つつめどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり(後撰集)
歌意「包んでも隠しきれずに外へもれてしまうものは、夏虫(螢)の身の内からあまって外へ出てしまうような、心の思い火でございますよ」。
詠み人知らずの歌です。「思ひ」と螢の「火」が掛詞になっているのは和歌の定番ですが、この一首については、そうした技巧の上手さよりも、この一瞬の光景の美が、実に卓越しているのです。
歌についている詞書をふまえて鑑賞すると、この歌は、「桂のみこ(孚子内親王)」の求めに応じて捕えた螢を、お側に使える女童(めのわらわ)が汗衫(かざみ、夏の薄衣)の袖に包んで差し出したときの歌だそうです。
夏の薄衣、女童、ほのかな螢の光。なんと美しい夏の夜の一コマでしょう。
(聡)
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