輪廻転生(リーインカーネーション)――肯定するにしても否定するにしても、人びとを引き付ける永遠のテーマではないでしょうか。児童精神科医でもあるアメリカ合衆国ヴァージニア大学のジム・タッカー博士は、「脳や肉体の死後も意識は生き残り続ける。意識は前世の記憶を保ったまま、次の人の脳に張り付いてく」といった見解を述べています。
断言は出来ませんが、「意識」よりも、むしろ『魂』と東洋では捉えているのではないか――と思います。そこで、中国清朝時代のお話を一つご紹介します。
上海の町外れにある農村に貧しいお百姓の老人が住んでいました。野良仕事に疲れ熟睡していたある晩、裁判官の衣服を身にまとい威厳のある姿をした一人の男が、夢の中に現れました。
すると男は「お前の命は、今月の17日に尽きる。しかし、今生、お前は苦労しながらもまじめに働いた。その報いとして、来世、裕福な家の息子として生まれ変わる。次の人生は苦労もなく平穏になるだろう」と、老人に告げました。
その12日後、ふたたび夢の中に男が現れ「すまんが予定の日が早まった。お前の魂が宿ることになっている赤ん坊が、すぐにでも生まれそうなのだ。魂が宿らなければその赤ん坊は生きることは出来ない。すぐに支度をしてもらいたい」と、言いました。
もし、自分が行かなければ、赤ん坊は死産になってしまうのだろう…と老人は悟り、家族にこのことを話しました。そして、布団に横になると眠るように亡くなりました。
18年の歳月が流れ、上海の裕福な家庭に生まれた金平は、昼夜勉学にいそしむ秀才の誉れ高い成人となりました。ある晩、科挙に向けた勉強をしている時、机に書物を広げながら、うとうとしてしまいました。
夢とも現実とも見境の付かない中、一人の老師が現れました。「立派になったのう」と、ニコニコと笑顔で老師は彼に向かって言いました。また「前世の約束だったからのう」とも言いましたが、彼には何のことか判りませんでした。
頭に何か衝撃を感じたと思った瞬間、眼前に大きく視界が開けました。そこには真夏の炎天下、泥の付いた手で汗をぬぐいながら野良仕事をしている老人の姿が現れたのです。これは自分ではないのか……金平の前世の記憶が蘇りました。
その後、仕官することなく近隣の世話役となり、学識を活かしては貧しい人びとを助け、多くの人に慕われながら、長寿を全うしたそうです。
(翻訳編集・郭丹丹)
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