バングラディシュ、中国支援の深水港を中止 日本のプロジェクトを進める
バングラデシュ政府は、同国南東沖のベンガル湾に面するソナディア島に予定されていた中国投資の深水港の開発を正式に中止した。ここから25キロほどしか離れていないマタバリ地区で、同様の深水港を日本の共同事業体が建設しており、日バ両国は計画を進めている。
10月中旬、バングラデシュの官房長官は、「生物多様性への悪影響」という環境問題を理由に中国資本のソナディア深水港の中止を発表した。同時に、日本によるマタバリ港は建設を進めると述べた。
複数の専門家は、環境問題は一因であるかもしれないが、地政学的な理由が中止の主因であったと考えている。
ウェブ雑誌「ディプロマット」10月12日付の記事によれば、ソナディアの深水港の建設は2006年に考え出された。中国は、資金調達のための融資や港湾建設の支援を約束した。2014年7月にシェイク・ハシナ首相が訪中した際、プロジェクトの合意文書に署名する予定だったが、見送られた。2016年10月に習近平氏が首都ダッカを訪問した際は、議題にも上らなかったという。
習氏訪問時には、バングラデシュに対するインフラ開発の融資を中心に計27件の経済協力の覚書に調印し、200億ドル(約2兆円)相当と報じられてきた。しかし、実際には約束はほとんど履行されておらず、27件のうち2019年2月までに5件の融資契約が動いただけで、実際に拠出された資金は5億ドルにとどまる。
インド側は、中国資本の深水港の建設に警戒心を抱いていた。インド紙タイムズ・オブ・インディアは以前、同じ南東部に商業深水港2つは必要性がなく、インド太平洋地域で拡張主義をとる中国側の動きを警戒していると報じた。
いっぽう、バングラデシュで20あまりのプロジェクトを請け負う日本工営は9月29日、マタバリ港の開発事業を地元港湾庁から受注したと発表した。日本政府の有償資金協力を受けて、商業港を整備する。総事業費は860億円と報じられている。
バングラデシュの港湾は、水深最大9.5メートル程度の浅い港が海上貨物の9割を扱っている。このため、コンテナ船はシンガポールやスリランカなどで積み替えて入港し、取引コスト高や遅延を招いていた。
日本が整備中のマタバリ港によりコンテナ搭載船など大型船の着岸も可能となり、同国の経済発展を支援できる。さらには、バングラデシュの貿易を後押しするだけでなく、ブータンやネパールなどの内陸国やインド東北部などの地域的な積み替えハブ港としての役割が期待されている。
日本は、総額約5000億円におよぶ日本の大型円借款案件を結び、南西部のマタバリ超々臨界圧石炭火力発電所と深水港の開発を進めている。共同受注者である住友商事によると、2024年中には発電所1号機・2号機が完成予定だという。
これらのプロジェクトで、日本は建設現場で数千人を雇用している。住友商事は日本官製資料のなかで「建設現場では数千人が働き、マタバリの村も商店が増えるなど、開発前より豊かになったようだ」と考えている。
インドは、中国資本のソナディア深水港が中止されたことに胸をなでおろしている。一部の報道では、ベンガル湾に位置する中国資本の港の建設は、印日米が反対を伝えていたという。
ディプロマットの記事によれば、インドは、中国がスリランカと同様に、バングラデシュに対しても債務トラップを仕掛けて、戦略的インフラを引き渡すよう圧力をかけるのではないかと懸念していた。こうした拡張主義が、国の安全保障に悪影響を及ぼすと考えていた。
日米印豪のインド太平洋戦略的枠組み「クアッド(QUAD)」でも、安全保障の協力を深める日本の計画ならば、インドから、このバングラデシュの計画に反論はおきていない模様。日本による深水港は2025年までに完成する見込み。
インド側は中国の動きを引き続き警戒している。インド紙エコノミック・タイムズは、近隣諸国の港湾や空港といった戦略インフラを構築する中国の動きに、ニューデリーは注視していると伝えている。
(翻訳編集・佐渡道世)