「コロナ断捨離」で大混乱、中古衣料のリサイクルが麻痺

[マドリード/ナイロビ 30日 ロイター] – 衣料品リサイクル産業は、流行の衣類を低価格で販売するファストファッションの成長に伴う衣料品の大量廃棄を食い止める役割を担ってきた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で業界全体が大きな混乱に見舞われ、こうした「安全弁」としての機能を失いつつある。

中古衣料品は、先進国でコロナ巣ごもりによる「断捨離」の広がりにより在庫が積み上がる一方、そうした中古衣料のニーズがある発展途上国は感染防止のために輸入が一時ストップして在庫不足に陥っている。

混乱の兆しは随所に見られる。ロンドンやロサンゼルスなど各地で、多くの衣料品リサイクルショップや街角の回収ボックスにさばききれない衣料が集まり、倉庫には商品が山積みとなっている。

年初に新型コロナ流行が始まってからというもの、ロックダウンで移動が制限され、海外の末端市場で取り引きが落ち込んだため、衣料品のリサイクル業者や輸出業者は価格の引き下げを余儀なくされた。多くの業者にとって衣料品リサイクルはもはや商売として成り立たなくなり、商品を動かす余裕がなくなっている。

英中部スタウアブリッジで衣料品リサイクル事業を営むアントニオ・デカーバローさんは6月、顧客に「倉庫にこれ以上商品が入らない」と伝え、買い取り価格引き下げを求めた。

デカーバローさんによると、海外のバイヤーへの売却価格が5月以降、1トン当たり570ポンド(726ドル、約7万6500円)から400ポンドに下がり、買い取りや保管のコストが賄えなくなった。海外のバイヤーから、支払いまでの期間を15日間から45-60日間に延長するよう求められたことも資金繰りの悪化に拍車を掛けたという。

デカーバローさんは「大きな赤字を垂れ流している。操業しても赤字だ」と話した。

 

<相次ぐ人員削減や廃業の動き>

 

デカーバローさんのような状況は業界のあちこちで起きており、新型コロナの流行が収まっても取り引きの回復には時間が掛かりそうだ。

ロイターが英国、米国、ドイツ、オランダのリサイクル業者16社を取材したところ、中古衣料品回収ボックスの撤廃、ボックスを空にする頻度の削減、従業員解雇の検討などが進んでいることが分かった。

皮肉なことにコロナ巣ごもりの「断捨離」で中古衣料品のリサイクル店への持ち込みは増えている。

米国の中古衣料品リサイクル業界団体の幹部、ジャッキー・キング氏は「この100年間に起きたどの景気後退とも違う。廃業する会社が出てくるだろう」と話した。

一方、中古衣料品の輸出は今年に入って落ち込んでいる。国連の統計によると、2019年までの5年間の世界の中古衣料品輸出は年平均40億ドル強に達していた。

公式統計によると、英国は3-7月の中古衣料品の輸出が重量ベースで前年同期の半分程度に減少した。7月は国際的な往来の再開を受けてやや持ち直したが、それでも前年を30%下回った。

政府統計によると、米国の3-7月の中古衣料品輸出は金額ベースで前年同期から45%減った。米国は中古衣料品の輸出が世界最大で、リサイクルショップに持ち込まれた中古衣料品の3分の1が発展途上国で販売されている。

 

<ケニアの苦悩>

 

中古衣料品輸出の落ち込みは、ケニアなど遠く離れた発展途上国のリサイクル業界に影響を及ぼしている。ケニアの2018年の中古衣料品輸入は17万6000トンで、これはジーンズ3億3500万本分に相当する。

ケニアの首都ナイロビのキコンバ市場は東アフリカ最大級の中古衣料品市場だが、店員は手持ち無沙汰な様子だ。業者は商品の供給不足と新型コロナによる客足の落ち込みというダブルパンチを食らっている。政府がコロナ感染拡大への懸念から3月に中古衣料品の輸入を禁止したことが供給不足を一段と悪化させた。

ジーンズや帽子を扱っているニコラス・ムツィシャさんは「コロナ流行前は1日で少なくとも50本のジーンズを売っていた。今はコロナのせいで1本売るのも難しい」と話した。商品を直接仕入れることができず、他の小売店から買っているという。

国内の業者や欧米の業界団体の圧力を受けて、ケニア政府は8月に中古衣料品の輸入禁止措置を撤廃した。業界団体らは、衣料品に付着した新型コロナウイルスはアフリカまでの長旅の間に死滅すると訴えた。

ただ、ケニアの中古衣料品リサイクル業者は苦境が続いている。こうした店舗でドライバーとして働くアンソニー・カンゲサさんは、5人の従業員が2人に減ってしまったと話した。

 

<ファッション業界の負の側面>

 

中古衣料品が欧米から新興市場へと大量に流れるようになったのは1990年代。アフリカや東欧で西側ファッションの需要が高まったためだ。

こうした需要はファストファッション市場の急拡大にとって不可欠な「安全弁」となっている。循環経済の推進を掲げるエレン・マッカーサー財団によると、ファストファッション業界の生産量は過去15年間で約2倍に膨らんだ。

国連環境計画によると、ファストファッション産業は水資源の消費が世界で2番目に多い。二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体の10%に上り、飛行機の国際便と船舶輸送の合計を上回る。

一方で衣料品はごみの大部分を占める。その比率は高まりつつあり、こうしたごみは最終的に埋め立て処分となる。

英環境監査委員会の2019年の議会報告によると、英国は国民1人当たりの衣料品購入が欧州で最も多く、1980年代の約5倍に達した。埋め立てや焼却処理される衣料品は年間約30万トンに上るという。

米環境保護局(EPA)によると、米国で発生する衣料品ごみは年間1700万米トン弱で、その3分の2が埋め立て処理されている。

「ザラ」などのブランドを展開するスペインのインディテックス<ITX.MC>やスウェーデンのH&M<HMb.ST>などファストファッション大手の多くは、不用な製品の回収を顧客に呼びかけており、H&Mは中古品を持ち込めば新品を値引きするサービスも行っている。

インディテックスの広報担当者によると、同社が回収した中古衣料品のうち海外市場で販売されるのはほんの一部だという。

キングス・カレッジ・ロンドンの研究者、アナ・スミス氏は衣料品の廃棄について、「問題は大きくなるばかりだ。消費がどんどん増えている」と話した。

 

 

(Sonya Dowsett記者 George Obulutsa記者)

 

9月30日、衣料品リサイクル産業は、流行の衣類を低価格で販売するファストファッションの成長に伴う衣料品の大量廃棄を食い止める役割を担ってきた。写真は29日、英スタウアブリジッジの倉庫に積みあがったリサイクル衣料品(2020年 ロイター/Phil Noble)

 

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