その晩、ミラレパは師父の部屋にやってきて、師母もまた一緒であった。師母は、あくる日の早朝に彼を送らねばならないと思うと、涙を隠せなかった。
「ダメマ!おまえは、なぜ泣いているのだ」、師父が師母に言った。「怪力君はすでに道統の奥義にあたる口訣と灌頂を得たのだ。これからは専心して修行しに行くのだ。おまえは彼のために喜ぶべきなのに、なぜ泣くのか?」
「人身が得られても、正法を得られない人こそ、悲しむべきことだ。こういった人たちは、本当に惜しい人たちで、もし彼らのために泣いていたら、一晩だけでは泣ききれないぞ」
「先生のお話は間違っていません。しかし、誰があのように時々刻々と正念を保持できるでしょうか。怪力君は、師父母に対して言えば、絶対に従順で、これまで少しも間違いを犯してきませんでした。よくない考えを抱くこともなく、信心、智慧があり、慈しみもある弟子です。それが今離れようとしている。私はこれまでこのように素晴らしい弟子を見たことがありません。これが悲しまずにいられましょうか」
師母は語れば語るほど心苦しくなり、涙が止まらず、後には大泣きして語れなくなった。
ミラレパもまた堪らなくなって大泣きした。師母は実の母親のように彼を愛し、師父の恩愛は天より高かった。このような生き別れになって、師父も耐え切れずにまた涙を拭った。師弟三人は名残惜しく、時に感傷し、時に嘆き、時に涙し、誰も何も話すことができず、こうしてその晩は過ぎていった。
あくる日、皆が法会の供え物をもってきて、師父と弟子の十三人がミラレパを十数里先の路まで送った。最後に、ミラレパは師父母に挨拶し、皆も名残惜しそうに別れた。
ミラレパは皆と別れた後も、何度も後ろを振り返った。見ると、皆がまだ涙を流しながら、彼の方を望んでいた。実際には耐え切れずに何度も振り返っていたが、彼が山道の湾曲した所に入ると、もう師父母は見えなくなっていた。
それから少し行って、小川を渡った後にまた振り返ってみると、師父母と送っている人たちがまだわずかに見えた。彼らはまだ依然として、彼と別れた方向をじっと見ていた。刹那、ミラレパはまた戻りたい衝動に駆られたが、その思いを翻した。「わたしはすでに佛になる口訣と灌頂を得ている。師父の話に照らして修行に励めば、師父とともにいることと同じことだ。将来もし、修行が成就して、佛になることができたら、また浄土で師父母と会うこともできよう。それに、郷土に帰って母を訪ねた後、また師父の所に戻ってもいいのではないか」、彼はこのように考えて、感傷を抑えて振り返らず、一路故郷を目指した。
このとき、ミラレパの脚は行く雲の如く軽く、十五日の道程を三日で走破してしまった。彼は師父が顕した神通を思い出した。彼にはすでに一般人を凌ぐ能力が具足していたのだ。彼は舞い上がって思った。「修行は本当に素晴らしい。法を得て修めた後に得られる能力は、本当に恐るべきものだ」。彼はこうして修煉の信心と決心とをさらに深くしたのであった。
(続く)
(翻訳編集・武蔵)
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