低価格で入手しやすいステロイド剤が、新型コロナウイルス重症患者の治療に効果を発揮するかもしれません。
7月17日、新型コロナウイルスの様々な治療法について比較臨床試験を行うイギリスの研究グループが、新型コロナウイルス重症患者の回復にデキサメタゾンが効果を示したという予備報告を発表しました。
ステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンは、糖質コルチコイドと呼ばれる抗炎症、免疫抑制効果のあるホルモンの一種です。
米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」で発表された報告によると、「新型コロナウイルスで入院した患者にデキサメタゾンを投与したところ、人工呼吸器もしくは酸素吸入を必要とする患者の死亡率が低下した。呼吸補助を必要としない患者への効果は確認できなかった」ことが明らかになりました。
この研究では患者を無作為に2つのグループに分け、デキサメタゾンの投与を受けた患者2,104人と通常治療のみを受けた患者4,321人を比較しました。
その結果、投与開始から28日後の死亡率は、デキサメタゾンを投与したグループの23%に対し、通常治療のみのグループは26%と高くなることが判明しました。
その内、人工呼吸器を付けた患者について比較すると、デキサメタゾン投与グループの死亡率は29%であったのに対し、通常治療グループは41%にものぼりました。
また、酸素吸入(気管挿入をしない)を必要とした患者については、デキサメタゾン投与グループの死亡率は23%、通常治療グループは26%でした。
呼吸補助を必要としない患者について比較すると、デキサメタゾン投与グループの方が死亡率が高くなるという結果になりました。
この臨床試験は、新型コロナウイルス治療法を解析するためにイギリスが国主導で取り組んでいる「RECOVERY Trial」の一環として行われ、オックスフォード大学、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、医学研究協議会などの団体が出資しています。
6月に発表された報告では限られたデータしか開示されませんでしたが、今回の研究発表ではデキサメタゾンに関する全データが公開されました。
同研究グループは先月、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの臨床結果についても報告し、新型コロナウイルスに対して効果がないことを明らかにしました。また、HIVに使用されるロピナビル・リトナビルの配合薬についても、臨床的有用性が確認されなかったことを発表しています。
同研究グループはその他にも、抗炎症剤トシリズマブ(リウマチなどの治療に使われる)、新型コロナウイルスから回復したドナーの血液から採取された血漿(けっしょう:血液に含まれる液体成分で血液の55%を占める)を利用した回復期血漿療法、ヒドロキシクロロキンと併用して広く使われている抗生物質・アジスロマイシンなどの解析にも取り組んでいます。
いまだに世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。その治療法の確立が待たれるばかりです。
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