台中市にある済生中医診所(医院)の院長・張維鈞医師が、こんなお話をしてくれました。
「ある日、ご年配の患者さんが来院しました。長く農業に従事していた方でしたが、仕事を引退してから、自分の記憶力が低下していることに気づき、私のところへ受診に来られたのです」
張医師がいろいろ問診して分かったのは、その人は、肉体労働である農業を引退した後も、以前と全く同じ食生活をしていたことです。毎回の食事には、必ず大盛りご飯を2杯食べなければ気がすまないのだそうです。
記憶力の低下は「認知症の前兆」
ご飯、つまり白米がいけないということではありません。
体を多く使う仕事を引退した後も、食事の量を全く減らさなかったことが原因のようです。
確かに、これは認知症の前兆と見てもよい事例だったので、張医師は、食事の量と内容を調整するようアドバイスしました。
患者さんがそれを実行したところ、1週間ほどで記憶力の改善が自覚できたと言います。
認知症は、突然発症するケースはあまりなく、多くの場合、記憶障害や記憶力の低下など、いくつかの前兆となって現れます。
その時点で自身や周囲が気づき、食事の改善や生活リズムの調整などの適切な方法をとることによって、認知症の発症を回避または大きく遅らせることが可能です。
特に、毎日3回の食事のうち、主食であるデンプン類を食べ過ぎてはいけません。
しかし、人は「食べたい」「食べられる」「残せない」という思考になりやすく、その結果、デンプン類を過剰に摂取してしまいます。それが直接的な原因ではなくても、長期にわたれば、記憶力の低下を引き起こす誘因になっているのです。
張医師の外来診療所では、そのような症例の多くがデンプン食に関連していたといいます。大量のデンプン質を摂取すると、血糖値が急速に上昇します。
張医師によると、グルコース(ブドウ糖)は脳の活動に必要な物質ですが、「高血糖になると、砂糖水に脳細胞を浸すようなもので、脳が炎症を起こす」と言います。脳がずっと「炎症」を起こしていると、記憶力が次第に低下するのだそうです。
「何を、どのように」食べたらいいでしょう?
一般的なデンプン類の食品といえば、どのようなものがあるでしょうか。
白飯、麺、饅頭(マントウ)、パン、小豆、緑豆、ジャガイモ、ヤマイモ、サツマイモ、カボチャ、トウモロコシ、ハトムギの実、アワ、レンコン粉、葛粉、キャッサバ粉、ビスケット、ケーキ、焼き菓子、お団子などなど。
こうして並べてみると、小麦粉製品や芋類が多いようですが、ここで最も評価したいのは白飯です。
張医師は、「デンプン質の食物が、全く食べられないわけではありません。食物の内容、および食事量のバランスが大切なのです。白米は小麦粉より優れています。ただし、ご飯の量は大盛りでも1杯が限度です」と強調します。
もしもあなたが中高年の人で「記憶力の衰え」を感じた場合、デンプン食を制限する食事法で、その問題が改善されるかもしれません。
張医師による、そのモデルプランを以下にご紹介します。
毎回の主食は白飯1杯が基本。または、五穀米や十穀米のご飯を1杯までにします。
肉類は、適量の「白い肉」つまり鶏肉や鴨肉から始めます。1カ月を過ぎたら、赤い肉(豚・牛・羊)を組み合わせ、白と赤を交互につかった献立にします。
卵は、1日に1個以上、必ず食べてください。魚は「食べ放題」としますが、油を多くつかうフライやソテーなどの調理法は、なるべく避けてください。
これらの食材からタンパク質を十分に摂ることによって満腹感が得られ、糖質を過剰に摂ることを避けられます。
「きちんと食べる」ことは変わりません
記憶力の低下を防ぐ食事として、地中海地方の食文化である「地中海食」が注目されています。その地中海食で多用されるのがオリーブオイルですが、この植物油が「健康に良い」というので、中国や台湾では高温の炒め料理に使う人もいます。
この点について、異なる見解をもつ張医師は、次のように話します。
「欧米では、オリーブオイルを直接野菜にかけて食べます。ところが、中国人はこれを高温の炒め物に使っています。これは不適切な使用法で、オリーブオイルは高温ですぐに酸化してしまい、しかも酸化した油脂は脳に与えるダメージが非常に大きいのです」
張医師は、中華料理に多い炒め物には、むしろ高温でも油質が変化しない動物油を使ったほうが良いと言います。
最後に1点補足しますが、デンプン質の摂取量は、あくまでも運動量に応じて調整すべきものです。つまり、行き過ぎた過食も少食も、いけないということです。
冒頭にお話しした患者さんのことですが、体を動かして農業の仕事をやっているならば、肥満にならない限り、ご飯をたくさん食べても良いのです。ただ、仕事を引退してからも食事の量が変わらず、特に主食から摂るデンプン質が多すぎたことが問題になったと考えられます。
逆に、日常よく運動をする人で、体がエネルギーを欲しているのに「デンプン質は食べない」という極端な考えをもってしまうと、あってはならないことですが、筋肉の減少による体力低下を招くことにもなりかねません。
ご自身の体の「声」によく耳を傾ければ、必要なものを、どのくらい食べたら良いか、聞こえてくることでしょう。
(文・蘇冠米/翻訳編集・鳥飼聡)
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