師父は、ウェンシーが自分の言ったことに一切恨み言も言わず、黙々と謹厳実直にやり抜くのを見て、内心驚きを禁じ得なかった。「この怪力君は、まことに不撓不屈で、行い難きを行い、忍び難きを忍ぶことのできる大丈夫の強者だ。実に、称賛に値し、心を打たれる」。師父はこのように深く感銘を受け、人の見ていないところでしばしば涙を流していた。
日一日と過ぎ、ウェンシーの背中の傷は次第に大きくなり、最後には耐えられないほどになったので、師母のところに行って言った。「師母、わたしの背中の傷は耐えられないほどになってしまいました。どうか先生のところに行って、先に法を伝えてもらえないか、あるいは少し休養して傷を癒してもいいか、うかがっていただけないでしょうか?」
師母がウェンシーの話を師父に取り次ぐと、「工事が終わらないうちは、法は絶対に伝えない!そんなに背中の傷が痛むなら、数日休めばいい」と師父は答えた。
師母は師父の話をウェンシーに伝えたが、彼の実直さを知っていたので、「少し休みなさい。急ぐことはないから。背中の傷が癒えたら、また工事に戻ればいいじゃない。そうでないと、背中の傷がもっとひどくなったら、そのうち体がいうことをきかなくなるわよ」と諭した。
ウェンシーはこうして休養をとることとなったが、それは工事を始めて以来、数年ぶりの初めての休みであった。師母はウェンシーのことが愛おしく、おいしいものを差し入れては、彼を慰めた。こうして彼はやっと、どうしても法を得られない心を落ち着かせることができたのだった。
しばらくして背中の傷がよくなると、師父がまたやってきた。
「おい怪力!すぐに工事に戻れ。時間を無駄にするな!」。師父はやって来るなり、ウェンシーにこのように命じるだけで、法を伝えることについては一言も触れなかった。
ウェンシーは師父の話を聴くと、すぐに工事に取りかかる準備をした。
しかし、師母は、このいわれなくつらい目にあい続ける好青年が愛おしくて仕方がなかった。彼女は内心腑に落ちなかった。師父は、いつも人にはおしなべて慈悲深く温かく接しており、自分の前を通りすぎる犬にさえその福を祈っている。「私が生死を顧みずインドへ法を求めに行ったのは、ただただ衆生済度のためだ」と常々口にしていたのに、なぜあの怪力君にだけは筋の通らないことをやらせ、情のかけらもなく接するのか?いわんや怪力君は、これまでの弟子のなかでも最高だ。彼女にはどうにも理解できず、師父への恨みの念を禁じ得なかった。そのため、怪力君がいっそう愛おしくかわいそうに思えたのであった。
彼女は、ウェンシーがまた師父の話を受け入れ、背中の傷が癒えきらないうちに、また工事に戻ろうとしているのを見て、嘆息し独り言を禁じ得なかった。「ああ、あんなに良い子がまたあんなに苦労して、それでいて法を得られないのは、見るに忍びないわ。どうにかして、これ以上彼に苦労させないような方法を考えてあげなくっちゃ」
彼女はある計略を思いついた。ウェンシーを呼びつけると、「あなたはここを離れるふりをしなさい…こうして、こうしてね」と言った。それは、二人で師父の前で演技をし、師父からウェンシーに法を伝えさせようとするものであった。
(続き)
(翻訳編集・武蔵)
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