけではありません」と話しています。

彼女によると、パスポートに写真が導入された当初は制限がほとんどありませんでした。インターネット上で見ることのできる古いパスポート写真には、楽器を演奏している人や、目立つ帽子をかぶっている人の姿さえ見られます。しかし時代が進むにつれて、安全対策を強化するために、当局はパスポート写真に関する規定を次第に増やしていったのです。

(翻訳編集 井田千景)

陳俊村