腸内細菌が薬の効き目を変える? 一部の処方薬で新研究

2型糖尿病、片頭痛、うつ病などの治療に使われる一群の薬は、体内で経口薬を代謝するのに関与する特定の腸内微生物の影響を受ける可能性があります。

Gタンパク質共役型受容体(GPCR、細胞の表面にあり体内の情報伝達を担うタンパク質)を標的とする薬は500種類以上あり、これはアメリカ食品医薬品局(FDA)にすでに承認されている薬全体の3分の1以上を占めます。さらに337種類の薬が現在臨床試験中です。

『ネイチャー・ケミストリー』誌に掲載された研究では、127種類のGPCR標的薬を、ヒトの腸内でよく見られる30種類の細菌株と反応させ、それらの薬がどのように代謝されるかを測定しました。その結果、12のケースで薬が別の化合物に変化しました。そのうち5種類の薬は完全に代謝されて薬の効果が低下し、3種類は完全に代謝されたものの薬の効果が高まりました。また、4種類の薬については薬の効果に変化は見られませんでした。

この研究結果は、薬の効果が人によって異なる理由を明らかにするものであり、病気やその治療法についての理解を深める手がかりとなります。ただし、こうした複雑な関係性を包括的に理解するには、遺伝・年齢・食生活などの要因も含めたさらなる研究が必要です。新しい薬を服用する前や中止する際は、必ず医師に相談してください。

本研究の第一著者であるピッツバーグ大学薬学部のウー(Qihao Wu)博士は、ニュースリリースの中で次のように述べています。「GPCR標的薬が腸内細菌叢とどのように相互作用するかを理解することは、個別化医療を進めるうえで非常に重要です」

「この研究は、すべての人がより効果的かつ安全な治療を受けられるようにするための、薬の設計や治療の最適化に新たな道を切り開くものです」

研究の詳細 127種類の薬で何が起きたか

ウー博士はこの研究を最初にイェール大学で始めました。ウー博士はイェール大学の研究チームとともに、試験管内で人間の腸内微生物群を再現し、そこに127種類のGPCR標的薬を一つずつ加えていきました。

その後、これらの薬が腸内細菌によって化学的に変化するかどうかを測定しました。これには、代謝の過程で生成される化合物、すなわち「代謝産物」の特定も含まれます。代謝産物とは、体内、あるいは腸内細菌などの微生物によって作られる分子のことです。

この細菌の混合物は、127種類のテスト薬のうち30種類を代謝しました。その中で12種類は大きく代謝され、薬の元の濃度が低下し、元の薬は他の化合物に変化していました。
 

腸内細菌叢が薬の効き目を左右する理由

著者らは、口から摂取する薬の代謝において、腸内細菌叢が重要な役割を果たしていることを示す証拠が増えていると指摘しています。腸内細菌叢は、薬の効果にも影響を与える要因となっています。

著者らは「腸内微生物叢と薬の相互作用は、治療結果や患者の健康に影響を及ぼす」と指摘しています。

この点は、研究者たちが特に代謝の程度が高かった薬であるイロペリドン(海外で承認されている抗精神病薬)を詳しく調べたことで示されました。研究では、イロペリドンが完全に代謝され、薬の効果が低下することが確認されました。イロペリドンは統合失調症およびI型双極性障害の治療に使用される薬です。

研究チームは、実験室とマウスの体内において、モルガネラ・モルガニーという細菌株がイロペリドンを複数の化合物に変化させ、それに伴って薬の活性が失われることを発見しました。

統合失調症の患者が効果の低下したイロペリドンを服用した場合、症状が再発する可能性があり、妄想・幻覚・言語の混乱・支離滅裂な言動・行動の異常といった症状が現れるおそれもあります。
 

腸内細菌と経口薬の関係

ウー博士は、今回の研究で用いた手法は、他の薬や食品、サプリメントにも広く応用できると述べています。これにより、それらと一般的な腸内細菌との相互作用を調べることができます。

研究によると、他の種類の薬も腸内微生物の影響を受けている可能性があることが示されています。

『Pharmacotherapy』誌に掲載された心血管系の薬と腸内微生物叢に関する総説では、両者の間に双方向かつ多面的な関係があると指摘されています。

微生物は薬を変化させ、活性化・不活性化、あるいは毒性を持つ代謝物を生み出すことがあります。

一方で、薬が微生物叢に影響を与え、微生物の代謝を変えたり、細菌の増殖に影響したりすることもあります。これによって、微生物叢の構成や機能が変わり、結果として薬の作用の仕方にも影響が及びます。

アスピリン、スタチン系薬剤、ジゴキシンは、微生物叢との相互作用について十分な証拠がある薬です。スタチン系薬はGPCRを標的とした薬ではありませんが、一部の心血管薬、たとえばβ遮断薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬は、GPCRを標的としています。

著者らは、微生物叢を調べることで薬の反応を予測したり、さらには微生物叢を調整することで薬に対する反応をより理想的なものにできる可能性があると述べています。

総説の著者らは、次のようにも記しています。「私たちの微生物と薬の相互作用に関する理解は、まだ氷山の一角にすぎないかもしれません」

「腸内微生物叢は、個別化医療の鍵となりつつあります。現在得られている証拠は、多くの心血管治療薬が腸内微生物叢と強い相互作用を持っていることを示しています」
 

急拡大するGPCR薬市場

GPCRはすべての細胞の細胞膜に存在し、細胞と体の他の部分との間で信号を伝える働きを持っています。GPCRは体内の多くのプロセスを調節しているため、医薬品治療において重要な役割を果たしています。

2023年、糖尿病や肥満症の治療を目的としたGPCR標的薬の売上高は、合計でおよそ300億ドル(約4兆5,000億円)に達しました。『ネイチャー・レビュー・ドラッグ・ディスカバリー』誌に掲載されたある総説によると、代謝性疾患・がん・免疫学の分野でGPCR標的薬の臨床試験が増加しているといいます。

GPCR標的薬には、まだ開発されていない大きな可能性が残されています。同誌に掲載された別の記事では、このスーパーファミリーが主に糖尿病・肥満症・アルツハイマー病・精神疾患を対象としており、新薬の発見と開発を力強く後押ししていると指摘されています。

(翻訳編集 華山律)

イリノイ大学スプリングフィールド校で広報報道の修士号を取得。調査報道と健康報道でいくつかの賞を受賞。現在は大紀元の記者として主にマイクロバイオーム、新しい治療法、統合的な健康についてレポート。