アングル:増える「コロナ切り」、日本の外国人労働者に生活不安

村上さくら

[津市(三重県) 8日 ロイター] – 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自動車メーカーなどの工場で生産縮小が行われるなか、職を失う外国人労働者が増えている。政府は正確な数を把握していないが、雇用の調整弁として最初に切られる外国人の失業は、金融危機時以上の規模に拡大するとの見方もあり、生活の不安が強まっている。

三重県津市で、職を失った外国籍の工場労働者たち、彼らを支援する労働組合に取材した。

8年前にブラジルから日本に来たヤマシタレナンさん(31)は、雇用保険関連の申請書に必要事項を記入していた。職を失うのはこれで9回目か10回目。もう回数も忘れてしまったほどだ。

数週間前、彼は三重県にある自動車部品工場を解雇された。そこではたった4カ月しか働いていなかった。「必要な時に雇い、必要なくなったら解雇する。とてもシンプルな話」。ヤマシタさんは語る。

労働組合、労働弁護士やNPOは、ヤマシタさんのような外国人労働者は「コロナ切り」と呼ばれる雇用調整の中で、真っ先に職を失っており、外国人労働者の解雇は2008年の金融危機時に匹敵する規模に広がるのではないかと危惧している。

日本総合研究所は先月、日本の国内総生産(GDP)が25%減少した場合、失業率は5%まで上昇し、約200万人が失業するとの試算を発表した。

3月と4月に、三重県の労働組合「ユニオンみえ」には、コロナ関連で約400件の労働相談があり、そのうち330件ほどが外国人労働者からのものだった。ユニオンの代表・神部紅氏は「外国人労働者が優先的に切られている。確実にそういう選別、順列はつけている。なぜかといったら、切りやすいから」と語った。

三重県では昨年、外国人労働者の34.5%を派遣社員が占め、これは全国平均(雇用者全体に占める派遣の割合)の2.5%を大きく上回っている。「企業からしたら切るための存在。こういう時、今切らないでいつ切るの、という論理。まさに調整弁として使っている」。外国人労働者に対する雇用者の見方について神部氏はこう指摘する。

<最初に切られる外国人労働者>

日本社会はますます外国人労働者への依存度を強めている。65歳以上が人口の3分の1を占め、生産年齢人口が急速に減少するなか、政府は外国人労働者の受け入れへの門戸を開くため、新たな在留資格を創設するなどした。

2019年10月時点で、日本で働く外国人は160万人以上に上り、2008年の4倍に増えた。

厚生労働省では、コロナウィルスに関連して解雇された外国人労働者の数は体系的に把握していないとしている。それでは現状を把握できないのではないかとのロイターの問いに、同省担当者は「我々としては(日本人と外国人を)分け隔てなくやっており、どちらにせよしっかり就職に向けて支援するというスタンス」だと答えた。

厚労省は今年度の補正予算で、窓口やオンラインでの多言語による外国人労働者に対する雇用相談支援体制の強化に3億7000万円を計上した。

しかし、ほとんどの外国人労働者は、政府に助けを求めない。4月半ば時点でユニオンみえは3-4月に数百件もの労働相談を受けているのに対し、三重労働局では7件の相談しか受けていないとしている。

日系ブラジル人の中尾カオリさんは派遣先だった自動車関連の工場を3月末に解雇され、ユニオンみえに助けを求めた。4人目の子どもを妊娠中だった。

中尾さんはユニオンのメンバーたちと、働いていた三菱重工サーマルシステムズの枇杷島工場と、同社事務所の前で抗議活動を行った。

三菱重工サーマルシステムズはロイターの取材に対し、同社が労働組合法における「使用者」ではないことを理由に「本件に関しコメントする立場にない」と回答した。

中尾さんは「私にお金はもうゼロ。子どもたちのおむつとか食べ物とか、何もできない」と生活の苦しさを語った。

ヤマシタさんは求職活動を続け、数週間前に別の自動車部品工場で募集を見つけた。

雇用は3カ月契約かそれ以下。それでもヤマシタさんは、何もないよりましだと面接を受け、これで職探しも一息つけることを願っていた。

しかし、その後かかってきた電話で、彼のわずかな希望は失われた。

「われわれは最初に切られる」。ヤマシタさんは言う。「それはもう、わかっている」。

 

(翻訳:宮崎亜巳  編集:石田仁志)

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